サッカー狂映画監督 中村和彦のブログ

電動車椅子サッカーのドキュメンタリー映画「蹴る」が6年半の撮影期間を経て完成。現在、全国で公開中。

区会議員斉藤りえさんの手話に対する誤解などについて

2015年05月16日 | 手話・聴覚障害

『筆談ホステス』で有名になり、先月の選挙で東京都北区の議員に当選した斎藤りえさんのブログ(http://saitorie.com/blog/314/)を読んだところ、手話に対する大いなる誤解がありました。斉藤さんに対する個人攻撃をする気はまったくありませんが、今回のような誤解をきっかけにして正しい知識が広まっていくことを望みつつ書き込みます。
ちなみに昨夜、斉藤さんのブログを通じてご本人宛に連絡をいれたところご丁寧な返信をいただきました。おそらく近々に訂正がなされると思います。

何が問題だったのか整理します。
一番大きな問題は、聴覚障害者当事者として当選した区会議員が己の無知ゆえに間違った情報を(結果として)垂れ流してしまったことにあります。議員という公人の立場、しかも聴覚障害者の代弁者としても期待されている立場を考えると、あまりにも軽率なブログへの書き込みと指摘されても仕方ないでしょう。ブログを読んで瞬時に間違いだと気づく人もいますが、多くの方々は当事者の発言であるため鵜呑みにしてしまった恐れがあります。
また現在各地で手話言語条例が制定されつつあります。聴者の議員にも手話に対する正しい理解が求められているなか、聴覚障害者当事者の議員であれば、なおさら正しい理解が求められるでしょう。
ただ手話が出来る出来ないは関係ないと思います。もちろん手話ができるようになったほうが良いのはもちろんでしょうが、それよりも日本語とは異なる手話への概念的な理解がまず必要とされるでしょう。

次に内容をみていきます。
まず手話に関して言及している点です。斉藤さんは地元の手話サークルに行きそこでふれた手話への感想を書いておられます。

(以下、引用) 
手話には欠点もあります。
例えば、手話は1つ1つの言葉を文字で表すため時間がかかり、健常者の会話に手話がついていけないことがあります。
そのため、会話の速度を上げるために、「助詞」や「助動詞」を抜いて表すことが多いんです
「私はコーヒーが好きです」という会話が、
「私 コーヒー 好き」となり、
実は一部のニュアンスが抜け落ちてしまっていることもあります。
(引用、終わり)

ざっくりした言い方をすると日本の手話には日本手話と日本語対応手話と呼ばれているものがあります。
日本語とは異なる文法体系をもった言語である手話は日本手話のことです。その日本手話ではむしろニュアンスは日本語以上に表現できます。むしろそういったニュアンスを表現できることが特色でもあります。顔の各部位などを動員して表現します。表情豊かということとは異なります。どのくらい好きかという点も的確に表現できますし、主語が私であることや、好きなものがコーヒーであることも明確に表現できます。
「手話は助詞を抜いて表現することが多いからニュアンスを表現できない」ということは、「英語に助詞がないからニュアンスをうまく伝えられない」と言っているの同じくらいナンセンスなことです。
ブログに書かれているものは日本語対応手話、しかもたどただしい日本語対応手話でしょう。手話の初心者に向けて、「私」はこういう表現、「コーヒー」はこういう表現、「好き」はこういう表現と教えて、ただ無表情に顔の文法的な要素は無しで手話単語のみを表出した手話ということだと思います。初歩段階ではよくある風景です。(ブログにある特定の手話サークルを批判しているわけではありません。しかし他の多くの手話サークル全般に言えることですが、教え方にも問題はあると思います)。
確かに日本語対応手話は基本的には日本語を手話単語に置き換えていきますから聴者の会話についていけないこともあります。(なかには怒涛のスピードで手話単語を繰り出す通訳者もいます)。しかし日本手話の場合、複雑な日本語を一瞬で表現できることもあります。日本語は一つの口でしかしゃべれませんが、日本手話は右手と左手で自在に空間を使い、同時に顔でも表現できます。同時に表出できるがために手話にしてしまえば簡単ということもあるんです。もちろん日本語の方が簡単に表現できる場合もあります。
しかしある意味斉藤さんは、日本語対応手話の持つ限界を感覚的に感じ取ったのかもしれません。

