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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

先崎学の浮いたり沈んだり

2021-11-07 18:13:08 | 読んだ本

先崎学 2002年 文藝春秋
このあいだ『摩訶不思議な棋士の脳』の記事を書いてるときに、そういやあ最初の『浮いたり沈んだり』について書いたのはいつだったけか、と思って、自分のブログんなか検索したんだが、無いんである。
ウソだあ、自分で信じられなかった、なんで無いの、それで何回ワード変えて検索してもホントになく、『まわり将棋は技術だ』『山手線内回りのゲリラ』は採りあげてるのに、シリーズ第一巻たるのを落としている。
こりゃしまった、まあ、だいぶ以前の本だから、(ブログ始めたの2008年だし)そういうこともあるか、ぢゃ早速、と思って、探したんだけど、今度は本が見つからない。
ウソ、ありえないっしょ、と本棚あちこち探した、家具の裏とか下から綿ボコリが出てきちゃうくらい家探ししたんだが、とうとう見つけられなかった。
どうしたんだろう、まさか売ったともおもえないが、と自分が信じらんなくなって悩んでしまった。
落ち込んでもしょうがないので、街の古本屋に行ったら、均一棚にあったんで即買った。
手に取ってみれば、そうそう、表紙の色とか絵とかも鮮明に記憶ある、一時期愛読してたよな、って思う。ホントどこへやっちゃったのか。
さて中身は、「週刊文春」連載コラムの2000年10月~2002年4月ということで、その後長期にわたり続いたものの初期のもの。
もう二十年も前かー、とか改めて思ってしまうと月日の経つのの速さに驚いてしまう、え、まだ藤井聡太が産まれていないころのことか!?
著者先ちゃんは、2000年にA級八段に上がる、でも2002年3月には降級してしまった、あとがきには「沈めば、きっと浮く日がくると信じる事がいかに大切か」なんて書いている。
何度も読んだ内容は、やっぱりよくおぼえているものがあって、いま読み返しても感慨がある。
森雞二九段が対局中に控室に入ってきて、自分の盤面が映っているモニターに向かって「悪手を指せ」と声に出して相手に念力かけるような場面とか。
花村・芹沢戦の記録をとってたら、相手が席を立ってるあいだに「芹ちゃんのこの手はなっちゃいねえ」とか「なんだいこんな手は。花ちゃんも、もう歳だな、こうやられていたらまいっていたんだ」とか、批判しあう古き良き対局室の光景とか。
おなじみ郷田真隆九段が、携帯持ってないどころか、FAXが嫌いで原稿書いたらわざわざ編集部まで持参するようなことしてて、当然パソコンなんか持ってなくて、持つ気がないのか著者がきいたら、
>「パソコン? そんなものより大事なものは世の中にいくらでもある」(p.151)
って答えたという、私の好きなエピソードも本書のなかにあって懐かしかった。(羽生から棋聖を奪取した2001年の話。さすがに今は使ってるんぢゃないかと。)
それでも、いま読み返してみると、全般的に内容は将棋のことが多いなと感じる、その後時代が下がったほうが関係ない話題が増えたんぢゃないかという気がする。
観戦記を書くという立場でタイトル戦の現場へ行ったときのこと、その役目はいわば評論家だとしつつも、
>評論とは、感性の披露である。感性とは手持ちのカードのようなもので、出しているときはいくらでも出てきそうな気がするが、自分の残り札が少なくなっていることには、なかなか気が付かない。(略)
>皮膚に染み込んだ感性を言語に換えることには非常な困難さがつきまとう。不可能だといってもいい。言葉という表現を持った瞬間から、感性は色褪せてゆくからである。(p.58)
というようにその難しさを語る。
対局者の思考と心理を、自らの想像力を駆使して言語に翻訳するんだ、っていうんだけど、そういう心掛けを昔っから持っていた先崎九段の解説は、いまも(ただの手の解説にとどまらないから)おもしろい。
最近の(といっても本書の話は二十年前だけど)若手は生活権を尊重しあう常識ある人が増えてバクチなんかしないが、十年ぐらい前(ということは今からだと三十年前)はひどかった、って話の展開から、
>しかし、所詮は将棋指しなんてあっても無くても良い職業という、アウトローな気持を持つことは、勝つか負けるかだけの世界に生きる者にとって、大事なことだと思っている。そういう気持があるからこそ、将棋ファンを大事にできるのだとも思う。(p.47)
というとこに着地するんだけど、将棋界の位置というか未来というかってことについては、昔からけっこう真面目なんだなって再認識した。


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