かぜねこ花鳥風月館

出会いの花鳥風月を心の中にとじこめる日記

金字塔の壁に動かぬ二人

2024-07-31 18:31:21 | 日記

            金字塔 K2峰      (.ライセンスフリー画像)

日本で今やもっとも著名であるといえるアルペンクライマー平出(ひらいで)和也さんと中島健郎(けんろう)さんのお二人は、パキスタンのカラコルムに聳え立つ金字塔・世界第二の高峰K2(8,611m)の未踏ルート・西壁からの登頂にチャレンジしていた。

7月27日、日本時間午前9時33分、標高7500m地点にいた平出さんから「日帰りでC2(第二キャンプ地)より上部を偵察に行く。」と連絡があったが、同日11時30分、二人とも滑落したとの報告をうけたと二人が所属する「石井スポーツ」から第一報が入った。おそらく現地BC(ベースキャンプ)で二人を支援していたスタッフが無線や望遠鏡などを使用し、ふもとから二人の動向を逐次チエックしていたのではなかろうか。現地との時差は約4時間(日本が早い)だから、滑落した時間は現地午前7時前の早朝だったと思われる。

おそらく同日中に救援の依頼を受けた現地ヘリコプターが遭難現場付近まで近づいて、二人の(停止)位置を確認したが、現場の急傾斜や高度からヘリでの救助は無理であること、二人に動きはなく安否不明であるとのヘリからの報告があり、石井スポーツは地上からの救出を検討しはじめた。

7月28日15時、石井スポーツの第二報。現地BCからの報告として、前日のヘリコプターに別の登山隊の隊長が同乗し遭難現場の確認に飛んだところ、二人のいる場所は確認できたが、かなり困難な斜面で簡単には救助にいけないとのことである。要するに、地上からも救援が困難な場所であるとのことであるが、なおも救助方法を検討しているみたいであった。なお、1日たって二回も飛んでいるのに、「二人の位置を確認した」との情報だけである。二人が存命し、動ける状態であれば、たとえばヘリに向かって手を振るとか、前日の位置と異なっているとか・・、もっと別の内容で報告があると思うのだが、「二人の場所を確認した」とあるのは、前日から「二人の動きがなかった」ことを暗示しているので、われわれはこの時点である意味絶望していたといえる。なお、パキスタン側の報道によると、「二人は動かない」とはっきり報告されていると、誰かがSNSで教えてくれた。

「動かない」ことは二人とも絶命しているか、呼吸はしているが意識を失っているか、意識があっても複雑骨折などの重傷で動けないか・・いずれかであるが、まだ命があるのなら一刻も早く救出しないと助かる命も助からないと、絶望の淵にいながら一点の光明を期待しながら、われわれは石井スポーツの第三報を待っていた。

7月29日10時30分、石井スポーツの第三報。事態は変わらないが、日本の登山家らが救援部隊に加わりたいなど、多方面から二人の救出について支援の動きがあるが、斜面の状況から地上からの救出は「二次遭難」の恐れもあり、慎重に検討しているとのこと。なお、すでに事故から48時間経過しており、7000mの高所に野ざらし状態で、食料、医薬品、防寒装備等何らレスキューがなければ、たとえ災害直後存命でも、人体はとうてい持たないのではないかと思い、オイラはさらに絶望の淵に追いやられた。

7月29日17時30分、第四報。BCベースキャンプより上部にABCアドバンスドベースキャンプというものがあってレスキューに必要な道具はそこに置いてきたとのスタッフからの報告。どうやら、27日に最初の滑落を認知したのは、このABCのスタッフたちのようである。

7月30日9時30分、第五報。ABCにいた撮影隊からの報告として、「二人は27日の滑落停止位置から動きがないこと」が初めてアナウンスされた。

そして・・・・

報道によれば、

2人の所属先の石井スポーツは「大変残念ながら、ご家族の同意のもと救助活動を終了することを、本日(日本時間7月30日14時)決定しました」と発表があった

とのことである。

① 27日の滑落地点から二人に動きがないこと

② 二人の上部に大きなセラック(亀裂)があり、崩落の危険があること。

③ 地上からの救出も困難であること

要するに、彼らが存命している可能性はなく、上部側からも下部側からも滑落地点に行くことは、二次遭難の危険が大であることを考慮して、救助活動は断念したとのことである。

以上の経過から、石井スポーツのこれまでの対応と苦渋の決断に咎められる点は一切ないのであって、現代の最新技術をもってしても救出方法が見いだせないのなら致し方ないし、二人の生存については、この時点で絶望せざるを得ない。


