「最近、ブログ、サッカーのことばっかりですね」と、とある手話学習者から言われ、
「それもそうだな」ということで、最近読んだ本のことなど。
タイトルは、
ろう者から見た「多文化共生」 もうひとつの言語的マイノリティ。
ココ出版より6月10日に刊行。
シリーズ 多文化・多言語主義の現在の5巻目として、出版されたようです。
私の映画「アイ・コンタクト」や単行本「アイ・コンタクト」のサブタイトルが、“もうひとつのなでしこジャパン”だったように、こちらは“もうひとつの言語的マイノリティ“です。
4巻目まではどういう本が出ているかは知りませんが、おそらく音声言語に関する本だったのでしょうし、音声言語ではない視覚言語という意味で“もうひとつの”という言葉が使われているのでししょう。
もちろん、もうひとつの言語とは手話のことですが。
春頃にこの本が出ることを知り、とても楽しみにしていました。
編者は佐々木倫子さん。
筆者は、木村晴美さんなどDプロや明晴学園関係の方々や、脳科学者の酒井先生など、それぞれの立場で書いておられます。
コーダ、ろう児の親、弁護士、言語学者、教師等々。
ちなみに酒井先生は、映画「アイ・コンタクト」上映に先駆けて対談させていただいた方です。
対談というよりは私が質問し、酒井先生がそれに答えるというものだったのですが。
対談をお願いしたのは、映画制作中に酒井先生の著作を読み、「目からウロコ」のように思ったことがあったからです。
酒井先生は、脳科学者の立場から手話が言語であることを証明しようとし、証明した方です。
酒井先生が以前、言語学者のチョムスキーのもとで研究されていたこともあり、チョムスキーの生成文法論なども読まねばならぬことになってしまいましたが。
生成文法論というのは、簡単に言えば、人間の脳には本来、生得的に言語を理解する能力が備わっているということですね。
脱線してしまいましたが、
“ろう者から見た「多文化共生」”の内容を一言で言い切ってしまえば、
手話が言語であること、
そしてろう児が自分にとっての自然言語である手話を母語として身につけることの必要性が
語られています。
私自身は、それぞれの筆者の方の著作や講演などで聞いていたことも多かったのですが、
多くの方には、「手話が言語である」ということに関しての情報を得るのに良い本なのではないでしょうか。
しかし、人それぞれ違うでしょうが、さっぱりわからない章があるかもしれません。
特筆すべきは、全日本ろうあ連盟事務局長、Dプロ代表、日本手話学会副会長、日本言語政策学会会長という立場や意見を異にするか方々の座談会が収録されていることです。
議論はかみ合わないことも多いですが、それぞれの組織を代表しての意見はとても興味深く読みました。
一読の価値ありです。
お薦めしておいてなんですが、本を読んで「うーん、どうなんだろう?」と思った点もあります。
どういうことから言うと、もっとそれぞれの筆者の方が、それぞれの立場でしか語れないことに特化してほしかったということです。
(もちろん全部の章がそうだと言っているわけではありませんが)
冷静に、どこまでも冷静に、吟味して書いてほしかったような。
それは編者の責務であるかもしれません。
一人の筆者の単行本や講演ではないが故の厳選された文章、言葉が必要だったのでは、
という気もしました。
えらそうな物言いで失礼かもしれませんが、
「もったいない!」というのがもっとも正直な感想でした。
まあ、言うのは簡単、書いたり作ったりするのは大変です。
もちろん、きちんとした批評は簡単ではありませんが。
これは、単なる読後感です。
あ、でも本当に一読の価値有りです。