橋長戯言

Bluegrass Music lover, sometimes fly-fishing addict.
橋長です。

EHAGAKI#415≪粗忽者の思考≫

2021年08月29日 | EHAGAKI

笑福亭仁鶴さんが亡くなられました
テレビをつければ必ず見る人気者
ラジオでも大爆笑、いわゆる「大阪の笑い」の立役者でありました

1970年代が終わろうかという頃
「仁鶴の落語」という本を買いました

高校の修学旅行だったか、スキーだったか
泊まりの行事でクラス皆の前で「お初天神」を演りました
1人ではなく、3人で演じ分けたのですが

その時の写真に写っている、皆の笑顔が印象に残っています

さて、今回のお題は、落語であります

参考図書)「落語に学ぶ、粗忽者の思考」
立川談慶著 WAVE出版2021/6/18


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◆ ◆ ◆ ◆ ◆

◆◆後生鰻◆◆

自分だけが正しい、と信じていることを突き詰めたり
周りを意識せずに信仰してしまうとろくなことはない

原理主義に陥ると
誰もが幸せを失うという皮肉な真理

 ◇  ◇ ◇

大変な信心家で、蚊も殺さないほど殺生嫌いのご隠居
ある日、日課の観音詣りのあと鰻屋の前を通ると
親方がまな板の上に鰻をのせ、キリで刺そうとしている

義憤を感じたご隠居
鰻1 匹を2 円で買い取り、川にポチャーンと放す

「いい功徳をした」

それからご隠居は毎日のように
1 日2 円で鰻を買い取り続ける

おかげで鰻屋は左うちわ
鰻屋仲間でも噂は広まり
「あのご隠居つきで、お前の店を買おうじゃねえか」
という輩まで出る始末

ところがご隠居がばったりと来なくなる
ご隠居に頼っていた鰻屋は開店休業状態に

そんなある日
ご隠居がまた現れる
しかし
鰻屋は仕入れにも行っていなかったため素材が何もない

そこで
先日生まれたばかりの赤ん坊を裸にして
割き台の上に乗っける

驚いたご隠居は、赤ん坊を100 円で買い取り

前の川にポチャーンー

「あんな恐ろしい家に、ニ度と生まれてくるのではないぞ」


◆◆金玉医者◆◆

文字にすると下劣極まりない噺
落語家が工夫を凝らして、サラッと聞ける話になっている

「あんまり小難しく考えなさんな」という教えかも

 ◇ ◇ ◇

病で長く床に伏せてる娘がいた
原因不明、今まで多くの医者が匙を投げてきた

あるとき
「甘井ようかん」という医者が娘を診ることに
なんとも胡散臭い男で、その治療法も怪しい
なんと
病人の部屋で
「世の中は広大である」
「愛こそが全てである」
などと説法めいたことを説いているだけ
しかし
娘は次第に元気を取り戻す