 次に進みます。

(以下引用)
また、新しい単語には対応する手話がないことがよくあります。
今日の手話サークルで分かったことなのですが、「一輪車」を表す手話はないそうです。
一般的な名詞でも無い表現が多いようですので、きっと「政策に関する単語」はほとんどないのでしょうね。。。
(引用終わり)

確かに新しい単語に対応する手話がないことはよくあります。それは日本語でも同様です。海外から入ってきたものがそのままの言葉で使われることもあるし、新たに和製英語が作られることもある。そういったことはみなさんご存知でしょう。(例は古いですが『GOD』に対する日本語はなかったわけで、『神』と訳したことにより様々な誤解も生まれたという話もあります)。
各言語とも言葉は次々に新しく生まれてきます。逆に手話にはあるけれど日本語に対応していないものもあります。日本語に変換しにくい手話で手話学習者が苦労したりします。
またもちろん手話の側でも新しい言葉に対する手話単語が考えられたりします。そのなかでもろう者に定着するものと、ろう者から気に入ってもらえず消え去っていくものもあります。
政策に対する手話単語は次々に考えだされています。前述したように定着するものと定着しないものがあります。定着しない場合は複数の手話を組み合わせて表現したりすることになります。
ちなみに一輪車に相当する手話単語があるかどうかよくわからないのですが、簡単な手話表現で一輪車を表現することはできます。つまり対応する単語があるかどうかはさほど大きな問題ではないわけです。

さらに次に進みます。
私も以前の記事にも書きましたが、聴覚障害者で手話が出来ない方はたくさんいます。斉藤さんもその一人です。
斉藤さんはそのことにも触れられています。

(以下引用)
実は、聴覚障がいを持っている方の中にも、手話が苦手な方は大勢いるんです
聴覚障がい者はみんな手話ができる…というイメージを持っている方が多いと思いますが、実際は、手話ができる聴覚障がい者は、全体の14%程度
ほとんどの聴覚障がい者は手話ができません。
素直に申し上げますと、私も手話が苦手です。普段は皆様の口元の動きを見て、お話しを理解しています。
今後は毎週、手話サークルに通わせていただき、皆さんと一緒にお勉強していこうと思います!

さて、話は戻って、「手話ができる聴覚障がい者は14%しかいない」という点。
おそらく、多くの方は、聴覚障がい者はほぼ100%手話ができると思っていたことでしょう。
(引用終わり)

「手話ができる聴覚障がい者は14%しかいない」ということですが、その際の聴覚障がい者とは障害者手帳を所持している者ということになります。中途失聴者や老人性難聴がさらに悪化した方々を含む数字です。このあたりは個別に見ていかないと見誤ってしまうことになります。
聴覚障害者をざっくり分けてみます。
生まれつき、あるいは幼少(言語獲得期以前)より聞こえない聞こえにくい人々と、中途失聴者に分けて考えてみます。
まず生まれつき、あるいは幼少より聞こえない聞こえにくい人々ですが、主として親がろう者のなかで育てるか、聴者のなかで育てるかの選択をします。ろう学校やデフファミリー(家族がろう)で育った人たちは手話を習得します。(聾学校で手話が禁止されてきた歴史にはここではふれません。ろう学校では手話が禁止されていたとしても、ろうコミュニティで手話を身に付けたということになります)。
一方聞こえる人(聴者)のなかで一人育った者たちは手話に触れずに育ちます。斉藤さんもこの例だと思います。その人々のなかでもなんらかのろうコミュニティと出会い、20代、30代から手話を学び始め身に付ける人もいます。この人たちはいったん覚える気になれば猛スピードで手話を吸収していきます。ただその気にならない人が多いのも事実です。
一方中途失聴者と呼ばれる人たちがいます。失聴する年齢は様々ですが、ある程度の年齢以上で失聴したり、老人になって聞こえにくくなった人にとって手話を覚えるのは至難の業です。ことに日本語とは異なる文法体系を有する日本手話はなおさらです。年をとって外国語を覚えるのがむずかしいというのと同じようなことです。もちろん日本語対応手話を学ぶことによりうまく活用している人もいるでしょう。
聴覚障害者の14%という数字を持ち出す際、聴覚障害者に老人になって聞こえなくなったおじいさんおばあさんも含まれていることをイメージできる形で語らないと誤解が生まれると思います。またそこは分けて語られるべきだと思います。

