うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

カガリBD『温泉旅行』⑩「双子の秘め事」

2018年05月18日 21時54分19秒 | ノベルズ
「たっだいま~!」
この2日、たっぷりと幸せを味わったカガリは満面の笑みで勢いよくアスハ邸の玄関をくぐった。
「おかえりなさいませ、姫様。ご旅行は楽しかったですか?」
荷物を受け取るマーナが恭しく出迎える。
「うん!色々遊べたし、ごはんも美味しかったぞ!あ、もちろんアスハ家の料理長のご飯も天下一品だがな!」
「『一品』であれば両雄は並び立ちませんよ、姫様。」
「いや、うちは洋食メインだろ。でも向こうは和食専門。それぞれ美味しいからどっちも天下一品でOKだ。」
「まぁまぁ。」
マーナが苦笑する。だがすぐに彼女は神妙な面持ちになった。
「マーナ?何かあったのか?」
「それが・・・どうぞこちらにおいでくださいまし。」
何か表情が曇りがちだ。まさか、私がいない間にオーブに何か重大なことでもあったのだろうか?
「マーナ、教えてくれ!一体留守中に何があったんだ!?」
「こちらに来ていただけましたらお分かりになるかと・・・さぁ姫様」
そう言って頭を下げたマーナが促すのは―――応接室。
「?」
さっぱり訳が分からない。恐る恐るカガリがドアを開けたその時だった。
「「「カガリ様、お誕生日おめでとうございます!」」」
<パンパン!>とクラッカーのはじける音に続いて目の前がパッと明るくなれば、
そこには大量の青と黄色の花々。

「うわ・・・これって・・・」
「アスハ家使用人、一同とヤマト家ご夫妻より、姫様とキラ様へのささやかなお祝いです。」
執事の言葉に続き、皆皆が拍手を贈ってくれる。
(やっぱり、待っていてくれる人がいるって最高の贅沢だ。)
何だか目の奥が熱くなってくる。今日はこんな嬉しい涙ばかりが溢れる日だ。
「みんな、ありがとう・・・」

悲しい涙は見せたくない。
けど、
嬉しい涙は、みんなも嬉しくなるはずだ。

カガリは目いっぱい泣いて、笑った。


そして
(そうそう、アイツにもちゃんと伝えないと・・・)

