前作と同じく、非常に誤植脱
字が多く、校正がまったくき
ちんと仕事をしていないカド
カワの初版本だが(本当に驚く
程いい加減な校正仕事をして
いる。バブル時代のいい加減
な無責任さがよく分かる)、
作品自体は特筆モノだ。
「ウインディー」シリーズの
中で一番濃い。
レーシングライダーの心理描
写をどうしてレーシングライ
ダーではない作者がここまで
リアルに描けるのか。
一作目『ウインディー』の主
役は主人公ケイではなく、娘
のアンナだった。
涙無くして読めなかった。
やがてケイは不慮の交通事故
で死んだ。
三作目から主人公は北山洋と
なり、日本チャンピオンでワ
ークスライダーだったが、そ
の地位を捨ててプライベータ
ーとして世界GPに参戦する。
作品の整合性としては変な部
分も沢山ある。
杉本ケイがまだ生きていた頃、
北山洋はスポット参戦で世界
GPに来る。
その時には英語が殆ど話せな
い。
だが、翌年にはベラベラどこ
ろか、日本語と変わらない海
外生活30年人間のように英語
で話すのである。
たったの数ヶ月で。
そうしないと作品の会話とし
て成立しないのは分かるが、
あまりにリアリティに欠ける
ようにも思える。
それと、ウインディー2作目で
洋はケイと会っているのだが、
ケイの身長が高いか低いか知
らないというあり得ない描写
がこのシリーズ4作目の『スリ
ップストリーム』には出てくる。
出版の校正仕事の雑とともに、
原作のプロットにもいくらか
錯誤があるようだ。
校正のひどさとしては「ヘル
メット」を「ヘルメッと」と
したり「ジュース」を「ジュ
ー」としたり、あるいは、セ
リフの「」の改行がデタラメ
だったりと、もうほとんど校
正としての仕事をしていない。
こんなひどい出版小説印刷物
を見たことがない。
文豪作品の小説ではないから
と、校正担当者は作者を舐め
きっていたのか。
あるいは、校正の仕事を舐め
きっていたか。
さて、本作。
これまでの「ウインディー」
シリーズとはかな毛色が異な
る。
徹底的に、まるでレーシング
ライダーでなければ解り得な
いような心理描写を克明にこ
れでもかというくらいに描い
ている。
それまでの作品は「物語」だ。
映画の原作ともなることだろう。
しかし、この作品『スリップ
ストリーム』は映画の原作に
はなり得ないのではなかろうか。
それは実にリアル過ぎるからだ。
リアルを物語にすることはで
きない。すべては現実の写実だ
からだ。
現実の銃声はバキューンとはい
わないのだ。
この作品は文字での小説として
のみ成立する。
ドキュメンタリーを読んでいる
ようで、かなり私個人としては
辛くなる部分が多い。経験上、
いろんな点で。
「ウインディー」シリーズの中
で一番インパクトがある作品だ。
よくこんな小説が書けるなあ。
泉さんて、やっぱ只者じゃない
や。