あらためて、朝日新聞の「回顧2011 放送」の記事全文を転載しておきます。
日大の中町さん、そして丸山タケシさんが選んだ3本も興味深いです。
絆問う再生の物語続々〈回顧2011・放送〉
■書き下ろし充実 高画質生かした映像
日本テレビ系で放送中のドラマ「家政婦のミタ」が快進撃を続けている。19.5%で滑り出した視聴率は、11月末に今年の連続ドラマ最高の29.6%に(いずれも関東地区、ビデオリサーチ調べ)。松嶋菜々子演じる家政婦・三田灯のせりふ「承知しました」は流行語になった。
松嶋の仏頂面、「業務命令」なら何でもする怖いもの見たさ、彼女の過去を先送りにする構成の妙があいまっての人気だろう。三田が働くのは、母親の自殺で崩壊寸前の家庭。その姿が、東日本大震災後の迷走する日本にどこか重なる。
震災以来、「絆」という言葉がどれほど語られたか。各局が心血を注ぐ震災ドキュメンタリーに限らない。ドラマでも、絆の最小単位である家族が関心を集めたことはうなずける。
たとえば、フジテレビ系の「マルモのおきて」。芦田愛菜と鈴木福が演じる双子を引き取ったのは、父親の親友である独身男(阿部サダヲ)だ。一般的な意味の家族と違うが、描かれるのは家族の愛情そのもの。我が子への虐待事件が絶えぬ中、血縁が規定する家族観へのアンチテーゼに映る。
高年齢出産をテーマにした「生まれる。」(TBS系)、代理出産を扱った「マドンナ・ヴェルデ」(NHK)も話題を呼んだ。
絆や生きる意味を問いかけた作品は、家族ものに限らない。幕末にタイムスリップした現代の医師が奮闘する「JIN―仁―」(TBS系)は、人間の存在を掘り下げる壮大な歴史ロマン。死者が残したメッセージを読み解く異色の刑事ドラマ「遺留捜査」(テレビ朝日系)も、絆を確認する物語だった。
フジテレビ系の「それでも、生きてゆく」は、殺人事件の被害者家族と加害者家族の関係という、重いテーマに挑んだ。坂元裕二の脚本、永山耕三の演出、小田和正の主題歌は、「東京ラブストーリー」(1991年)と同じ顔ぶれ。20年を経て彼らが世に問うたのは、虚飾をそいで人間の深奥へ沈みゆく旅だ。
光と闇の対比で心象風景を描く場面が印象に残る。高画質のデジタル放送ならではの映像表現だろう。その意味で、7月24日に地上波放送が完全デジタル化(被災地3県を除く)された年にふさわしい。
注目すべきは、こうした話題作の多くが、書き下ろしの脚本だったこと。テレビの担い手が意地と誇りを作品に刻んだ年としても記憶されるだろう。
日本民間放送連盟賞のテレビドラマ部門で、テレビ東京系の「鈴木先生」が最優秀賞を受けた。意欲的な社会派ドラマ枠の3作目だが、視聴率低迷で枠そのものが4作目までで衣替えしたのは残念だった。
NHKは会長人事を巡る混乱の末、1月にJR東海出身の松本正之氏が新会長に。4月にはJFEホールディングス相談役の数土文夫氏が経営委員長に就いた。
新体制下で10月、来年度から3カ年の経営計画をまとめ、現行の受信料制度になってから初めての値下げを決めた。来秋から口座・クレジット支払いで月額120円値下げする。還元率は7.6%で、公約の10%は果たせなかった。
一方、肝心の公共放送のあり方は議論が深まらなかった。通信と放送の融合は急速に進む。時代に即した将来像の構築が急がれる。(星野学)
■私の3点 ※選者50音順(敬称略)
碓井広義(上智大教授・メディア論)
▼ETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図~福島原発事故から2か月」(NHK・Eテレ)(1)
▼NNNドキュメント’11「夢は刈られて 大潟村・モデル農村の40年」(秋田放送)(2)
▼「鈴木先生」(テレビ東京系)(3)
(1)原発関連の調査報道の白眉(はく・び)、(2)ビジョン不在の農政と農業の危機に迫った秀作、(3)生徒の悪意や教師の心の奥を描いた意欲作
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中町綾子(日大教授・テレビドラマ表現分析)
▼「デカワンコ」(日本テレビ系)(1)
▼「それでも、生きてゆく」(フジテレビ系)(2)
▼「しあわせのカタチ~脚本家・木皿泉 創作の“世界“」(NHK・BSプレミアム)(3)
(1)(2)(3)仲間と働くこと、消せない過去にもがき生きること、ドラマをつくること。それらの中に(も)ある希望と温(ぬく)もりが心に響く3本
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丸山タケシ(テレビ評論家)
▼NNNドキュメント’11「それでも生きる 大震災…終わらない日々」(日本テレビ系)(1)
▼「家政婦のミタ」(日本テレビ系)(2)
▼「南極大陸」(TBS系)(3)
(1)3・11で私たちの価値観は大きく変化、(2)(3)ドラマは壮大な昭和の夢もいいが、夢も希望もない暮らしに一筋の光がさす内容に脚光が
(朝日新聞 2011.12.17)