***

<カガリ!久しぶりだね。元気にしてた?>
「無論だ。代表たるもの、いちいちケガや病気なんてしていられるか。」
<それを聞いて安心したよ。だってカガリって昔から無茶ばっかりするんだもん。>
「いいや、むしろ頑固なのはお前の方だぞ、キラ。」
性別と髪や瞳の色を除けば、やっぱり自分を見ているみたいにモニターの向こうはそっくりな笑顔で返す双子の弟がいる。
<それはともかく、メールじゃなく直接通信って珍しいね。>
「うん、実はお前に届けたいものがあってさ。」
<届けるって・・・うわぁ・・・凄いね。>
カガリが身を引いてモニターの向こうを見せてみれば、部屋中に青と黄色の花々が溢れている。
「これな。アスハ家のみんなや、ヤマトのご両親から、キラと私へってさ。ちゃんとバースデーカードまでついてるんだぞ。お前のは直接見てもらったほうがいいと思って、あとで送るからな。あ、でもヤマトのご両親にはちゃんと直接お礼言えよ。」
<父さんと母さんと、それに・・・アスハ家のみんなが、『僕』にも?>
「そりゃそうさ。だって私たちは同じ誕生日、この世でたった二人の双子の姉弟なんだから。」
<うん・・・そうだね・・・みんな、ありがとう・・・沢山ありがとうって伝えておいて。>
キラも何だか瞳が潤んでいる。やっぱり双子。感性も似ているとつくづく思う。
<ところで僕って『青』のイメージなのかな?>
「う~ん・・・『ストライクフリーダム』とかお前のMSって白と青が基調だろ。でもアスランはお前は『白』だって言ってたぞ。」
<アスラン?なんでアスランの話が出るのさ。>
「う・・・」
しまった。キラとアスランは仲がいい。なのに、カガリ絡みになると、とたんにアスランに厳しくなる。
カガリが言いよどんでいると、キラがここぞとばかりに詮索してくる。
<そういえば、実は今日一度僕から政務室に直接コール入れてみたんだけど、「カガリは休み」って言われて。何処かに行っていたの?>
「ちょっと旅行にな。アスランに誘われて。」
<へ~アスランに。>
あ、いつものどこか挑戦的な視線だ。
でも
「何だお前?いつもみたいに食って掛かってこないな。そっちの方が珍しいぞ。」
<だって攻められないよ。カガリがいつもよりすごく楽しそうで・・・綺麗に見えるから。>
「はぁ!?な、なんだよ、綺麗って!?///」
今までキラに容姿を褒められたことなんてない。そりゃそうだ。カガリの容姿をとやかく言えば「=自分も同様です」と言っているようなものだから。
だが、そんなセリフをあのキラが吐くなんて。さては・・・
「お前、何かいいことあっただろ?」
<え!?そ、そりゃ今日は僕の誕生日だし///>
顔が赤くなった、こいつも感情が誤魔化せないやつだ。何しろ双子―――はもういいとして、自分と同様の反応ということは
「ラクスから誕生日のプレゼント貰っただろ?それも「超特別」の!」
<うっ//////そ、そういうならカガリも旅行だけじゃなくって、アスランになんかもらったでしょ?それこそ「超!特別」なのを!例えば・・・『プロポーズ』されたとか?>
「ゴホッ!」
<やっぱり…何となくわかるんだよね。こんなに離れていても、時々ふっと嬉しくなったり悲しくなったりする時があって。その時って大抵カガリがそういう体験している時なんだよね。なんていうか、目に見えない、テレパシーみたいなの。>
「『シンパシー』か。」
確かに。なんだかキラは思い悩んでいるとか、心の奥がなんとなくわかるときがある。初めて出会ったときからそうだったっけ。
でも、あえてアスランへの苦言をしないあたり、そしてシンパシーということは、今はキラもおなじホカホカな幸せを感じているはず。ということは・・・
「お前も『プロポーズ』されただろう?ラクスに。」
<ゴホッ!って…やっぱりカガリにはわかっちゃうか。あ、でも‼名誉のために言わせてもらうけど。僕から言ったんだからね。「君の残りの人生が欲しい」って。>
「凄いセリフ吐くな、お前・・・」
<でもラクスは凄く笑って、泣いてくれた。>
ラクスは辛い時もずっと泣かないで耐える強い女性だけど、お父さんとミーアさんを殺された時だけ凄く泣いていていた。悲しいだけじゃない、特にミーアの時は自分の不甲斐なさに涙する、そういう女性だ。でもそれができるのは・・・
「ラクスが泣けるのはキラの前だけだ。ちゃんと幸せにしてやらなきゃだめだぞ!」
<カガリも絶対幸せにね。もうあんな結婚しちゃだめだよ!>
「・・・それはアスランに言ってくれ・・・」
<いや、どっちかというと、アスランが幸せにするんじゃなくって、カガリが幸せにしてくれそうな気がするんだもん>
私はどれだけ逞しく見えるんだ。
<ねね。アスランのプロポーズってどんなだったの!?>
「それは、本人に聞いてくれ。」
これは流石に当人同士だけの秘密事項だ。
<じゃぁ、カガリはどんな風に応えたの?>
「食いつくな、お前・・・私からは「毎日「行ってらっしゃい」と言わせて欲しい。」って。送り出して、帰りを待ってくれる人がいるって嬉しいことだから。」
<うん、そうだね・・・>
この世でたった一人の血族。そういう意味では例え宇宙に居ても地球に居ても思いは同じだ。
「アスランはアスランで大事な家族になるが、お前はお前で私の大事な弟だ。この世にたった一人の大事な弟だ。離れていても、お前のこともちゃんと待っているからな。」
<僕もカガリがラクスと別に大事な人だから。いつでも会いに来て。>
離れていても、心はちゃんと繋がっている。双子ならではのシンパシー。だったら同じ日に生まれてくれたことが本当に嬉しい。
「そうだ!今日が終わるまで、あと1時間しかないじゃないか!一番大事なことをお前に言うの忘れるところだった!」
<僕も言わなきゃと思ってたんだ。じゃぁカガリ>
「キラ、せーの
「<『ハッピーバースデー』、それから―――