訝しく思った旦那が医者に真相を尋ねると

「小難しい話をしながら、着物の裾をはだけさせ
娘が普段見慣れない金玉をチラチラ覗かせていた」と

つまり
その説教の文言の真面目さと
ブラブラ揺れる金玉の間抜けさのギャップがおかしくて
娘は笑い続け、その心がほぐれ、調子を取り戻しているらしい

とはいえ「金玉に治療代を払っていた」としか思えない旦那は激怒

金をケチり、医者のかわりに
自分の金玉を娘に見せたところ彼女は目を回し倒れてしまった

旦那は件の「甘井ようかん」に泣きつく

「旦那は、どういう風に見せたんですか?」

「丸ごとポロンと」

「そりゃあ薬が効きすぎた」


◆◆町内の若い衆◆◆

気持ちが楽になる、いい意味でくだらない噺

 ◇ ◇ ◇

熊が建増しの祝いに兄員分の家を訪れたところ、本人は留守
そてこで、おかみさんに

「こんな立派な建増しをする兄貴は偉い」

「うちの人の働きだけではございません
言ってみれば、町内の若い衆さんが
寄ってたかってこさえてくれたようなものですから」

奥ゆかしさに感心した熊
おかみさんに報告をすると

「ふん、それくらい私もそう言ってやるから
お前さんも建増ししてみろ」

形勢不利になって熊は湯屋へ
そして
道すがら出会った辰に

「俺か湯に行っているうちに俺んちに行って
俺のことを何かしらほめて
かかあがどんな受け答えをするか、聞いてくれ」

言われた通り、熊の家を訪れる辰
しかし
ほめるものが見当たらない

おかみさんの腹がせり出しているのに気づいた辰

「物価が高いのに赤ん坊をこさりえるとは熊の兄貴はさすがです」

「うちの人の働きだけではございません
町内の若い衆さんが
寄ってたかってこさえてくれたようなものですから」


◆◆疝気(せんき)の虫◆◆

なぜ医学は、病気と対話をしないのか
たとえば癌になったら、制圧しようとする前に
まずは向こうの言い分を聞くべきだろう(立川談志)

 ◇ ◇ ◇

ある医者が、奇妙な虫と話す夢を見る

自分は疝気の虫といい、人の腹の中で暴れ苦しめるのが仕事だ
そばが大好物で、食べないと力が出ない
苦手はトウガラシ
触れると体が腐ってしまうので
トウガラシを見ると別荘、つまり男の陰嚢に隠れる

そこで、目を覚ます医者
すると折よく
「疝気」の患者から往診の依頼が
ここぞとばかり医者は夢の中の治療法を試す

まず
そばをあつらえさせ、亭主にその匂いをかかせながら
おかみさんに食べてもらう
すると
疝気の虫はそばの匂いで、大喜び

亭主からおかみさんの体へと移り
腹の中で大暴れする

今度は、おかみさんが苦しみでのたうちまわる

そこで用意していたトウガラシを
おかみさんになめさせると
虫はびっくり仰天

陰嚢に逃げ込もうと一目散に腹を下るが
あるべきはずのものが見つからない

「別荘はどこだ? 別荘はどこだ?」


◆◆がまの油◆◆

酒が人間をダメにするのではなく
人間はもともとダメだという事実を
酒が教てくれるだけ(立川談志)

