「週刊新潮」に寄稿した書評です。
伴野文夫
『二人のウラジーミル~レーニンとプーチン』
藤原書店 2420円
今年、没後100年となるレーニン。本書は、彼の「失敗の本質」を解明しようとする一冊だ。著者によれば、マルクスはコミュニズムが国有化経済だとは書いていない。またプロレタリア独裁を国家の位置にはめ込むのもレーニン独自の考えだった。つまり、ソ連は「マルクスが考えた国」ではなかったのだ。現在も続くプーチンの武力侵略に、著者はレーニンにつながる歴史的な大ロシア主義を見る。
朝倉圭一『わからないままの民藝』
作品社 2970円
著者は飛騨高山で民藝の器を扱う店を営んでいる。民藝に対する想い、飛騨地方と民藝運動の関わり、そして古民家を移築再生して始めた店について綴ったのが本書だ。柳宗悦を軸に民藝の百年を概観し、花森安治や日下部礼一を通じて飛騨民芸運動の流れを辿る。誰かに必要とされる実用性、環境に生かされる無名性、気軽で身近な廉価性など、無理にわかならくてもいい民藝の魅力が見えてくる。
大野裕之
『チャップリンが見たファシズム~喜劇王の世界旅行1931-1932』
中公選書 2420円
喜劇王は悩んでいた。トーキーの時代に入り、無声映画の衰退は必至だ。1931年、不安をかき消すように、新作『街の灯』のPRを兼ねた世界旅行に出る。ガンディー、アインシュタイン、チャーチルなどと面談し、人間と時代について考え続けた。さらに日本では「五・一五事件」に遭遇。暗殺の標的にさえなってしまう。「旅行記」をはじめ、多くの資料から浮かび上がる、素顔のチャップリンだ。
菊地成孔(きくちなるよし)大谷能生(おおたによしお)
『楽しむ知識~菊地成孔と大谷能生の雑な教養』
毎日新聞出版 2530円
『東京大学のアルバート・アイラ―』の著者たちによるトリッキーな新刊だ。他者の「対談本」を触媒とした「対話集」である。登場するのは、坂本龍一・高橋悠治『長電話』、蓮實重彦・柄谷行人『闘争のエチカ』、山田宏一・和田誠『たかが映画じゃないか』など。しかも、これらは2人が「時代」や「文化」や「自分」を語るためのネタなのだ。遠慮も謙遜も一切なし。刺激的なオトナの教養書だ。
(週刊新潮 2024.08.29号)