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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

ウォーターメソッドマン

2021-05-09 19:28:04 | 読んだ本

ジョン・アーヴィング/ 川本三郎/柴田元幸/岸本佐知子訳 平成五年 新潮文庫版 上・下巻
ときどき長い小説を読みたくなることがある。
これは、そんなときのためにと、去年10月だったか古本街で見かけたときに買っといたもの。
翻訳の新刊出た当時もたしか知ってたんだけどね、なんかそのころは、ま、もうしばらくはいいかアーヴィングは、って気分になっててスルーしたと思う。
なんか自分でもわかんないが、ある作家に対する熱のようなものは時期によってうつろうものがある。
さて、タイトルのウォーターメソッドは、水療法のことである。
主人公は、病名の定まらない「ある種の感染症」で、五年間で七回という頻度で障害に悩まされてきた、その症状は“くっついてつまる”んで排尿時に痛い。
そこで新しい泌尿器科医を訪ねたとこから話が始まって、そのとき勧められたのが水をたくさん飲む水療法。
主人公は、トランパーという男だが、本名のフレッドで呼ぶのは両親だけ、ちなみに父親は泌尿器科医。
友人たちはボーガスと呼ぶが、これは「ホラ吹き」という意味らしい、見てるとそんなにホラ吹きでもなさそうだけど。
主人公は1942年生まれで物語の舞台はだいたい1969年から70年ころ、主人公はアイオワ州立大学の大学院生で古代低地ノルド語の翻訳をしている、その言語は誰も知らないので適当に話をでっちあげてもわからないというシロモノ。
1964年にオーストリアに行ったとき、スキーのアメリカ代表選手であるビギーという愛称の体の大きな女性と出会い、妊娠させてしまって結婚、翌年男の子が生まれる、ちなみにトランパーの父はこのことに怒り、息子への経済的援助を打ち切る。
決まった職も持てずにいた主人公は、とうとう妻子を捨てて家出してウィーンに行ってしまう、現地では旧友には会えず、トラブルに巻き込まれたり散々。
半年くらいして帰ってくると、妻は離婚を成立させていて、主人公の昔っからの親友と結婚してた。
トランパーはニューヨークへ行って、アンダーグラウンド映画をつくってる友人の仕事を手伝って、サウンドトラック担当となる。
そこで編集の助手をしてたトゥルペンという女性と同棲することになった、魚とカメを飼ってて水槽がいっぱいの彼女の部屋へ転がり込んで。
で、その彼女の婦人科医がすすめてくれた新しい泌尿器科医のとこへ行く、ってとこが第1章なんで、それまでのことは後から出てくるのを読んでくうちにわかってくるという仕掛けになってる。
こういう時間の転置ってのは、二十世紀になってからの技法だということは丸谷才一の評論によって私は知ったんだけど。
どっちかっていうと、私が長い小説を読みたいって思うときは、時間の流れに沿って滔々と流れゆくようなものが好みなんで、十九世紀的というか、ちょっとこういう行きつ戻りつするものとは違う気がする。
読みにくいってほどではないけどね、ぎっしりした長文が続くわけぢゃなく、章によっては手紙文であったりとか、映画のシナリオみたいであったりとかで、さくさくしてる部分もあるんで、思ったより短い時間で読めたし。
それはそうと、主人公トランパーに対して、子供を産んだっていいとまで思ってるトゥルペンは、
>「あなたはいろんなことに距離を置いておきたいのね」と彼女は言った。「超然としていたいのね。いろんなことにかかわりを持ちたくない、自由でいたい……」(上巻p.158)
といって、方向性とか計画性とか、自分にとって意味のあるもの作ってこうって気がないって指摘する。
>墓の土に少し草が生えるまで待て、というのが僕のモットーだ。少し待ってから見た方が安全なのだ。(下巻p.209)
と自覚する主人公なんだが、そのへん、大人になりたくなんかない、どっか逃げちゃいたい若者の物語なんである。
原題「The Water-Method Man」、1972年の出版。十分、旧いね。


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