酒の前ではみんな平等

 ◇ ◇ ◇

昔の縁日は、さまざまな物売りでにぎやかだった
なかでも人気は、がまの油売り

干からびたがま蛙を台にのせ
怪しげな口上で見物客を引き付けていた

「さぁさ、お立会い
御用とお急ぎでない方は、ゆっくりと聞いておいで
遠目山越し笠のうち、物の文色(あいろ)と道理がわからぬ、、、

「がまの油が刃物の切れ味を鈍らせたり、出血を止めたりする」
という効能を( インチキながら) 実演する
けっこうな売り上げになる

そこで気をよくした油売り
販売をいったん終え、酒を飲み、再び商いを始める

ところが酔いすぎて
「自分の腕を切り傷のあるように見せるトリック」に失敗
腕を刀で実際に傷つけてしまう

「驚くこたぁない、この通り
がまの油をひと付け付ければ
痛みが去って、血も、血も、止まらねぇ
お立会いの中に、血止めはないか?」


◆◆花色木綿◆◆

噺の冒頭「お前は泥棒に向いていない」と自分を突き放す親方に
「心を入れ替えて悪事に励みます」と懇願する新米泥棒

「泥棒も大変だな」という他人目線を教えてくれます

 ◇ ◇ ◇

ある粗忽な新米泥棒
親方から、もし見つかったら

「失業中で80歳のおふくろが長患い
13歳を頭に5 人の子がいます 貧の出来心でございます」
と泣き落とすよう助言される

さっそくある留守宅に忍び込む

主の八五郎が運悪く帰宅し、新米泥棒は隠れる羽目に

八五郎は、足跡から泥棒に気づき
それを家賃延滞の言い訳にしようと大家を連れてくる

大家は、盗品届のために盗られたものを尋ねる

「まず、布団です」
「どんな」
「大家さんとこと同じです」
「表は唐草、裏は花色木綿だ」
「うちもそれです」

羽ニ重も帯も蚊帳も南部鉄瓶もお札も
盜品はみな「裏が花色木綿」と答え続ける八五郎

隠れていた新米泥棒は、我慢できずに姿を現し

「何でもみ花色木綿とつけりゃ、いいってもんじゃないだろう」
「おっ、泥棒はてめえか」

親分の教えを思い出しながら必死に謝る新米泥棒

「失業しておりまして
13歳のおふくろが長患し
80歳を頭に5人の子どもたちがいます。
これも貧の出来心で、、」

大家は八五郎を叱り
「なぜ盗られたって嘘をつく」

「ほんの出来心でございます」

※上方落語とはオチが違いますね


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

と言うことでした

仁鶴さんの落語はテレビで見てました
まくらが面白く
“おち”はカット「わ~わ~言うとります、おなじみの・・・・」
というのが毎度のパターンでした

その後大学生になってから、一気に桂枝雀にのめり込んだ次第です

厳しい時は続きます
皆様におかれましても
心の栄養補給は怠らない様、ご自愛下さい

ではまた


EHAGAKI#414≪五輪を終えて≫

2021年08月11日 | EHAGAKI

先が見えないCOVID-19、くれぐれもご用心下さい

さて、宮本武蔵の五輪書を読み終えました
とは言え、集中して読んだのは「地の巻」ぐらいではありますが

本の「はじめに」に
こんな風に書いてます

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

俺は勝ち続けてきたよ
30を過ぎて、振り返ると
それは兵法を極めたからでは無い

才能溢れる俺は、それを活かす器があった
モノの道理にも背かなかったからね
また
俺以外の兵法は未熟だよ

道理を極めようと日夜励み
兵法の真髄を会得した
50歳の頃にね

その後は、目指すモノが無く
ただ日々を送っているよ

兵法で得た道理を活かせば、何でも出来る
どんな分野も、俺に師匠は必要ないよ
学ぶことはない

だから
この本を書くのに、古い言葉や古い出来事は使わない
俺自身の考えのみで書くよ

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

と言う具合で
友達にはなりたくない奴ですね
私には

五輪書
地、水、火、風、空と5つのパートで構成されています
と、言うことで今回のお題は「五輪書 地の巻」であります


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

◆地の巻

兵法の道の概要、私の流派の見立て
剣術だけでは真の道が得られない事を記した

大きい所から小さい所を知り
浅い所から深い所に至る

真っ直ぐな道を引きならす事を模して
地の巻と名付ける


◇「工」に学ぶ

宮本武蔵自身の考えのみをまとめたという本
士農工商の工「大工さん」から多くを学んでいます

兵法の道を学ぼうと思うなら
ここに書いた事を一つずつ心に刻み
良く吟味しなければならない


◆棟梁

天下を治める法をわきまえ、その国の法を正し
その家の法を知る事が棟梁の道

棟梁は堂塔伽藍の長さを覚え、宮殿楼閣の設計を知り
人々を使い、家々を建てる

家を建てる時には「木配り」をする
真っ直ぐで節がなく、見かけの良い材木は表の柱にする
少し節があっても真っ直ぐで強い材木は裏の柱にする

多少弱くても節が無く見た目の良い材木は
敷居、鴨居、戸障子に使う

節があって歪んでいる強い材木は
