1日1日感動したことを書きたい

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人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「出てゆく」(タハール・ベン・ジェルーン)

2009-07-27 20:14:31 | 
 「出てゆく」(タハール・ベン・ジェルーン)を読みました。モロッコの港町タンジェを舞台にした物語です。タンジェは、ジブラルタル海峡をはさんでスペインから14kmの距離にある町です。


         モロッコ

 貧困、失業、麻薬、賄賂、密輸、オランダ資本のエビ工場で強搾取される少女たち、出会い系のネットワーク。ヨーロッパの資本主義によって解体されていく1990年代のモロッコの姿が、とてもリアルに描かれている小説でした。

「出てゆく、出てゆく!なんとしても、どんな代償を払っても・・・」

 タンジェの若者たちは、モロッコ社会に希望を見出すことができず、ヨーロッパに出てゆくことに取り憑かれています。イスラム原理主義者にオルグされパキスタンやアフガニスタンへ向かう者、密航する小舟の事故で命を失う者、売春を行いながら密航の費用を稼ぐ者・・・。この小説の主人公アゼルも、同性愛者のスペイン人富豪の愛人となって、バルセロナへ移住します。

 小説は、バルセロナで、嘘の自分と本当の自分に引き裂かれ、人間としての誇りや生(性)の喜びや自分自身を喪失していくアゼルの姿を、描いていきます。

「治りたいんだ。自分から、自分の人生から、挫折から、恐れから、自分の弱さから、至らなさから。よくなりたいんだ、そう、自分自身と折り合いたいんだ」これは、すべてを失ったあとのアゼルの言葉。

 この小説を読むと、ヨーロッパという社会が、アフリカやトルコ、中東などからの移民労働者の重労働によって支えられていることもとてもよくわかります。

 作者のタハール・ベン・ジェルーンは、1944年モロッコで生まれました。65年に学生闘争に参加し、71年ハッサン二世の独裁政治を逃れるために渡仏。現在もフランスに在住しているそうです。

 あとがきに次のような作者の言葉が紹介されています。

「移住はもはや(モロッコの抱える)問題の解決にはならない。敗北です。わたしが望むのは、モロッコが雇用を創出し、人びとが出ていかなくてもよくなることです」

 作者の、モロッコ社会に対するやるせなさと、モロッコの人々がモロッコで誇りを持って生きていける世界を作り出したいという願いが、とても印象的な一冊でした。おもしろかったです・・・五つ星。





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2 コメント

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Unknown (ぜんた)
2009-07-29 18:38:13
いっつも楽しくブログ読ませてもらってます。

今回ご紹介のこの本、とってもおもしろそうですね。イギリスで勉強することに直接関わるテーマなので是非読んでみようと思います。
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ぜひ、読んでみてください (kazenotikara)
2009-07-29 19:56:50
ぜんたさま。
ぜんた君とえいこのことを考えながら、この本を読んでいました。
12月31日から1月4日まで、ロンドンにおじゃまします。飛行機のチケットの手配も終わりました。
ロンドンで、勉強の成果を聞けるのを楽しみにしています。
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