Action is my middle name ~かいなってぃーのMorrisseyブログ

かいなってぃーのMorrissey・The Smithsに関するよしなしごと。

【お知らせ】『モリッシー自伝』発売~「訳者あとがき」に代えて

2020-07-16 16:27:35 | 『モリッシー自伝』

2020年7月17日、ついに明日、イースト・プレス社より、『モリッシー自伝』日本語版が刊行されます。こちらの翻訳を担当させていただきました。

  

 

この発刊までは…まさに茨の道。本来であれば、本書の「訳者あとがき」にぶちまけたいしたためたいところでありますが、モリッシーより「原書の体裁と寸分も違うべからず」「何も足さない!何も引かない!」というお触れが出ており、そちらには書けなかったことを、こちらで書かせていただこうと思っております。

 

まずは、話が出てから丸々6年の茨の道を振り返ってみます(って、モリッシー本の時もこういうの書いた気がしますが)…。

 

★『モリッシー自伝』発刊までの茨の道★

 

●2013年10月17日

『モリッシー自伝』の原書“Autobiography” が発売(最初の噂が出てから5年、また版元のペンギンブックスと直前までもめながら、ようやく出た経緯はこちらに書いてます)。

 

●2013年12月

発売を前後して、イースト・プレス社は日本での版権獲得オファーを開始。2013年12月に正式に日本版出版が決定。その他13か国でも発刊予定とモリッシーが公式に告知。

 

●2013年4月11日

モリッシーが当時公式情報を出していたファンサイト“True To You”にて突如、各国での自伝翻訳出版拒否を発表。14か国の翻訳版は発売禁止に。7割方終わっていた日本語翻訳版はお蔵入りに。それでもエージェントとの交渉は続けて行く。

 

●2014年10月

日本との契約を進めていたエージェントがクビに…。

 

●2015年11月

モリッシーが急に日本での発売をOKと言っていると新エージェントからの報。

 

●2016年11月 (←直前、9、10月にはモリッシー来日しています)

モリッシーに契約書を送っているもののサインをしてくれないとエージェントからの報。

 

そして2年4か月の月日が流れ……(←業を煮やして2018年7月には『お騒がせモリッシーの人生講座』出版

 

●2019年3月

モリッシーのマネージメントから日本での発売OKが急に出る。

 

●2019年11月

…契約締結。

 

●2020年1月~

日本版発売に向けて翻訳作業リスタート。

 

…この丸々6年間の間に私の“Autobiography”は…

※引きちぎったのではありません。開きすぎて、裂けましたw

 

生涯で一番囚われ、没頭し、潜り込み、窒息し、いまだ読むたびに苦しい本であります。

今回の翻訳は、「乗りかかった舟」という生やさしいものではなく、「降りられない軍艦」でありました。

 

『お騒がせモリッシーの人生講座』の推薦文で、ブレイディみかこさんに、

 

「彼の自伝が翻訳されていると聞いた時、いったい誰がそんな無謀な仕事を……と思った」

 

と、コメントをいただきましたが、本当に大変な仕事でした。英語力や、日本語能力を超えた、チャネリング能力のようなもの(!?)が必要とされ、そもそもそんな能力なんてないので…そんな時は目を閉じて、モリッシーという深淵に思いを馳せるしかありませんでした。

深淵をのぞいてものぞいても、見えないものは見えない。それでも、急にふとした瞬間に光が差し込んで…見上げるとまた暗闇に落とされる、そんな繰り返し。時にマンチェスターの裏通りを走り、時にレコード屋でお目当てのレコードにときめき、時に法廷のマイク・ジョイスをにらみつけ、時にハリウッドのセレブとお茶をし、時に「病的なモリッシーファン」にもみくちゃにされながら、「モリッシー」の人生の光と影を一緒に行き来するかのよう。それは今回の日本語版の読者の方にも味わってもらえるポイントではないかと思います。

 

マンチェスターの生き地獄。貧困、クソ学校、クソ教師、男性優位社会。そして抜け出した世界で待っていたものにも、優しさなんてない。そんな人生でいかに殺され、それでもなぜ生きるか。なぜ歌うか。きれいごとゼロ、編集ゼロ(章立てナシ、必要な改行ほぼナシ)のモリメンタリー。

 

今回の翻訳で、今まで自分が身に付けてきた能力や資質で何が役立ったのか…と言えば、本当に意外にも意外にも、高校の時の現代文とか大学の時のフランス文学の、「詩」の読解授業だったかと思います。そんなの、学生の時は「詩は短いから楽で好きだわ」くらいにしか思っていませんでした。人生、あとで何が役に立つのかわからないので、学生な人は、今つまんないと思うことでも、ちょっとやっとくといいかもしれません。

 

すばらしい「詩」は、短い語句の羅列の中で、その言葉の隙間に、行間の隙間に、読み手を入り込ませ、詩人の思いと一体化させる。ベースに「詩」というものへの親しみや好意があったので助けられたこともしばしば。このモリッシーの自伝は、長い長~い詩のよう。モリッシーは本当に「詩人」であると思います(読み手にとって心地の良い書き手ではなくても…)。あと、急に(何でもほんとに急)いろんな詩人の詩や歌の歌詞の引用が入ってくるので、そこも合わせて味わっていただければ。「あなたまだ病気なの?」という帯のコピーの意味も明らかになります。これを書いてる私も、読んでいるあなたも、「まだ病気なの?」かもしれませんが。

 

以前、モリッシーファンであるビジュアル系バンド、Eins:Vier(アインス・フィア)のボーカルのヒロさんが、モリッシー好きが過ぎて「もう、好きかどうかもわからへん」とおっしゃっていましたが、この自伝を訳しながら何度もそれを思い出しました。もう、「好き」かどうかもわからへん(ファンではあるけど)!でも言えることは、この人はヤバい。一生ヤバさを見ていたい。なんなら一瞬だけ、なってみたい。これを読んだら、一瞬だけ「なれる」くらい、モリッシーにすごく近づけると思います。近づきたくないかもしれないけど、読んでくださる方にもそれを味わってもらいたくて訳しましたので、ぜひ「体験」してみてください。

 

…きちんとした「あとがき」でもなんでもなくなってしまったけど、今の思いでした。

 

最後に…

2013年からずーーーーっと根気強く機が熟すのを待ち、決してあきらめずに(私よりまったくあきらめていなかった)この件を全うしてくれた担当のイースト・プレスの圓尾さんには大変感謝をしております。2012年に、このブログを始めた時から「いつかモリッシーの本を一緒にやりましょう。自伝もいいですね」と言ってくれてました。その目標は2冊も形になってしまいました。そんな圓尾さんでもこの『モリッシー自伝』はかなりつらかったご様子で、

 

「モリッシー自伝は校正作業がツラすぎた。理由はボリュームのせいです。内容のせいでもあります。矛盾しているようですが内容はとても面白いです。ナマのモリッシーは作品になっている歌詞と比べてキツいです。歌詞にはうまく昇華してたんだなと改めてわかります」

 

と、つぶやいていました。つぶやきというか心からの叫びですね。

ほぼ50万字のツラすぎる校正を、何度も何度もやってくれました。どうもありがとうございます!

その他こんなキツい校正を手伝ってくれた丸谷さんも、ありがとうございました!

 

「ツラい」「キツい」のに「面白い」(たぶん誉め言葉?)。日本版『モリッシー自伝』、ぜひ読んでみてください。

 

2020.7.16

『モリッシー自伝』訳者

上村 彰子