吟味して適所に使えば長く家を支えてくれる
また
節が多く、歪んで弱いものは足場にして、後で薪にする

大工を使う為には、それぞれの技量を知り
床まわり、戸障子、敷居、鴨居、天井など
それぞれの大工にも適材適所がある

腕の悪い者には根太を張らせ
更に悪い者には楔を削らせるなど
人を見分けて使えば手際は良くなる

決断力が良く、手際良く、物事に気を緩めず
使いどころを知り、気の上中下を知り、勢いをつけ、無理を知る
この事が棟梁の心になければいけない

大工は
自ら道具を研ぎ、色々な責金、責木を作り
大工の箱に入れて持つ

棟梁の言いつけを聞き、柱や梁を手斧で削り
床と棚を鉋で削り、透かし物と彫り物をする

良く寸法を正し
馬道をすみずみまで手際良く作るのが大工の法である

大工の技を実践して良く覚え
目標を立てれば後に棟梁になれる

大工のたしなみは、良く切れる道具を持ち
時間があれば研ぐ事である

この道具を使って御厨子棚、書棚、机、行灯、まな板、鍋の蓋を
上手に作るのは大工ならではである

兵士である者はこの例の通りにするべきだ
良く吟味しなくてはならない

大工のたしなみは歪まない事
継ぎ目を合わせる事
鉋で良く削る事、擦り磨かない事
後でねじれない事が肝要である


◆水の巻

水を手本として心を水のようにさせる
水はどんな形の器にも形を変えて入る
一滴にも大海原にもなる

水は青々として、その清らかさを用いて
私の流派の事をこの巻に書き表す

剣術の道を確かに見分けられれば
一人の敵に自由に勝つ事が出来て
世界の全ての人に勝つ事が出来る

人に勝つという心は千万の敵にも勝てるという事だ

将である者の兵法は
小さい事を大きくする事であり
小さな原型を使って大仏を建立する事と同じである

これらは細かく書き分けが難しい
一を知って万を知る事が兵法の利である
私の流派の事をこの水の巻に書き記す


◆火の巻

この巻では戦いの事を書き記す

火は大きくなったり小さくなったり
際立って異様な変化をする為、合戦の事を書く

合戦の道は一人と一人の戦いも
万と万との戦いも同じである

心を大きくしたり小さくして吟味すべきである

大きな所は見えやすいが、小さな所は見えにくい
その子細は、大人数だと直ちに戦術に転換させる事が出来ない

一人の事は心一つですぐ変わるので小さい所は理解しにくい
良く吟味しないといけない

この火の巻の事は一瞬で決まるので
日々手に馴染ませ、日常のように思い
心が変わらないようにする

これが兵法の肝要である
だから戦、勝負の所を火の巻に書き記す


◆風の巻

この巻で記す事は私の流派の事ではない
世の中の兵法、流派の事を書き表す

風というのは昔風とか今風、その家々の風などがあり
世間の兵法、流派の内容を定かに書き記す

これが風である

他の事を知らないのでは、己をわきまえる事は難しい
何を行うにも外道という心がある

日々、その道に勤めても心が背けば
良い道と思っても、俯瞰すれば実の道ではない
実の道を極めなければ、少しの心の歪みが
後の大きな歪みの原因となる
吟味すべきだ

他の兵法は剣術が全てだと思っているが
それは間違いである

私の兵法の理合と業においても格別の意義がある
世間の兵法を知る為に風の巻として他流の事を書き表す

 


◆空の巻

この巻は空と書き表すので、奥とか入り口とかは無い
道理を得たと思えば道理を離れる

兵法の道に己と自由があって
己と人並み優れた力量を得て
時に応じて拍子を知り、自然と打ち、自然と当たる

これは皆、空の道である
自然と実の道に入る事を空の巻として書き留める

以上の私の流派の兵法の道は
朝夕勤めて行えば、自ずと広い心になる


◇9つの理

1.邪な事を思わない
2.道を鍛錬する
3.諸芸に触れる
4.諸職の道を知る
5.物事の損得をわきまえる
6.諸事の真実を見極める
7.目に見えない所を悟って知る
8.わずかな事にも気をつける
9.役に立たない事をしない

大抵、この理を心にかけて
兵法の道を鍛錬するべきである
見識を広く持たないと兵法の達者にはなれない


◇勝負への効能

この法を学び得たら
一人でも二十、三十人の敵にも負ける事はない

まず、気を兵法から絶やさず
真実を見極めれば、手で打ち勝ち、目に見える事も人に勝つ

また、鍛錬をして身体を自由に動かせられれば身でも人に勝つ
更にこの道に心が慣れれば、心でも人に勝つ

ここまで至る事が出来れば
どうして人に負ける事があろうか


◇組織への効能

また組織として
良い部下を持ち、多くの部下をうまく使い
身も行いも正しくし
国を良く治め、民を良く養い、世を法で保つ事が出来る


◇つまり

いずれの道においても
人に負けない事を知り
身を助け、名を助ける事が、すなわち兵法の道である

正保2年(1645)5月12日
新免武蔵

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


と言うことでした

「戦い」を切り口にするより
「棟梁のモノづくり、人づくり」を
切り口にしている点が腑に落ちました

8月のこの時期
平和のことを考えつつ体を休めたい
と愚考する次第です

厳しい時は続きます
皆様におかれましても
心の栄養補給は怠らない様、ご自愛下さい

ではまた