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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

日本の漫画への感謝

2014-03-27 22:23:01 | 好きな本
四方田犬彦 2013年 潮出版社
最近読んだ本、これはかなりおもしろく読めた、お気に入りに値する。
著者自身は、漫画に関する分析とか批評とかぢゃなくて、「プライヴェイトなエッセー」と言ってるようだけど、どうしてどうして、なかなか深い。
とりあげられているのは、貸本文化のあった1950年代中ごろから、ようやく週刊誌がザクザク出始めた1960年代半ばまでといったあたりがメイン。
日本の漫画の歴史とか、著者の(戦争なんかの)体験による執筆の背景とか、はたまた技術的な分析とか、たいへん勉強になる。
たとえば、ある漫画家と別の者の描くものについて、私なんかは、なんとなく似てるとこあるかな、くらいのボーッとした印象しか持たないで読んでんだけど、
>さいとう(注:たかを)が不必要なまでに人物の顔と身体に雑駁な影を走らせ、人物が口を開くたびに唾を吐き出させるとすれば、影丸(注:譲也)はそうした記号を巧みに抑制し、適材適所といわれるところにしか配置しようとしない。ありかわ(注:栄一)が語りの均衡を崩してまでも射撃の決定的瞬間を巨大な静止画として提示してみせるとき、影丸は逆にアクションそのもののスペクタクル化に懐疑的な姿勢を見せる。(略)
なーんて具合に述べられていて、学術的だなあと感心させられる。(それ以前に、よく細かいこと見てるなあと思う。)
全編、そんな調子に満ちているので、ほんと漫画学の教科書という感じ。私なんかは読んだことない人が多いんだけどね。
横山光輝の章においては、彼の描くマンガは、常に1頁あたりが四段×三列のコマに分割されたサイズを基本に成り立ってるから、「読者が横山光輝の漫画に対して感じる読みやすさは、こうして穏やかに秩序づけられた画面構成に由来している」と説明してくれているし、「様式性」とか「語りの能率のよさ」が読者にとって読みやすさにつながってると解き明かしてくれてて、なるほど!って膝を打っちゃった。
コンテンツは以下のとおり。
・偉大なる魔術師 杉浦茂
・少女の満州 上田としこ
・かぎりなく平穏な日常 わちさんぺい
・いやなこというね 前谷惟光
・南海からの帰還 水木しげる
・ぼくは日本少年だ 益子かつみ
・いつまでも喧嘩、喧嘩 伊東あきお
・衝突する宇宙 大友朗
・蛇になったママ 楳図かずお
・屈辱、復讐、執念、修行 平田弘史
・一見古風、実は脱ジャンル 堀江卓
・歴史と救済 手塚治虫
・すばらしき平衡感覚 横山光輝
・悪の眼差し 桑田次郎
・漲るばかりの生気 石森章太郎
・お兄さまはけっして 藤子不二雄
・子供たちの政治 赤塚不二夫
・世界文学をわが手に 水野英子
・栄光とエスニシティ 梶原一騎
・疾走、急停止 関谷ひさし
・お金持ちの少女 ちばてつや
・ちばてつや先生との対話
・劇画家の禁欲と拘泥 影丸譲也
・逆光の肖像 沼田清
・人間と人間ならざる者 山上たつひこ
・陽根、勃つべし 政岡としや
・厭世 楠勝平

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