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渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

小説『スリップストリーム』

2021年05月24日 | open





泉優二作『スリップストリー
ム』を読む。
『ウインディー』シリーズの
第4作目だ。
主人公は元500cc全日本チャン
ピオンながらワークスライダ
ーの地位を捨ててプライベー
トで世界グランプリ250cc
クラスに挑戦する北山洋だ。
マン島でチャンピオンとなっ
た彼はこの作でワークスマシ
ンを駆ることになる。
恋人の英子は妊娠したため日
本に帰った。
洋は英子と離れ離れになり、
孤高のグランプリライダーと
して世界戦に挑む。

ただ、この北山洋が世界戦に
挑戦した1985年。
このあたりが「コンチネンタ
ルサーカス」の終焉の頃だ。
このことは「あとがき」にも
書かれている。
80年代中期以降、グランプリ
レースは競技というよりも、
完全に大企業の宣伝場所に変
質して行く。
そして、かつてはヨーロッパ
各国を転戦するグランプリで
のパドックは、ワークスもプ
ライベーターも関係なく家族
のように交流していたのに、
この作品の舞台の時代以降は、
皆がテントのチャックを閉め
て他者とは付き合わないよう
になって行ったのだという。
それまでは、コースでは火花
を散らすライバルたちも、レ
ースが終われば共に世界中を
旅するコンチネンタルサーカ
ス一座の仲間だった。
国家のしがらみも無かった。
彼ら各国の代表選手は、心に
国境も垣根も作っていなかっ
たのだ。
しかし、それは1980年代中期
から後半にかけて急速に失われ
て行くのだった。
世知辛いと一言で片付けるに
はあまりに一変するかのよう
に、ライダーとその家族同士
の意識的な繋がりも、実生活
での付き合いも、消えて行っ
たのが現実だった。
日本からのWGP出場選手で、
最後のコンチネンタルサーカ
スの体現者は、片山敬済氏だ
と云われている。
彼以降、プライベーターで世
界チャンピオンになった人は
いない。
1980年代はロードレースの世
界も頂点を極めるのだが、イ
ンディペンデント、それが失
われたのも1980年代だったの
である。

(1984年頃のコンチネンタルサーカス)













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