画面におでこをくっつけ合って、笑い合う

『ハッピーウディング』!!>」


・・・(今度こそ本当に)終わり。



***



いや~最後の最後でメイン登場。双子ちゃん誕生日おめでとう会です。
実は本日旅行からの帰り、そのまんま家に直行する予定だったんですが、「一年に一回の出来事だし、お花とか手紙が見たい!!」と自分の誕生日以上に張り切って、『ガンカフェ』に行ってきたんです。
そうしたら、凄い綺麗なお花のアレンジや、花束が置いてあって、双子愛を満喫できました。「行ってよかった~~
一人でサクッと飲み物飲むだけのつもりが、いつも仲良くしてくださるアスカガーさんが皆さん集まっていて、結局話し込んでしまって、気が付きゃこんなじかんですよ(笑)
二人の誕生日にかこつけて幸せな時間を過ごせました。ありがとう、そしてありがとう!


・・・それにしても、行った場所と体験をネタに3日間誕生日SSをお送りしてきましたが、やってみた感想
―――「かもしたには向いてねぇ(--;)」
やっぱり発想力とか語彙がある方、文章力ある方であれば行き当たりばったりでも素晴らしい作品が生み出せるのでしょうが、見ての通り、かもしたにかかると全然ダメダメですね。
推敲時間がなくとも作品にできる、というのは実力がないといかんということがしみじみわかりました。なので「もう二度としないワ(´∀`*)ウフフ」




カガリBD『温泉旅行』⑨ずっとふたりで・・・

2018年05月18日 13時36分09秒 | ノベルズ
「わぁ・・・凄い!」
山肌に沿ったバラ園を上り抜けた先にあったのは、一面開けた緑の芝生。そして、温かみのある木製の小屋。
小屋の壁はすべてガラス張りで、遠く水平線の向こうまで見渡せる、絶景だった。
そこはカフェのようで、お茶も楽しめるようになっている。
「当店はバラやハーブのお茶と飲み物を提供させていただいております。どうぞおくつろぎください。」
そう言って人のよさそうな店主が勧めてくれたのは、カモミールティと、お茶請けは『フロマージュローズ』というタルト。

二人して外のテラスにある木製のチェストで一息つく。
「ここで咲いたバラの花びらを砂糖で煮詰めて作ったジャムが入っているそうだ。」
というアスランの説明よりも早く、カガリが早速タルトに舌鼓を打つ。
「美味しい!バラってこんなに美味しくなるんだ。香りもいいし。」
タルトに添えられているのはバラの花びらの砂糖漬け。くどい甘さはなく、ほのかな酸味が口の中一杯に広がる。

テラスの向こうに広がる景色を独り占め・・・いや二人締めしながらのティータイム。穏やかな日差しと心地よい風で、いつまでもいられそうだ。
「あ~ずっとここに居たいな~。帰るの嫌になってきた。」
足を投げ出し、カガリが呟くと、アスランは笑う。
「じゃぁ、ここにずっと二人でいるか?」
「居たいさ。・・・でもきっと毎日じゃだめなんだ。たまに来るからいいんであって。」
「なら・・・」
アスランが頬杖をつきながら海を眺めるカガリの横顔を見据える。
「ずっと居てもいいと思うところはどんなところだ?」
カガリはあっさりと答えた。
「そりゃ待ってくれる家族がいるところだ。どんなに疲れても、苛立っている時でも、それを受け入れて待っていてくれるところだな。」
「じゃぁ話は早い。行きたいところがある。」
アスランがトレーを持ち上げた。
「え?お前が行きたかったところってここだろ?」
「このバラ園には変わりないんだけど、カガリと二人でしか行きたくない場所があるんだ。」
何故だろう・・・少し彼の横顔が赤くなっている気がする・・・。


