昨夜、日本テレビ創立55周年記念のスペシャルドラマ『霧の火~樺太・真岡に散った9人の乙女たち』が放送された。
実際にあった事件に基づいたドラマだ。その事件とは・・・
日本が戦争に敗れた昭和20年8月15日から、すでに5日が過ぎた8月20日。それまで日本の領土だった樺太の、真岡という町にあった郵便局で、9人の女性電話交換手が自決したのだ。青酸カリだった。
樺太を望む稚内の記念碑には、「みなさん、これが最後です。さようなら、さようなら」という、亡くなった交換手の最後の交信の言葉が刻まれている。
敗戦直後、ソ連軍の上陸という混乱の中で起きた、若い女性たち(17~24歳)の集団自決。なぜ、彼女たちは死ななくてはならなかったのか?
この事件については、ノンフィクション作家・川嶋康男さんによって書かれた『永訣の朝~樺太に散った九人の逓信乙女』(河出文庫)がある。
川嶋さんは「このとき、真岡郵便局で何があったのか」を掘り起こし、「何が彼女たちを死に追いやったのか」を追求している。
実は、川嶋さんの本のずっと以前に、真岡郵便局の局長(生き残ったのだ)が書いた「手記」が存在し、”当事者”が語る「事実」として広く流布していた。
ところが、この「手記」に対して、さまざまな疑問を抱き、真相を探るべく書かれたのが『永訣の朝』なのだ。
この本では、「8月20日の朝、局長は、なぜソ連上陸前に、郵便局に戻っていなかったのか」、また「最高責任者として、なぜ真っ先に駆けつけなかったのか」という、この事件のポイントでもある、大きな謎に迫っている。
なぜなら、川嶋さんの取材・調査では、「早い時間に局長が局内に復帰し、職員の身の安全を最優先に陣頭指揮を執っていたなら、電話交換室の集団自決は食い止められたかもしれない」という仮説が成り立つからだ。
また、局長は、手記の中で「残留命令」は出していない、としている。あくまでも、女性電話交換手たちが、自ら進んで(「血書嘆願」まで出して)残ったというのだ。これも川嶋さんによれば、元交換手の誰も、「血書嘆願」などの行為を認めていないという。
さらに、「彼女たちが飲んだ青酸カリを誰が渡したのか」についても諸説あって、はっきりしていないそうだ。
ドラマのほうは、「生き残った女性交換手」を主人公にすえて、物語を構成していた。確かに、生き残った人も複数いたのだ。
とはいえ、この事件は実際にあったものであり、関わったのは実在の人たちだ。亡くなった人たちの名前も、生き残った人たちの名前も、すべて明らかになっている。ドラマにとって都合のいい「人物設定」「人物造形」をしてしまっていいのか、という違和感はあった。
それに、責任者である、問題の郵便局長の行動が、ドラマでは、はっきり描かれていない。わざとぼかしたのかどうか、それは分からないが。
もう一つ、真っ先に青酸カリを飲んでしまい、結果的には、他の交換手たちの「連続自決」を誘発してしまった女性リーダーの心理も、見えないままだった。ドラマであるからこそ、描けたのではなかったか。
エンドロールを見ていたら、この本『永訣の朝』は「参考文献」扱いであり、「原作」ではなかった。ノンフィクションを参考にして作った、オリジナルのフィクション、という形だ。
そして、ドラマの終わりに、以下のようなテロップが表示された。
「このドラマは
1945年の終戦直後に樺太で起きた
真岡郵便局の電話交換手集団自決事件を
題材にしたフィクションです」
まあ、その通りかもしれない。しかし、視聴者に対しては、当然のことながら、ドラマの中のどこまでが事実であり、どこからがフィクションなのかは明かされないのだ。
実際の事件を描くといわれていた視聴者側は、「ドラマではあるが、ノンフィクションに近いもの」として見てしまっただろう。ここでは、テロップ一枚が「アリバイ」となっている。このテロップさえ出しておけば、すべてOKなのだろうか。
そんなこんなで、かなり、もやもやしながら見終わった。現実の出来事と、そのドラマ化。後日、あらためて整理してみたい。
実際にあった事件に基づいたドラマだ。その事件とは・・・
日本が戦争に敗れた昭和20年8月15日から、すでに5日が過ぎた8月20日。それまで日本の領土だった樺太の、真岡という町にあった郵便局で、9人の女性電話交換手が自決したのだ。青酸カリだった。
樺太を望む稚内の記念碑には、「みなさん、これが最後です。さようなら、さようなら」という、亡くなった交換手の最後の交信の言葉が刻まれている。
敗戦直後、ソ連軍の上陸という混乱の中で起きた、若い女性たち(17~24歳)の集団自決。なぜ、彼女たちは死ななくてはならなかったのか?