当たり前といえば当たり前ですが、聞こえる人のなかで育ってきて手話に触れることのなかった難聴者は手話に関して無知な人も多いです。斉藤さんもこの例に相当します。
(もちろん聴者のなかで育っても何らかの形で手話を覚えた人もいます)

斉藤さんご自身も語られているように
「聴覚障がいひとつとっても、対応方法は1つではありません。」
ということです。
聴覚障害者で手話が出来ない人も多数いるし、したがって手話に関して無知な方も多いということです。責められるべき筋合いのことではありませんが、手話を覚えてほしいと個人的には思います。

斉藤さんには、手話の概念や全体像、手話を取り巻くものなどに関して是非勉強していただきたいと願っています。
ただ確かに聴覚障害者を手話という文脈だけで語ると抜け落ちるものが多々あるので、その点は斎藤さんが言うように注意すべき点でしょう。

慌てて書いたのでまとまりを欠いた文章となっているかもしれません。


ろう者サッカー 主審のフラッグとホイッスル そして手話でのコミュニケーション

2015年05月09日 | ろう者サッカー

 知的障がい者サッカーvsろう者サッカーの『歴史的な』一戦は、宇都宮さんが書いた記事が一時期はYahooニュースのトップ画面に掲載されるなど、多くのかたが知ることとなったようで何よりです。

 ひょっとしたら勘違いされるるかたも多いかという点に関して、少し書き込みます。

 審判はホイッスルとともにフラッグを使用し、ジャッジを聴覚、視覚両面で知らせます。ホイッスルの代わりにフラッグを使用するわけではありません。
 この点は品川区の広報、あるいはバルドラール浦安デフィオを取材した朝日新聞の記事にも誤りがあります。誤りがあった点を責めているわけでもなんでもありません。聴こえない聴こえにくい人々のことに関しては理解するのが難しい点がとても多く、「間違いがない方が珍しい」と言っても過言ではないかと思います。しかし間違い勘違いを通じて理解につながっていけば良いのではないでしょうか。下手に取り上げると間違う恐れがあるからやめておこう、となるのが一番恐ろしい状況だと思います。もちろん私自身も当初はわからないことだらけでした。

 主審のフラッグとホイッスルに関して、ろう者サッカー界の最大のイベントであるデフリンピック(ろう者のオリンピック)を例にとり説明していきます。
 デフリンピックのサッカー競技においても主審はホイッスルを吹き、フラッグを振ります。ホイッスルも必要だからです。選手のなかにはホイッスルの音がある程度聞こえる選手もいます。チームスタッフ、大会関係者、観客のなかにも、聞こえる人(聴者)がいます。そういった人々に向けてホイッスルも必要です。また試合では、主審のフラッグとともに、副審、ボールボーイもフラッグを振ります。出来るだけ多くの地点で視覚的にわかるようにしたほうが伝わりやすいからです。副審、ボールボーイ(ガール)は聴者が務めることが多いように思います。
 要するに音の情報が必要な人も多数いるわけです。