再びバラの中を歩きだせば、バラたちに導かれるようにして、少し開けた場所に出た。

小道の奥に小さなバラの小屋。梁だけが木で、屋根も壁も一面バラが覆いつくしている。

小さな池とそこにたたずむマリア像。
バラの隙間から木漏れ日が柔らかく差し込み、ここだけ凄く涼しい。
(なんか、教会の中にいるみたい・・・)
見上げる彼女に彼は改まって声をかけた。
「カガリ、その、こっちを見てくれないか?」
「アスラン・・・?」
酷く神妙な表情だ。
「カガリ、この場所の名前、教えてあげようか?」
そういえば一つの場所ごとに、ガーデンの名前がついていた。
「ここは『プロポーズガーデン』って言うらしい。」
「へ~確かに厳かな雰囲気だよな・・・――って、プロポーズ!?」
「そう・・・だから、その//////」
照れくさそうに、でもチラリと向けられる翡翠に、カガリは見覚えがあった。
(あの時・・・指輪をくれた時のアスランだ・・・)
彼は恭しく、でも力を込めてカガリの両手を取った。
「君と出会って、君の傍にいると誓ったのに、俺は自分のことばかり考えて、大変な状況の君を置いてプラントに戻った。あまつさえ、オーブと敵対するZAFTに復隊して。君を一人にしてしまったことで、君は自分の幸せすら捨てざるを得ない状況にまで追いやった。・・・こんな俺がもう一度、君の傍にいることを望んでいいものかと思った。最初はただ傍にいて、君を見守れれば、それでいい、と何度も言い聞かせたけれど、ダメだった・・・どうしても、俺の手の中で君を守りたくて…いや、俺のものにしたいという思いを諦めきれなかった。」
「アスラン・・・」
「だから、こうして二人になれる機会に、君の気持ちを確かめたかったんだ。昨日の夜の君の焦る様子を見て、やっぱり認めてくれないかと思っていたけれど・・・俺の胸に飛び込んでくれて、嬉しかった。そして決めたんだ。今日もう一度、君にきちんとプロポーズしようと。」
真摯な翡翠に吸い込まれそうになる。
本当はお願いするのは私の方なのに。
「カガリ・ユラ・アスハ。俺と、結婚してくれませんか?」
「その・・・だな、アスラン。」
「・・・駄目・・・か?」
「ううん!その・・・私からのお願いだ。凄く贅沢なお願いだぞ?」
「助力してみるが、俺にできることならなんでも。」
「違う、私の願いだ。」
もう一度彼の手を私から取り、胸に掲げる。
「お前にいつも「行ってらっしゃい」と「お帰り」を言わせてもらっていいか?」
「カガリ・・・」

(―――「「行ってらっしゃい」って言ってくれる人がいるって、すごい贅沢だぞ!」)

そうだ。
気が付けばいつも一人きりの部屋。
見送る人も、迎える人もない、たった一人の世界。
暗かったそこに、温かな光が差し込んでくる。

何時もそこに―――『君がいる』

「俺からも頼む。毎日君が迎えてくれる贅沢、ずっと味わっていたい。」
「うん、だからもう、絶対、どこにも行くなよ。」
「あぁ、約束する。」
抱きすくめた彼女から、淡くて優しいバラのような香りがする。
このバラの香りは―――

「アスラン、この下、見てみろよ。」

カガリがアスランの腕を引いてみた先には、大輪の『黄色』と『赤』のバラが絡み合い咲き誇るトンネル。
「お前と私のイメージのバラで出来ているみたいだ。」
カガリがはしゃぐ。

黄色と赤のバラの門をくぐった先には―――

二人の行く先を出迎えてくれるような広い庭。


「ここか・・・」
「アスラン、ここの広場の名前は?」
「『ウエディングガーデン』。」
「そっか。なんか黄色と赤のバラで出来ていて、このまま結婚式揚げられそうだな。」
「でも、カガリはハウメア神だから、祭壇で上げるんだろ。挙式は。」
「う~ん・・・確かにそうなんだけれど、でも、できたらこんな感じがいいな。親しい人だけが集まって、こじんまりとできるのが。」

小さなマリア像の迎える祭壇で誓いの言葉を交わし、そしてバラに囲まれたウエディングドレスのカガリ。

アスランの微笑みが溢れる。
「いいな、それ。」
「うん。だから、な。」
カガリがそっと耳元でささやいた。
「また来ような、絶対ここへ。」
「あぁ。約束する。」

きっと、ずっと、ふたりで・・・



・・・終。



***



この『プロポーズガーデン』と『ウエディングガーデン』は本当にこういう名前で存在しています。
しかも、ウエディングガーデンが、偶然にも赤と黄色のバラで囲まれているんですよ。
まるでアスカガの未来を祝福しているようだわ。。。。と一人感激(笑)