この事件については、ノンフィクション作家・川嶋康男さんによって書かれた『永訣の朝~樺太に散った九人の逓信乙女』(河出文庫)がある。
川嶋さんは「このとき、真岡郵便局で何があったのか」を掘り起こし、「何が彼女たちを死に追いやったのか」を追求している。
実は、川嶋さんの本のずっと以前に、真岡郵便局の局長(生き残ったのだ)が書いた「手記」が存在し、”当事者”が語る「事実」として広く流布していた。
ところが、この「手記」に対して、さまざまな疑問を抱き、真相を探るべく書かれたのが『永訣の朝』なのだ。
この本では、「8月20日の朝、局長は、なぜソ連上陸前に、郵便局に戻っていなかったのか」、また「最高責任者として、なぜ真っ先に駆けつけなかったのか」という、この事件のポイントでもある、大きな謎に迫っている。
なぜなら、川嶋さんの取材・調査では、「早い時間に局長が局内に復帰し、職員の身の安全を最優先に陣頭指揮を執っていたなら、電話交換室の集団自決は食い止められたかもしれない」という仮説が成り立つからだ。
また、局長は、手記の中で「残留命令」は出していない、としている。あくまでも、女性電話交換手たちが、自ら進んで(「血書嘆願」まで出して)残ったというのだ。これも川嶋さんによれば、元交換手の誰も、「血書嘆願」などの行為を認めていないという。
さらに、「彼女たちが飲んだ青酸カリを誰が渡したのか」についても諸説あって、はっきりしていないそうだ。
ドラマのほうは、「生き残った女性交換手」を主人公にすえて、物語を構成していた。確かに、生き残った人も複数いたのだ。
とはいえ、この事件は実際にあったものであり、関わったのは実在の人たちだ。亡くなった人たちの名前も、生き残った人たちの名前も、すべて明らかになっている。ドラマにとって都合のいい「人物設定」「人物造形」をしてしまっていいのか、という違和感はあった。
それに、責任者である、問題の郵便局長の行動が、ドラマでは、はっきり描かれていない。わざとぼかしたのかどうか、それは分からないが。
もう一つ、真っ先に青酸カリを飲んでしまい、結果的には、他の交換手たちの「連続自決」を誘発してしまった女性リーダーの心理も、見えないままだった。ドラマであるからこそ、描けたのではなかったか。
エンドロールを見ていたら、この本『永訣の朝』は「参考文献」扱いであり、「原作」ではなかった。ノンフィクションを参考にして作った、オリジナルのフィクション、という形だ。
そして、ドラマの終わりに、以下のようなテロップが表示された。
「このドラマは
1945年の終戦直後に樺太で起きた
真岡郵便局の電話交換手集団自決事件を
題材にしたフィクションです」
まあ、その通りかもしれない。しかし、視聴者に対しては、当然のことながら、ドラマの中のどこまでが事実であり、どこからがフィクションなのかは明かされないのだ。
実際の事件を描くといわれていた視聴者側は、「ドラマではあるが、ノンフィクションに近いもの」として見てしまっただろう。ここでは、テロップ一枚が「アリバイ」となっている。このテロップさえ出しておけば、すべてOKなのだろうか。
そんなこんなで、かなり、もやもやしながら見終わった。現実の出来事と、そのドラマ化。後日、あらためて整理してみたい。
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