 次に選手の『聞こえ』に関して簡単に説明します。
 デフリンピックの出場資格は聴力レベルが55デシベル以上(裸耳状態=補聴器を使用しない状態)。そしてプレーする際は補聴器を外さなくてはなりません。
 聴覚に何の問題も抱えていない人は0デシベル。55デシベルとは普通の話し言葉の音の大きさくらいでもあります。その話し言葉がかすかに音として聞こえる聴力レベルが55デシベルということになります。羽田空港沖のジャンボジェット機の音は95デシベルくらい。その場でジャンボジェット機の音が線香花火程度に聞こえる人は聴力レベル95デシベルということになります。(もちろん両耳によって違いはありますが、ここではざっくりとした書き方をしています)
 要するにピッチ上の選手たちのなかにも、ホイッスルが(ある程度)聞こえる選手と聞こえない選手がいるわけです。ただ聞こえる聞こえないはデシベルという音の大きさだけではなく、音の高低も影響します。デシベル的には聞こえるけれども高音が聞き取りにくいためホイッスルの音が聞こえないということもあるわけです。もしホイッスルの音が聞こえたほうがプレーに有利になるということであれば問題となるでしょうが、ホイッスルとは多くはプレーを止めるためのもの、1人でも多くの選手に瞬時にわかってもらったほうが良いため、ホイッスル、フラッグ両方があったほうが良いということになります。
 ちなみに日本で聴覚障害の認定を受けられるのは70デシベル以上。それ以下の人たちも日常生活で支障をきたす場面があっても認定は受けられません。世界的には55デシベルは、WHOにもあるように中度の難聴者です。日本は世界基準ではありません。

 先日の試合はろう者サッカー側の声はあまりありませんでしたが、メンバーや試合展開によってはかなり声があります。
 中学や高校のサッカー部で補聴器をつけて聴者とプレーしていた選手も多く、『声を出す』『声を聴いてプレーする』ことに慣れている選手も多数います。補聴器を外すと声による情報はほぼ伝達できなくなりますが、GKやセンターバックなど声でコーチングすることに慣れている選手は身振り手振りとともにかなり声も出します。ことに守備での修正を余儀なくされる試合であればなおさらです。ただ声では伝わらないため、お互いが目と目を合わせることが必要となります。例えばGKが声と身振り手振りでセンターバックに何かを伝えようとします。しかしセンターバックは前を向いているから気がつきません。後ろを向くことが多い中盤の選手がセンターバックに伝え、センターバックがGKの方を振り返るという流れになります。もちろん振り返るとやられてしまいそうな場面では、振り返ることはできません。

 プレーが途切れた時やちょっとした合間には手話でコミュニケーションをとることも出来ますが、プレーしながらは難しいものがあります。『声』の完全なる代用品にはなりえないのです。しかし声が通らないピッチ状況などの場合は、限定された時間の使用にはなりますが、かなり手話でのコミュニケーションが有効となります。離れたポジション同士の意思疎通にも有効です。ベンチと選手間の伝達も然りです。
もちろん双方が手話ができることが大前提となります。
 
 繰り返しになりすが、お互いが目と目を合わせられる状況の時にのみ有効です。

 ちなみにろう者サッカーの選手のなかにも手話ができない、あまりあまりうまくない人もいます。ずっと聞こえる人の学校に通っていたため、ろう者との接点がなかったからです。ろう者サッカーを通じて手話を急速に身に付けていく人も多数います。つまりサッカーが『手話を使用するろう者』と『聴者のなかでしか生きてこなかった難聴者』を結びつけているわけです。サッカーなどの接点がない『聴者のなかでしか生きてこなかった難聴者』は手話とまったく触れずに生きている人も多いということです。聴覚障害者=手話で会話をする人ではまったくありません。