ここでは本当に結婚式できるそうです。

いつかやって欲しい。アスカガ二人には。


・・・ということで、今回の「カガリ様バースデーSS企画」は終了です。
間違えてここまで頑張って読んでくださいました皆さん、お疲れさまでした&ありがとうございました<(_ _)>
(てなことで、東京に帰ります。)




カガリBD『温泉旅行』⑧あなたの色は・・・

2018年05月18日 10時35分12秒 | ノベルズ
「・・・やられた・・・」
誰もいない早朝の露天風呂は、再び貸し切り状態だった。
少し低めの湯温が、朝の目覚めたばかりの肌に心地いい。
そんな最高の誕生日の朝なのだが、開口一番出てしまったのは、ため息一つ。
(全く・・・手加減しろよって言ったのに・・・)
一番大事な人の腕の中、極上の笑顔で目覚めを迎えられた瞬間は、確かに今までで一番幸せな朝だった。
だが、こうして朝の湯に浸かろうと、浴衣をハラリと解いた瞬間、目に飛び込んできたのは、白い肌に浮かぶ紅の痕。
誰かが見ようものなら、明らかに愛された痕と、一発で見抜かれる。
「誰もいなくてよかった~」
肩で安堵の息をつきつつ、少しでもよく温まれば、肌全体に赤みが帯びて目立たなくなるかもしれない。
(そして、部屋に戻ったら、ギッタギッタにお説教してやる!)
湯の中で握りしめたカガリの拳。

尚、それが振り下ろされ―――るかと思ったが、迎えた朝食の膳には、悪気一つもないアスランの笑顔と
「良かったなカガリ。ほら、これが『温泉卵』だ。」
カガリが願ってやまなかった、白身だけがトロリとした、憧れのものがそこに。
「やった!これが『おんせんたまご』か!食べられてよかった~~!!」
カガリの拳は、見事『温泉卵』によって満足な表情となって打ち返された。


***


「で、今日はどこへ行くんだ?今日はお前が行きたいところに行くって言ってたよな。」
「あぁ。できればカガリを連れていきたいと思っていたところだ。」
宿を後にして海に向かえば、今日も波は穏やかで心地よい潮風が柔らかな金糸を撫ぜる。
温泉地から少し離れた場所にあるらしい。
カガリはアスランに導かれるまま、ローカルなバスに乗る。
海岸沿いに走る車窓からは、まだ朝の光が波をキラキラと光らせる。
15分くらいたっただろうか。アスランが降車ボタンを押したのは、正直「なーんにもない」海と山との間。
「・・・ここって・・・あ!」
カガリがポンと手を打つ。
「わかった!昨日の登山勝負のリベンジだな!」
アスランは苦笑して首を振る。
「・・・いや、昨日の今日で勝負はないから。というか、登山なら昨日俺が勝ったからリベンジじゃないな。」
「あ、そうか。でも一体ここに何があるんだ?」
またも?を頭に浮かべるカガリに、アスランは微笑んだ。
「さぁ、こっちに来てみて。いいものが見れると思う。でもその前に―――」
というが早いか、アスランがカガリの背後からカガリの両眼を塞いだ。
「へ?ちょ、ちょっと何するんだ?アスラン。」
「暫くこのままで行こう。もう少し歩いたら見せてあげるから。」
「うん・・・」
とりあえず良くわからないが、まるで隊列を組んでいるみたいによちよちとこのまま歩いていく。
数分歩いただろうか。
「さぁ、どうぞ姫様。」
アスランがそっと手を離すと
「わぁ・・・」



そこには一面のバラ。
アーチをくぐれば山肌全体にバラの花が見事なまでに咲き乱れていた。
「カガリは5月生まれだから、誕生花はバラだし、しかも今が一番バラのシーズンだから、ここに連れてきたかったんだ。」
そう言ってアスランは恭しくカガリの手を取ると、赤いバラのアーチを潜り抜けていく。

パティオの中も一面のバラ。つやつやとした緑の葉に、大輪の花がいくつもその存在を主張している。
柔らかく、甘い香りが二人を包み込む。
「一体どのくらいバラが植わっているんだろう。アスハ家の庭でもこんなにないぞ。」
「大体20万株、とはガイドにあったけれど・・・クライン邸の庭もバラが溢れていたが、流石にここまではなかったな。」
「クライン・・・ラクスの家か?」
「あぁ。」
そういえばアスランとラクスはかつて婚約した間柄だった。ただそこに男女の愛情があったかどうかは分からない。まだ幼過ぎたと言えなくもないが、今、彼女とその恋人であるキラとはいい友情を保てていると思う。
「ラクスか・・・あのバラ、凄くラクスっぽいな。」

