1日1日感動したことを書きたい

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人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「倒壊する巨塔」(ライト・ローレンス)

2010-01-20 21:40:12 | 
著者ライト・ローレンスは、作家兼映画脚本家とのこと。この本は、2001年9月11日の「米同時多発テロ」に至るまでの経緯を、イスラム過激派のメンバーや、CIA、FBI関係者などへの膨大なインタビューデーターを中心に追いかけたノンフィクションです。

 図書館の予約の関係で、下巻から読み始めました。下巻は、1996年、スーダンを国外追放となったビンラディンが、アフガニスタンでタリバンのムハンマド・オマルと巡り合うところから始まります。ザワヒリのジハード団とビンラディンのアルカイダの組織統合もアフガニスタンで行われます。

 この本を読んで、まずは、イスラム過激派の国境を越えるうごきにあらためて驚かされました。エジプト、イエメン、サウジアラビアなどの中近東だけでなく、アフガニスタン、パキスタン、チェチェン、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マレーシアなどなど、イスラム宗教圏全土に活動のネットワークが広がっています。
 二点目に驚いたのは、同時多発テロの1年半前から、実行犯の二人がアメリカに入国し、テロ活動の準備を行っていたことを、CIAが把握していたということです。CIAは、その情報を組織内で覆い隠し、国内捜査を担当するFBIに知らせませんでした。筆者は、CIAとFBIの情報共有が行われていれば、同時テロは防ぐことができであろうと述べています。
 三点目は新たにアルカイダに合流した若者たちの階層です。筆者は、新しくアルカイダの交流した若者たちが、貧困に苦しむ、社会の底辺に生きるものではなく、中・上流階級の出身で、都会育ち、高い教育と言語能力、コンピューター操作のスキルを持つと述べています。そして、彼らがアルカイダに参加する理由として次のように書いています。

「(彼らの共通点をあげるとすると)それは、”寄る辺なき思い”だったろう。ジハードに参加した大半のものは、自分たちが育ったのとは違う国に定住しており、茫漠たる気分をかかえていた。彼らはフランスの外国人居住区に暮らすアルジェリア人であり、スペインのモロッコ人であり、サウジアラビアのイエメン人だった。いま住んでいる土地でどれほど実績をあげようと、彼らはそのホスト社会に本当の足場を築けなかった。ロンドン在住のパキスタン人は、自分が本物のイギリス人でもなければ、本物のパキスタン人でもないことを知っていた。そしてこの境界線上で生きているという感覚はクウェートのレバノン人にとっても、ブルックリンのエジプト人にとっても、同じくらい切実だったのだ。」

 この文章を読みながら、アイデンティティーの喪失に苦しむモロッコ人青年の姿を描いた「出ていく」(タハール・ベン・ジェルーン)を思い出していました。

「移住はもはや(モロッコの抱える)問題の解決にはならない。敗北です。わたしが望むのは、モロッコが雇用を創出し、人びとが出ていかなくてもよくなることです」

「出てゆく」の作者タハール・ベン・ジェルーンの言葉が、あらためて心に響いた一冊でした。