碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【気まぐれ写真館】 ミニオン・つよいこグラス

2024年08月10日 | 気まぐれ写真館

 


「海のはじまり」の物語感

2024年08月10日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評

 

 

「海のはじまり」の物語感

 

この夏、最も気になるドラマだ。「海のはじまり」(フジテレビ系)である。この作品でしか体験できない物語感がそこにあるからだ。

主人公は印刷会社でく月岡夏(目黒蓮)。大学時代、付き合っていた南雲水季(古川琴音)から一方的に別れを告げられた。それから7年。現在の夏には恋人の百瀬弥生(有村架純)がいる。

ある日、水季が亡くなったという知らせが届く。葬儀で出会ったのが水季の娘・海(泉谷星奈)だ。しかも水季の母親・朱音(大竹しのぶ)から、父親は自分だと聞いて衝撃を受ける。水季が妊娠した時、彼女は中絶を決めており、突然の別れはその直後のことだった。

海と接触する機会が増えるにつれ、夏の中でその存在が大きくなっていく。父として一緒に暮らしたい気持ちも膨らんできた。しかし、自分にそれが許されるのか。さらに弥生との関係もある。彼女を巻き込むことに強いためらいがある。脚本の生方美久は、その構成力とセリフの力で、登場人物たちの揺れる心情を丁寧に描いていく。

俳優陣も大健闘だ。自分より相手の気持ちを優先してしまう夏を繊細に演じる目黒。その表情から目が離せない泉谷。難役の水季を存在感のある女性にしている古川。

抱える葛藤を、抑えた演技で見せる有村。そして、「男は妊娠や出産をしなくても父親にはなれる」といった言葉に納得感を持たせる大竹。彼らの高い表現力がこのドラマを支えている。

生方の連ドラデビュー作は2022年の「silent」(同)だった。8年前に別れた恋人たちが再会する。だが、青年は両耳の聞こえが悪くなる病気を抱えていた。互いの思いをどう伝え合うのか。ハンディキャップ・ドラマの既成概念を覆す展開に驚かされた。 

昨年の「いちばんすきな花」(同)では、男女間に友情は成立するかというテーマに挑んだ。4人の男女が織りなす友情と恋愛の物語は、「自己」と「他者」との新たな関係性を考えさせた。

そして今回の「海のはじまり」は、恋愛ドラマや家族ドラマといったジャンルを超えた、「生きること」の意味を問うヒューマン・ドラマとなっている。深化した物語世界に引き続き注目だ。

(しんぶん赤旗「波動」 2024.08.08)