そう言ってカガリが指さした先には、淡いピンクの八重のバラ。ふわりとした柔らかな花弁が、確かにラクスを思い出させる。
「ラクスはやっぱりピンクで、こう・・・ふわっとした感じだけど、でもこのバラみたいに中心は色が濃くって、真の強さを持っているから、うん!やっぱりこのバラだ。」
カガリが「これに決定!」と拍手する。そんなカガリにアスランが問う。
「だったら、同じく今日が誕生日のキラはどんな色だと思う?」
「う~ん、そうだな・・・というか、お前の方が付き合い長いんだから、お前が見つけてみろよ。」
お鉢が回ってしまった。だが親友を色で表すのは、難しいが何か楽しい。
「そうだな。しいて言えば、これだろうか。」
「どれどれ?」
カガリが見聞する。
そこには純白のほのかな香りの立つ大輪が一つ。

「真っ白か。して、その心は?」
「何物にも染められる。けれど、何物にも染まらない。」
「・・・うん。」
確かにカガリと初めて出会ったときのキラは、周囲の喧騒や軋轢で苦しんでいた。自分の身をどうおいていいのか一人苦しんでいる彼を放っておけないと、度々気をもんだ。傷みやすい白いバラの花びらは、まさしくあの時の彼そのものだ。
でも2度目の大戦で、キラは迷わなかった。ずっと自分の意思を貫き通した。何物にも染まらず。
「それも合格!」とカガリが太鼓判を押す。
すると、
「やっぱりカガリは黄色かな。」
アスランが指示した先には、やはり大輪の黄色いバラが、いくつも力強い花を咲かせている。

「確かに私は髪も瞳も金色だけど、『イコール黄色』って安直すぎないか?」
姫様にはややご不満だったようだが、アスランは首を横に振った。
「いや、初めて会ったときの君にそっくりだ。」
「どこが?」
「無人島で見た君は、丁度夕焼けを受けて、こんな色だったから。」
黄色の中に宿る夕焼け色のオレンジ。
やぱりあそこが二人の原点で、アスランにとっての地球そのものの印象らしい。
「な、なんかそう言われると照れくさいな///・・・じゃぁ、お前はやっぱりこれだ。」
カガリが独断で頷くのは

「やっぱり『赤の騎士』は、赤いバラだよな。」
ディオキアに呼び出すときに、暗号で使ったとはいえ、なんとなく気恥ずかしくなる。
「カガリ、できれば違う色でも俺を探してみてくれないか?」
「う~ん、そうだな・・・―――っ!(やばい・・・)」
カガリの足が立ち止まって、何故だろう、やや口元が引きつっている。
「どうした?カガリ。」
「い、いや!やっぱりお前は『赤』が一番お前らしいって!さ、次行くぞ!」
「か、カガリ?」
訳もわからず戸惑うアスランの背中をカガリがぐいぐいと押す。

綺麗だが、正直気まずくなる色がそこにあった。




・・・続く。


***


最後の写真のバラ。
写メで見るとピンクっぽいんですが、生で見るとバリバリ薄紫なんですよ。
そう・・・あのアンチキショーの髪の色そのもので(笑)
撮影しながら「カガリィ~ンv」というのじーの声が聞こえてきそうでした(笑)



カガリBD『温泉旅行』⑦Happy Birthdayの夜

2018年05月18日 00時00分40秒 | ノベルズ
食事が終わり、部屋に戻ろうとドアを開けたカガリは入り口で立ち止まり、絶句している。
「・・・・・・・。」
一体これはどういうことだろうか。
いや、二人で旅行する、という提案の時点で気づくべきだったのかもしれないが。
「どうした?カガリ。」
背後からアスランがそっと声をかけると
「こ、こ、これって、どういうことだよ!?」
「「これ」って?」
カガリが<ビシ!>っと指差した先には―――

