1日1日感動したことを書きたい

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人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「匂いの人類学―鼻は知っている」(エイヴリー・ギルバート)

2010-01-12 12:17:44 | 
「匂いの人類学―鼻は知っている」(エイヴリー・ギルバート)を読みました。著者は、嗅覚専門の認知科学者で、フレグランス関連企業で人間の嗅覚の研究を指揮するほか、有名ブランドの香水の開発に参加するなど、多彩な活動を行っています。

 「匂いはいくつあるのか?」という問いからはじまり、「匂いの分子と知覚」の話、そして無嗅覚症から超嗅力の話を経て認知心理学の話題へと、匂いに関するエピソードが次々と紹介されていきます。

 この本を読むと、五感の中で嗅覚がとても低い扱いを受けてきたことがよくわかります。僕自身、香りや匂いについて興味を持ちだしたのはつい最近のことだけれど、フロイトは、「嗅覚は盲腸と同じ、感覚の痕跡器官だ」と信じていたのですね。

 この本でいちばんおもしろかったのは、「味覚と嗅覚」のトピックでした。著者は、嗅覚が料理の風味にとても大きな役割を果たしていると主張しています。確かに、香りのないまったけや匂いのない納豆は想像することさえできません。味覚は苦味・甘味・酸味・塩味・うま味の5つのチャンネルしかないのですが、嗅覚は350種類の受容体と2ダースの知覚カテゴリーをもっているそうです。
 さらに、食べ物を味わうときの特有のにおいの嗅ぎ方というのがあるそうです。口に含んだ食品が放つ香りは、喉の奥を通って鼻腔に達し、私たちは内から外に香るにおいをかぐとのこと。これをレトロネイザル嗅覚というそうですが、犬はレトロネイザル嗅覚はほとんどきかないそうです。人間の嗅覚は、犬よりも優れている、だから料理がおいしいのだという指摘、これも目から鱗でした。

 この他にも、香りと民族的なアイデンティティーの話や、匂いつき映画技術の「スメロビジョン」と「アロマラマ」の争い、香りのマーケティングの将来性などなど、香りの大切さを再認識させてくれるトピックがつづきます。

 最後に著者の言葉をひとつ。 

「匂いには情報が詰まっている。匂いは、ムード音楽以上に、感情に訴えかけてくる。心にメッセージをはこぶことができるのだ。」

たしかに、香りや匂いのない世界は味気ないだろうな。