(追記)
その後品川区の広報は訂正されています。担当の方からも丁寧な連絡をいただきました。


知的障がい者サッカーvsろう者サッカーの歴史的な一戦

2015年05月06日 | 障害者サッカー全般

 5月5日こどもの日、知的障がい者サッカー日本代表とろう者サッカー(前半は東日本選抜、後半は日本代表)のエキシビションマッチが行われた。東京都品川区大井ふ頭中央海浜公園スポーツの森陸上競技場において開催された第14回EJDFA(東日本ろう者サッカー協会)デフリーグの一環として対戦が実現したものだ。異なる障害者サッカー間の対戦という、とても意義深いものとなった。
 ルールは通常のサッカーと同じであり、主審がホイッスルとともにフラッグを手にしていることだけが見慣れた風景とは異なる。(個人的には見慣れていますが)。u-20ワールドカップの審判員としても選ばれた国際審判員がフラッグを振った(笛を吹いた)。

 知的障がい者サッカー日本代表は昨年開催された世界大会をベスト4の成績で終え、その後新たなメンバーも加わり平均年齢もかなり若いチームである。また今年9月にエクアドルで開催される『INAS GLOBAL GAMES 2015 ECUADOR』(知的障がい者版パラリンピック)に向けフットサル日本代表が立ち上げられ、大会までの期間はフットサルチームを優先する選手もいるため、この試合には参戦できなかった有力選手もいた。
 迎え撃つろう者サッカーは、前半が東日本選抜チーム、後半は日本代表チームが参戦。そもそも2日間に渡って行われたデフリーグは東日本ろう者サッカー協会主管であり、当初は東日本選抜チームと知的障がい者サッカーチームとの対戦が検討されたが、変則的な形で日本代表チーム同士の対戦も実現することとなった。(個人的にも強く要望した)

 以下、まずは試合の経過をおっていきたい。 
 知的障がい者サッカー日本代表のスターティングメンバーは、GK内堀、ディフェンスは右から吉永、結城、山内、村山。中盤はボランチに上山と野澤、右に丸山、左に瀬川。FWは森山と利根川。一方のろう者サッカー東日本選抜チームは、GK三原、ディフェンスラインは右サイドバック唐橋、センターバックに江島、大石、左に酒井。ボランチに設楽と松本、右MFに林、左に桐生。トップ下に綿貫、1トップに塩田が入った。メンバー中7人が日本代表候補の選手たちである。

 試合開始後早い時間に、ろう者サッカーDFラインのパスミスから知的障がい者サッカーがチャンスを迎えるが決めきれない。その後前半10分を過ぎたあたり、ろう者サッカー左MF桐生が林のパスを受け豪快に蹴り込み先制。桐生は代表では左SBを務めることが多いが、1列前でのびのびとプレーしている印象も受けた。
 知的障がい者サッカーも野澤のスルーパスに森山が裏に抜け出すが、シュートは枠を外れる。ろう者サッカーはボランチの設楽、松本がうまく機能、ボールを奪い取り、右MFの林が果敢に右サイドを切り裂く。そして35分、林のクロスを桐生がシュート、一度はGK内堀が弾き出すものの途中交代出場の杉本が押し込み、ろう者サッカーが2-0とリードを広げた。その後もろう者サッカーが攻め込むもののセンターバックの結城やGK内堀の好守もあり、追加点は許さず前半40分が終了した(試合は40分ハーフでおこなわれた)。
前半を一つの試合としてみるならば、東日本選抜が知的障がい者サッカー日本代表を相手に2対0と勝利した。


 後半開始前には改めて選手が整列し、品川区長の挨拶もあった。品川区は大会の後援として名を連ねている。
青いユニフォームに身を包んだろう者サッカー日本代表チームのメンバーは、GK三原(代表合宿に参加した3名のGKが参加できなかった)。ディフェンスラインは右サイドバック木村、センターバックに細見と江島、左は桐生。ボランチに設楽と松本。2列目は右に中島、左に古島、トップ下には船越が入り、1トップに塩田。11名中6名の選手が東日本選抜からユニフォームを着替え出場した。一方の知的障がい者サッカー日本代表チームのメンバーは前半と変わらず。

