many books 参考文献

好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

花のパロディ大全集

2021-05-08 18:48:25 | 丸谷才一

丸谷才一・井上ひさし選 昭和59年 朝日文庫
これ、おととしの10月に地元老舗の古本屋で手に入れたものである。
丸谷才一の古本を探してたんだけど、この本は存在知らなかったんで、まあこんなものもあるんだと喜んで買った。
ふつうの値段でした、ってのは新刊出版時のカバーについてる定価の半分以下、古本の文庫としては、まあ普通って感覚でしょう。
ところが、そのすぐ後に、日本一の古本屋街へ行ったとき、同じもの見つけたら、とても高い値段がついてたんで驚いた。
簡単にいうと私の買ったのの5倍、そんな値打ちする本だったの、知らんかったわ。
どーでもいーけど、古本というのは、長く全然見つけらんなかった本でも見つけるときは短期間に連続して見つけちゃったりするもんです。
んで、普通は高い値段出して買ったあとに、安いの見つけて呆然とするもんなんだけど、そのとき私は幸運にめぐまれたわけだ。
んな古本あるあるはいいとして、困ってしまった。
というのは、本書の帯を見ると「星のパロディ大全集」と「月のパロディ大全集」って続刊があるらしいのだ。
それならシリーズ全部そろえたい、と思ってたとこだが、そんな希少もんだったとしたら、あとの2冊が見つからないかもしれない。
でも、地元の古本屋の棚にはふつうにあったわけだから、どこかにはさりげにあるの発見できるかもしれないという期待もある。
というわけで、あちこちの古本屋のぞくたびにひそかに探してたんだが、去年夏に「月」を、ことし4月に「星」を無事みつけてゲットすることができた。普通の値段で、ホクホク。
こうして、めでたく、長くしまっておいた本書を読み始めることができたのが先月。
なぜって、これを先に読んでみて、おもしろかったら、続編どうしても手に入れるために高い値段で買っちゃうかもしれない自分が怖かったから(笑)
さて、なかみは、タイトルどおりパロディ集なんだけど、「週刊朝日」で読者投稿を募って、芥川賞選考委員の丸谷才一と直木賞選考委員の井上ひさしが審査して掲載作を選んだ企画のもの。
毎回お題が提出されるので、それをパロッたものをつくるんだが、初出が1974年から1978年という時代もあって、ロッキード事件後の政界をネタにしたものとか、医大入試の不正を皮肉ったものとか多いんだが、なかには五つ子ちゃん誕生をとりあげたりしてて、そんな時代もあったわなと感慨にひたってしまう。
パロディというものについて、井上ひさしさんは、
>(1)まず原作の癖や特徴を抽出し、
>(2)その癖や特徴を活かしながら、なるべく原作の世界から遠ざかった、すなわち異質の、あるいは突飛な主題を設定し、
>(3)どうだおもしろいだろう、などと気負うことなく、冷静に、押さえた表現で、偽の原作を再創造する。(p.136)
というのがよろしいと言っている。
丸谷さんは、
>つまり、言葉遊びというのは基本的な教養だったわけですよね。だから自然にパロディもできた。そういう雰囲気が、西洋でも十九世紀の成金的な文明のせいで薄れた。それを日本が非常に浅薄に受け入れたのが文明開化だった。そのせいで、言葉で遊ぶというような気風がずっと薄れていたでしょう。明治百年がすぎてから、やっといま復活しつつある、ということじゃないでしょうか。(p.231)
なんて言ってるんだが、その底には、文学ってのは伝統的なもんである、過去の遺産を踏まえて作るもんであり、マネして作ったものがまた本家になってとかって形でよかったのに、十九世紀以降になると個性でやるのが文学だってことになったのは、いかがなもんかねって思想がある。
投稿作品は毎回のお題によって難しかったり作りやすかったりで出来不出来があると審査員はいうが、丸谷さんが激賞するのは百人一首パロディの出来のよさである。
私がおもしろいと思ったのは、文学作品ぢゃないって意味で、ちょっと変わった題材の「野球規則」だったりする。
原典の野球規則一条「一、野球は、囲いのある競技場で、監督が指揮する九人のプレヤーから成る二つのチームの間で、一人ないし数人の審査員のもとに、本規則に従って行われる競技である。」を、
>「邪馬台国はどこだゲーム」
>一、それは魏志倭人伝の二千字に足らぬ囲いの中で、主として九州チームと畿内チームとの間で、邪馬台国はこちらであると、我が田に水を引くロマン派的な競技である。(p.127)
とか、
>「競馬ファン」
>一、競馬ファンは、二百円で囲いのある競技場に入場し、競馬専門家の指示する数頭の馬から成る馬券を購入し、数回ないし数十回裏切られても、またもや競馬新聞に読みふける人々である。(同)
とかって変えて遊んでるんだけど、なんかシレっとした感じがいい。
コンテンツは以下のとおり。
読書子に寄す――岩波文庫発刊に際して
宮沢賢治「雨ニモマケズ」
夏目漱石「草枕」
時効成立前夜の三億円犯人
新幹線唱歌――乗客10億人突破記念
「吾輩は猫である」ロッキード事件版
狂歌百人一首
野球規則
二条河原落書
狂歌百人一首
自作自評 政治家の伝記映画
文部省唱歌
対談/丸谷才一=井上ひさし パロディ精神ってなんだろう


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ザ・タイマーズ スペシャル... | トップ | ウォーターメソッドマン »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

丸谷才一」カテゴリの最新記事