部屋の中央にぴったりとくっつけられた布団2客。

「これって普通は男女二人で部屋を取ったとき、布団の間に『衝立』みたいなの置くのが普通じゃないか!?」
頬どころか耳まで真っ赤にしたカガリが、唇の端を引きつらせながら力説するが、アスランは涼しい表情を全く変えずにさらりと言った。
「あぁ。だってチェックインの時「夫婦二人です」って言ったから。」
「な…!//////」
(ふ、夫婦二人って!)
「わ、わ、私たち夫婦なんかじゃないだろ!」
「だったらどう説明するんだ?まさか本名明かして泊まるわけにはいかないだろう?俺はともかく君は一国の主なんだから。堂々と未婚の男性と泊まりに来ています、って今からフロントに言いなおしてくるか?」
「―――っ!//////」
確信犯だ・・・こいつ、判っていてそうしたな!
「ば、バカっ!」
そういうや否や、カガリは先ほど干しておいたタオルをひったくり、再び部屋を出た。
「カガリ!?」
「と、とりあえずもう一回風呂に入ってくるっ!」


(ブクブクブクブク・・・)
温泉に顔を付けるのはマナー違反だが、ついこうして不満や考え事があると泡と一緒に吐き出したくなる。
確かにアスランとは公式に発表しているわけではないが、恋人同士とお互いに思っている。
親しい周囲の者たちも、それを認めてくれている。
だから遠慮なく付き合えばいい・・・のは、一般人の考え方だ。
一応国を預かる身として、軽率な行動はとれない。
無論男女の関係で間違いがあっては信用問題にかかわる。
アスランと結ばれれば、確実に彼にも国の行く末がその双肩にかかってくる。もうプラントとの戦争は起こさない。そのつもりで日々政務をこなしているが、もし、万が一、またも戦争の火種が落ちてしまっては、彼は生まれ故郷を敵に回すことになる。
オーブ軍に身を置いている以上、前回みたいに簡単にZAFTに復帰はできないことはアスラン自身重々承知の上だろうが、それでもカガリはあの戦いで、彼がこれ以上傷つくところを見たくないと、本気で思っている。
だからこそ、指輪を外したのだから。
(ましてや…私、一度ウエディングドレスを着た身だしな・・・)
国を救うためとはいえ、愛を捨てたのだ。今更「また拾わせてください。」とどんな顔をしてお願いすればいいのだろう。
恋と結婚の大きな違いが、こんな時に身に染みるとは。
「はぁ~」
だめだ、頭がぼんやりしてきた。
お酒もちょっと楽しんだ上に、長湯をしてしまったから、のぼせたかもしれない。
(というか、あのシチュエーションの部屋に入ったら、更にのぼせそうなんだが・・・)
といっても、今更別室を用意して下さいとは頼みにくい。宿泊客が少ない分、空室は何部屋かありそうだが、頼んでしまったらかえって宿のスタッフに変な興味を持たれてしまいかねない。
「考えすぎないようにしないとな!今日は折角の仕事を忘れての旅なんだから。」
浴衣の襟をきちっと締め、パンパン!と両頬を叩く。
「よし!」
さっきは飛び出してきてしまったが、折角アスランが企画してくれた旅行だ。二人とも楽しめるようにしていかなきゃ。
部屋の前に立って、もう一度深呼吸をして心を落ち着ける。
<コンコン>とノックをするが、反応がない。
「・・・あれ?アスランもお風呂に行ったのかな?」
だがドアノブを回せば
「・・・開いてる・・・」
ゆっくりとドアを開ければ、部屋は真っ暗だ。まさか怒って先に寝ちゃった、とか?
「あの…アスラン?いるのか?おーい」
と言いかけたところで人の気配。
(アスラン…?いや、アスランだったらこんな真っ暗な中にいるわけない。だとしたら…まさか、泥棒?)
普通はここで宿のスタッフに協力要請をお願いしたいが、その隙に逃げられるかもしれない。コソ泥一匹だったらカガリでも十分応戦できるが、何しろ武器になりそうなものはない。あえて言えば、タオルか…いや、むしろ帯の方が役に立つ、背後に回って押さえつけてあり上げれば―――
そう判断したカガリが、腰の帯を解こうとした時だった
「俺の前だけならともかく、人が通る廊下の時点で帯を解くのはやめてくれないか、カガリ。」
声と共に部屋の中に<パッ>と灯りがともる。
「っ!」眩しさに一瞬目を細めるが、ゆるゆると瞳を開けていくと、目の前には