(後半は一度リセットされ。0-0からスタートしたものとして記述しています)
 最初にチャンスを作り出したのはろう者サッカー、設楽のスルーパスに中島が裏へと抜け出すがGK内堀がいい飛び出しを見せる。元々シュートへの反応やスローイングには非凡なものを感じさせたが、この試合では再三いい飛び出しも見せていた。
 そして10分、ろう者サッカーは右CKからの流れで船越がファーサイドへ正確なクロスを入れる。フリーとなった松本の狙いすましたヘディングシュートがゴールネットを揺らし、ろう者サッカーが先制点をあげた。
 ろう者サッカーは、中島の積極果敢なプレーなどでチャンスを作り続ける。その後、塩田、設楽、木村に代え、渡辺、河野、吉野が投入される。フィジカルに優った渡辺が前線で起点を作るものの、ボランチの野澤などが体を張ったプレーで追加点を許さなない。野澤選手を初めて見たのは9年前に遡る。その頃の彼は、抜群のテクニックはあるものの気持ちを感じさせるプレーヤーではなかった。しかし昨年の世界大会に向けキャプテンに指名され慣れないセンターバックも経験、感動的なまでに熱い気持ちが伝わってくるプレーヤーへと変貌した。また世界大会ではボランチとして活躍した山内、そして結城のセンターバックコンビも体を張った守備を見せ、小柄な右MF丸山も奮闘した。(丸山選手は、前日に観たCPサッカーの山田友二選手と重なるものがあった)
 その後も細見や江島の安定した守備にも支えられたろう者サッカーが攻め込み、知的障がい者サッカーはチャンスを作り出すことができない。ところが27分、クリアミスが森山の前に転がってきた。森山の思いきりの良いミドルシュートがゴールネットに突き刺さり、知的障がい者サッカーが同点に追いついた。
 しかし37分、ろう者サッカーがFKのチャンスを得る。船越からファーサイドに蹴り込まれたFKを渡辺が頭でゴール前に折り返す。懸命にジャンプした野澤のクリアが無情にも自陣ゴールに吸い込まれた。
試合はそのまま2対1で終了、日本代表同士の歴史的な一戦はろう者サッカーの勝利で幕を閉じた。
尚、知的障がい者サッカーは瀬川、吉永に代わり、鈴木、堀越も出場した。

 試合全体を振り返ると、チームとしてのモチベーションは、2日から行われた合宿の最終日(4日目)に乗り込んできたということもあり、知的障がい者サッカーの方が高かったような気がする。ただフィジカル面では、合宿の疲れもあり思うように動けなかった側面もあった。ろう者サッカー側はデフリーグに別チームの選手としてエキシビションマッチの前後の試合にも出場しなくてはならず、致し方ない面もあった。ただ5月2日~3日の合宿で危機感を覚えた選手たちのモチベーションは高いようにも感じられたし、そのあたりのバラつきも感じられた。
(ろう者サッカーは千葉で2日~3日と日本代表の合宿。4日から大会に参加していた。大会はもちろん真剣勝負だがエンジョイ的な側面もある)

 ろう者サッカーと知的障がいサッカーの日本代表クラスの選手を比較すると、個々の力ではろう者サッカーの方が上である。技術、フィジカルともにである。これはやはり経験値の差が大きい。ろう者サッカーは普通校のサッカー部で揉まれてきた選手が多いが、知的障がい者サッカーは特別支援学校出身者ばかりだからだ。しかし最初に双方のサッカーを見た9年前と比べると差は詰まってきたように感じる。以前は戦術的なポジショニングに難を抱えていたが、小澤監督などの地道な指導もありかなり解消されている。

