1日1日感動したことを書きたい

本、音楽、映画、仕事、出会い。1日1日感動したことを書きたい。
人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「いとま申して―『童話』の人びと」(北村薫)

2011-05-13 19:53:16 | 
著者北村薫の父親の日記をもとに書かれた本です。15歳から、小説家として生きる夢を捨てる20歳まで。大正末期から昭和初期にかけての学生たちの姿が、日記を通して、とてもリアルに描かれています。

「童話」という雑誌があったそうですが、この雑誌には、北村薫の父親ばかりでなく、淀川長治や金子みすずなど、小説家をめざす多くの若者が投稿したそうです。金子みすずが西条八十に認められたのも、この「童話」への投稿を通じてでした。「童話」への投稿を通じて知り合った人たちとの交流を軸に、物語は進んでいきます。

「童話」を通じて互いに知り合うことがなかったなら、同人誌作りにのめりこんで家財を失うことも、自殺することもなかったのかもしれない・・・そんなことをふと考えてしまうような、運命的な出会いもいくつか紹介されています。僕にも、高校時代にあの友人と会わなければ、ちがう人生を歩んでいたかもしれないという、出会いがありました。

長田弘は、「僕たちは 僕たちを選んだ運命を どこまでもどこまでも代表していくほかないのだ」とある詩の中で書いていますが、僕たちが運命を選ぶのではなく、運命が僕たちを選ぶのだということを、あらためて感じさせてくれる一冊でした。

当時はそれほど裕福でなくても家事手伝いを雇っていたとか、結婚相手は家同士であらかじめ決められていたとか、蚤や南京虫や蝿がいっぱいいたとか、軍事教練があったとか、今とは違うなぁと思うところもあったのですが、授業をさぼって映画に行ったり、ドストエフスキーと芥川を読んで小説家にあこがれたり、たぼこをすってみたり、僕自身の高校生活を思い出す場面もたくさん出てきました。

続編は、折口信夫が父の前にあらわれるとか。次も読んでみよう。