「・・・ケーキ?」
そして傍らには、2本のシャンパングラスを備えた彼が、極上の笑顔で出迎えてくれる。
「お帰り、カガリ。それから「Happy Birthday」。」
「ハッピーって・・・あ、もしかして」
時計を見れば確かにもう直ぐ5月18日。
「少し早いけど、深夜にケーキ食べたら胃に悪いと思って。最もここの温泉の効能は胃腸だけど。」
そう言ってアスランが席を勧めてくれる。テーブルに向かってちょこんと座ったカガリの前には、小さなケーキとデザートグラスに注がれたシャンパンがゆっくりとその黄金の泡を上らせている。
「これ、お前が用意してくれてたのか?」
「あぁ。といっても生ものの持ち込みは禁止だったんだけど、誕生日なので、ということで、許可をもらっていたんだ。ちゃんとしたバースデーケーキを用意できればよかったんだが、大きいと二人では食べきれないだろ?ショートケーキで申し訳ないけれど。」
そう言って視線を外してはにかんで見せる彼。
彼は、こうして二人きりの誕生日を祝いたくって、こうして用意してくれたんだ。
なんかそう思うと、さっきまで変なことで悩んでいた自分が恥ずかしい。そして、真心を込めてくれる彼の思いに、目の奥が熱くなる。
「ありがとう、アスラン。最高の誕生日だ。」
「改めて誕生日おめでとう。カガリ。」
<カチン>と小さくグラスを合わせる。
僅かな甘さの中に残る絶妙な苦み。これならケーキの甘さと相性はばっちりだ。
「あ~さっきのデザートも美味かったけど、こっちのケーキはもっと美味い!」
「ほら、カガリ、ほっぺにクリームついてる。」
そう言って笑うアスランがそっと顔を近づけてくると、
「っ!な、なんで指で取らないで、直接舐めるんだよ!///」
「いや、昼のお弁当の時も、カガリがパンの欠片食べてくれたじゃないか。」
「ちゃんと指で取った!」
「そうだっけ?」
こいつ・・・酔ったふりしてやっぱり確信犯だな・・・。
(でも・・・)
「直接舐めたくなるほど、美味しそうに見えるんだったら、お前も食べろよ。」
「あぁ、凄く美味しそうに見える…というか、美味しかった。カガリが。」
「へ?」
一瞬言われた意味が解らず、直視すれば彼はいつもの理知的な中に、どこか熱い熱を帯びた碧の炎を宿している。
だが、多分、彼はこういうシチュエーションを用意しても、手を出さず、我慢し続けるだろう。
カガリからのOKが出なければ、きっとずっと心の奥にその言葉を潜ませたまま、耐え抜くはずだ。

  愛を捨てたのは私。
  そして・・・それを拾うのも私。

  彼はずっと待っていてくれる。
  それに甘え過ぎていたのは私、か。

カガリは胸元をきゅっと抑える。
勇気を出せば、道は開けるんだよな。きっと。

「アスラン、そのな・・・その・・・」
ふと顔を上げた彼の膝にそっと手を置き・・・唇を重ねる。
自然と彼の腕が細い腰をとらえて離さない。
ゆっくりと離された唇を見れば、金の瞳も熱に浮かされたように潤んでいる。
「カガリ、これは・・・」
「そ、その・・・唇にクリームがついていて、その・・・お、美味しそうだったから//////」
「へぇ~どんな味だった?」
感想を言え、とか言うな!
「そ、それは、無論、クリームだからな。甘くて美味しかった///」
耳たぶまで真っ赤になっているのがよくわかる。それでも彼はそんな私を受け入れてくれる。
「俺も、美味しかったよ。やっぱりカガリが一番いい。だから君が―――」
その一言が喉の奥から迸る。
「君が、欲しい・・・」

「・・・うん///」


結びなおしていたはずの帯が簡単に解ける。
アスランの素肌が凄く温かいのは、温泉の熱のせいかな。それとも、お酒のせい?
ほの暗い枕もとの行灯にぼんやりと映った時計の針が0時を回っていた。
誕生日で初めての大好きな人との夜。

うん・・・この腕の中で迎える誕生日も悪くない。



・・・続く。


***



内容はご想像にお噛ませします<(_ _)>(だらでも覗けるブログなので自主規制)