 ろう者サッカーは耳からの情報がない代わりに常に周りを見て状況を把握しておく必要がある。 知的障がいサッカー側は、ろう者サッカーに触れることによって、周りを観ることの重要性を再認識できたようだ。また知的障がいサッカーは聴こえるのだからさらに声を出さなくてはならない。そういった刺激も受けたようだ。しかし“的確な”コーチングの声は、知的障がい者サッカーにとって大きな課題でもある。

 次回は、純然たる強化試合としての日本代表同士の試合を観たい。大きな大会前の壮行試合なども良いかもしれない。もちろん代表に限らず各地域での試合もどんどん行われるとよいと思う。

これからも是非互いに刺激を受けることで、成長へとつながっていってほしい。


(試合中のプレー時間はおおよその時間です。また選手名などに誤りがあればご指摘ください)


脳性まひ7人制サッカー(CPサッカー)パラリンピック出場へ向けた日本代表の合宿

2015年05月05日 | CPサッカー

GWには各地で障害者サッカー日本代表の合宿が行われていて、3日はろう者サッカー日本代表の合宿へ、4日午前中は知的障がい者フットサル日本代表の合宿へ少しだけ、午後からは脳性まひ7人制サッカー(CPサッカー)日本代表の合宿に行ってきた。
ろう者サッカー、知的障がい者フットサル及びサッカーに関しては後日また書き込もうと思っているので、ここではCPサッカーの話題だけということで。

脳性まひ7人制サッカー(CPサッカー)日本代表の合宿に行ったのは昨年の9月以来、その時の記事は下記参照。CPサッカーの簡単な説明も書きこんでいます。
http://blog.goo.ne.jp/kazuhiko-nakamura/e/28b379ed911d8f25419021cccd3c439e

日本代表チームはその後アジアパラ競技大会でイランに次いで2位となり、今年6月イギリスで開催される世界大会への切符を手にした。そしてその世界大会でベスト8に入れば悲願のパラリンピック初出場が決まる。CPサッカーは東京パラリンピックの競技種目からは外れたもののリオデジャネイロパラリンピックの正式種目であり、世界大会はパラリンピックの予選を兼ねているのだ。
大会は16チームが4つのグループに分かれ上位2チームが準々決勝、ベスト8に進出。つまりグループリーグで2位以上となればパラリンピックの出場が決まる。しかし日本が入ったグループAは、世界ランキング1位のウクライナ、3位のイラン、そして開催国イングランドといずれも強豪揃い、格上のチームばかりでありかなり厳しい状況である。
同じパラリンピックの競技種目であるブラインドサッカーはアジア予選で2位に入るとパラリンピック出場が決まる(ブラインドサッカーのアジア予選は9月に東京で開催予定)が、CPサッカーにはアジア予選に相当するものはなく世界の8強に食い込むしかない。
但し世界大会には、開催国枠で既に出場が決まっているブラジルや、パラリンピックにはUKとしての出場に限られる各チーム(イングランド、スコットランド、北アイルランド)も出場するため、場合によっては11位まで出場の可能性があるようだ。詳しくはよくわかりません。

客観的な状況はともかく、選手たちは持てる力のすべてを出しきり胸を張って帰国の途に着いてほしい。

久しぶりに見たチームは個々人もレベルアップし、チームの連動性も高まっている印象であった。また複数のポジションをこなせる選手も増え、試合中のポジションチェンジにより攻撃のスイッチを入れる、あるいは我慢して守るという柔軟性も武器の一つとなるようだった。
しかし細部の部分、例えばディフェンスがあと一歩を出す、あるいはオフ・ザ・ボールのポジショニングなど、まだまだこれからの短い期間でも積み上げられる部分もあるような気がした。
また試合に出れない選手はとてもつらくて大変だろうが、試合に出ている選手と一体化して、ベンチからも是非(意味のある)声を出してほしい。
見て、考えて、声を出し、聴くことは出来るのだから。

代表チームは、新潟での合宿を経てイギリスに乗り込む。
グループリーグの日程は、
6月16日 vsイングランド
6月18日 vsウクライナ
6月20日 vsイラン