1日1日感動したことを書きたい

本、音楽、映画、仕事、出会い。1日1日感動したことを書きたい。
人生の黄昏時だから、なおそう思います。

殯の森

2008-01-15 19:59:14 | 映画
 河瀬直美監督の「殯の森」を見ました。妻を失いグループホームで暮らす認知症の男性と、子供を失いそのグループホームで働き始めた女性。二人を主人公に、死と老いを見つめた作品であるとNHK衛星放送の解説は書いていたけれど、僕には、「死」よりは「生」を、「老い」よりは「老いてなお、深まっていく他者への情念」のようなものを描いた作品なんだと思えました。
 道に迷った二人がずぶぬれになりながら森を歩き続けるシーンや、たき火にあたり、互いの体をこすりあいながら、主人公の女性が、「生きてるんやね」とつぶやくシーンなどは、とても印象深いものでした。
 どこへ行くのかさえ定かではない道を、他者と身を寄せ、かすかなあたたかさを確かめあいながら歩いていく、生きていくとは、そういう行為なんだなぁとあらためて思いました。
 認知症の男性は、妻の三十三回忌をむかえても、なお、妻への思いを持ち続け、森をさまよった末に、大切にしてきた三十三年分の日記(のようなもの)を、埋葬するために穴を掘り、安らかにねむるところでこの映画は終わります。
 しかし、主人公たちの安らかな眠りは、ほんのわずかな時間しか許されてはおらず、夜が明けると、また、行く先さえ定かではない道を歩き続けなければならないんだろうなっと、僕には思えるのです。生きていくことの不安と、つらさと、厳しさと、それでもなお、生きるに値するかけがえのなさのようなものを感じないではおれない作品でした。