ここからは、事実関係が分からない中でのオイラの私見であるが・・・山岳遭難に限らず事故には必ず原因というものがあり、「想定外」、「運が悪かった」という事故はごく少ないと思う。また、巷間ささやかれる「43歳の壁」(一流クライマーはこの年頃を境にして遭難する傾向にある)説も受け入れがたい。年齢なら年齢相当の対応方法があるはずである。

石井スポーツと専門家は今回の滑落事故の原因調査をしっかりして、「二人はどうすれば生きて帰れたか」を、これから難関ルートに挑もうとする者たちにしっかりと教示するべきである。

事実関係が明らかではないが、二人はロープにつながったままともに滑落し、ほぼ同じ位置で停止している状態なのだろうか。これまでの報告ではそのように読める。それを前提に考えると、どちらかが初めに滑落し、一方がその落下を力学的に防ぎきれず、ともに滑落したのだ。

二人の登攀スタイルは、映像などを見てわかるように、二人ともロープでつないで、どちらかがトップになって登り、トップが、滑落しそうな氷壁や岩壁に一定間隔ごとにボルトなどをうち、カラビナをつなげ、そこにロープを通し、それらを支点にしながら後方にいる一方が確保役を担い、万一トップがが落ちても、(例えば滑車の一方にある水の入った重いバケツが井戸に落ちようとしてもロープの端をつかんでいるものが力を込めてロープを抑えれば落下を防げるように)、滑落を防止できるという安全対策をとって登っているはずだ。

なので、二人とも滑落したということは、ワンピッチごとに何か所に設けた支点のボルトが抜けるか、あるいは支点の数が不足していて、力学的に下方の確保者の力では支えきれなかったということではないか。

温暖化により氷壁の氷が柔らかくて氷に打ったボルトが抜けたとか、岩が柔らかくてボルトを打った個所が崩れたとか、そのような事態が想定されるのだ。

ピッケルとアイゼンは一次的に登攀者の滑落を防止する道具ではあるが、登攀者のミスによる足の踏み外しや足場の崩壊など、これだけでは滑落を防げない。しっかりした支点に通したロープと下方に確保する補助者がいて、はじめて登攀の安全が確保されるはずだ。フェールセーフの発想である。今回の両名の滑落、異常気象が遠因しているかもしないが、氷と岩にしっかりした支点が取れない状態では先に進むべきではなかった・・・・

と、遭難者の著名なクライマーを責める気は毛頭ないが、その辺の原因を正さなければ、一部からの「無謀なチャレンジ」という謗りはまぬがれないだろうし、二人も後輩に今回の事の顛末を伝えないと安心して眠れないのではないだろうか。

これまでの輝かしい二人の功績は、いかなる困難な場所でもフェールセーフが働いていたことにあるといってもいいし、二人にはこの安全対策を行いながら困難な場所に挑む秀でた能力があったということだ。ああ、だから今回の事故は悔しいし、もっと素晴らしい映像の数々を私たちに見せてほしかった・・・


これからは、近未来小説か、ファンタジーの世界かもしれないが・・

K2西壁に残された平出さんと中島さんは、標高7,000mの氷の世界で、そのままの若さのままの姿で、そのテラスのような岩棚に長くとどまってほしい。あるいは、上部から崩壊した氷や雪崩によってさらに下部に落ちてゆき、氷河の一部と化すのかもしれないが、それはそれで神のなすがまま仕業として受け入れなければならない。欲を言えば、永遠にロープにつながれたまま「永遠のパートナー」でいられるように祈ろう。

そして、もしやしたら、

あと、〇〇十年先、「動かぬ二人」は、ドローンのような飛行ロボットの手によって、どのような危険な場所であっても回収され、故郷日本の家族のもとに戻ってこれるのかもしれない。

あと、〇〇十年先、回収された二人の脳内のDNAは、再生医学の発達により2024年の平出和也さんと中島健郎のアンドロイドに生まれ変わり、「何があったのか」とかと、眠りから覚めたような顔をして息を吹き返すのかもしれない。今の若さのままの表情で。

そして、また二人は西壁を登り始めるのかもしれない。


だが、「動かぬ二人」にとっては、この世界で最も崇高な姿を見せる金字塔・K2峰のふところで永遠の眠りについたことに実は満足していて、「そんなことは絶対にやめてほしい」と懇願するのかもしれない。

yahooニュース’(テレビ信州)

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