北条小源太 二
「弥太郎、まだ街道は人通りがあると思うので、海岸伝いに行く。
目立たぬように供はそちだけでよい。馬を廻してくれ」
弥太郎は、はっ、と応えて出て行った。
「彦四郎、近所をお騒がせせぬよう馬はいつもの所に置いて、上人の
お住まいには歩いて行くようにな」
「はっ、かしこまってございます」
彦四郎は、小源太に礼をして足早に出て行った。
「節はいるか」
小源太が呼ぶと待っていたように女中の節が入って来た。
「節、奥には急な用事で大学どのの所へ行く、帰りが少し遅くなると
言っておいてくれ。それから、彦四郎の家に使いをやって、急な用事
で亭主どのは二、三日帰れないかもしれないが、大事はないので心配
しないように伝えてやってくれ。
子供に菓子など持って行ってやるのを忘れぬようにな」
身の回りの世話をする女中の節が、渡す太刀を受け取りながら、小源
太は早口に言った。
「かしこまりました。急なお出向きで何か変事でも起こりましたので
しょうか」
節は、奥方の雅子に聞かれた時のことを思い、太刀を受け取ってその
まま部屋を出ようとする小源太に聞いた。
「いや、大事ではない。急ぐので奥には、戻ってからわけを話すと言
ってくれ」
と言うと小源太は大股で裏口に向かう渡り廊下を歩いて行った。
続く