最近は、映画監督が、自らの新作の公開に合わせるように本を出すことが多い。
現在なら、『崖の上のポニョ』の宮崎駿監督が『折り返し点~1997ー2008』(岩波書店)、同じく『ポニョ』の鈴木敏夫プロデューサーが『仕事道楽』(岩波新書)、そして『スカイ・クロラ』の押井守監督は『凡人として生きるということ』(幻冬舎新書)である。
この押井さんの新著は、オヤジ論、自由論、勝敗論、コミュニケーション論、オタク論、格差論といった章立てを見ても分かるように、映画本ではない。映画を仕事として生きている一人の男が語る人生論集である。
押井さんは、自分の中で確信がもてる言葉だけを書いているように思う。だから、言っていることが明快だ。
○若さに値打ちなどないからこそ、
人生は生きるに値するものなのだ。
○オヤジかどうかは(・・)内面の問題ということだ。
そして、それは自由に生きる、というただそれだけのことだ。
○自由とは「生き方の幅」と、とらえ直してもいいかもしれない。
○「常に勝つこと」ではなく、「負けないこと」を狙う
○天才の身でない我々は、情熱を持ち続けることしか、
この世を渡っていく術がないのだ。
監督制作者として、自分と宮崎駿監督との違いを述べたところも面白い。
○宮さんは青春を賛歌する作品を作り、
僕は青春の苦味を描こうとしている。
○若者の姿に限って言えば、宮さんは建前に準じた映画を作り、
僕は本質に準じて映画を作ろうとしているという、映画監督
としての姿勢の差異だけだ。
この本の終わりのほうで、押井さんは書いている。
○今必要とされているのは(・・・)このろくでもない
社会全体を言い当てる鋭い評論なのだ。
○僕らには言葉が必要だ。有効な言葉が必要なのである。
映像で語るためにも、言葉がいかに大切なものであるかを、よく分かっている人の言葉だ。
押井さんが「そこには何かしらの問題提起を込めたつもりだ」という新作『スカイ・クロラ』も、近々見に行こうと思う。
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