1日1日感動したことを書きたい

本、音楽、映画、仕事、出会い。1日1日感動したことを書きたい。
人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「イタリア広場」(アントニオ・タブッキ)

2010-01-24 21:21:58 | 
 「イタリア広場」(アントニオ・タブッキ)を読みました。アントニオ・タブッキは、1943年、イタリアのトスカーナ州ピザに生まれました。この本の舞台は、タブッキの故郷トスカーナのある「村」です。この村に生きた三世代にわたるある一家の物語。ガリバルディによるイタリアの統一からファシズムを経て、戦後の共和国に至る、1世紀近い近代イタリアの歴史が、「村」に生きる人々の目を通して描かれていきます。

 この小説はエピローグから始まります。主人公の名前はガリバルドで、その父の名もガリバルド。巻頭のエピローグで軍隊によって殺されてしまうガリバルドは、父のガリバルドであるのか息子のガリバルドであるのか。それは、小説の最後で明らかになります。この他にも双子の兄弟が二組。アフリカ戦線で戦死するのは兄なのか弟なのか?錯綜する人間関係の中で、家系図を何度も見ながら小説を読み進んでいくのが楽しかったです。

 主人公のガリバルドは、生活のために若き日にアメリカにわたり、帰国後は北イタリアを支配したナチスドイツと闘うためにパルチザンに参加し、戦後は工場労働者の闘いの先頭に立ちます。彼の父ガリバルドも、飢饉のときに、国王の食糧倉庫を襲撃し、隠匿されていた小麦を村の人たちに平等に分配しようとし、憲兵によって殺されてしまいます。このあたりの主人公の設定、権力者の言葉ではなく、日常生活を生きる民衆の立場からイタリア近代の歴史を描こうとするタブッキの思いがつたわってきました。

 ガリバルディのイタリア統一に従軍した祖父。統一後のアフリカ侵略で命を落とす叔父、不幸な愛に傷つき修道院にはいってしまう叔母。大地主の家の養子になり、ファシストとして村人に敵対するいとこ。背中にこぶを持つ共産主義者の友人、キリスト教社会主義者の牧師、村の占い師のおばあさんなどなど、急速に進む近代化の中で、苦闘しながら生きている村人の姿が簡潔な文体で描かれていきます。国王から、ムッソリーニのファシズムを経て、民主主義へ。権力者が交代しようとも、したたかに生きていこうとする民衆の姿がとても印象的な一作でした。

 題名の「イタリア広場」。村の人々が集まり、語りあう広場でこの物語は始まり、終わります。この本を読みながら、一昨年に行ったトスカーナ地方の町、シエナの広場を思い出していました。シエナの広場も、町の中心にあったけれど、イタリアの町って、こいうつくりがそういえば多いのですよね。