1日1日感動したことを書きたい

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人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「煙滅」(ジョルジュ・ペレック、塩塚秀一郎 )

2010-04-06 19:09:00 | 
 「煙滅」(ジョルジュ・ペレック、塩塚秀一郎 )を読みました。なぜ「消失」や「失踪」ではなく「煙滅」という見慣れぬ題名が選ばれたのか?どうして2章、7章、12章、17章、22章、27章、32章、37章、42章がぬけているのか?二十にハタトセ、九冊にクサツというルビがふられているのか?この読みにくさ、居心地の悪さはどこからやってくるのか?すべての謎は、翻訳者による最後の解説で明らかになります。

 ジョルジュ・ペレック(1936-1982)はフランスの小説家です。ペレックは、この小説を、フランス語でもっとも出現頻度が高いEの文字をひとつも使わずに描がきました。こういう制約をリポグラム(文字おとし)と言います。フランス語でEの使用を禁止するだけで、使える語彙は三分の一に減るそうです。

  ある男の突然の失踪。失踪の謎を捜索する男の仲間たちも、ひとり、ふたりと命を奪われていきます。なぜ彼らは殺害されなければならなかったのか?すべての登場人物が「何かが欠けている」という感覚に動かされ、さまざまな思索、解釈、捜索を行うのですが、欠落の正体に気づいた時、この世を去っていきます。そして最後に、私たち自身が、文字の欠落と、日々の生活で感じている「何かが欠けている」思いに至るのです。

  翻訳者の塩塚秀一郎は、翻訳不可能と言われてきたこの小説を、日本語をひらがなで表記した場合にもっとも高い頻度であらわれる「いの段のひらがな」ぬきで、翻訳しぬきました。その他にも、いの段の欠落を暗示するさまざまの工夫も織り込んでいます。翻訳者の労力に、ただただ脱帽の一冊でした。




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