
⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️企業の風土と文化⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️
北條俊彦
・経営コンサルタント・前 住友電工タイ社長
■■「モノづくり日本」
⚫️ 時代のせいか最近,日本の中小企業も随分とスマートで小振りになった
ように思う。昭和の中小企業には,会社の顔である個性の強い社長、そして
現場には頑固な名物オヤジ、事務所に明るいおかあさん等々,色んな役者が
揃っていたと記憶している。昭和の映画やドラマの見過ぎだろうか?
私の現役時代、業務で企業にお邪魔させて頂いた時は必ず現場を見させて
頂いたものである。現場には思わぬところ、意外なところに新しい発見が
ありそれがとても楽しみであった。そして現場には独特の匂いと雰囲気が
ある。
機械を扱う職人の作業着は機械油で真っ黒に汚れていたが,その表情は自信
に満ちていた。所作一つ一つに無駄がなく,その動線は実に健康的で躍動感
に溢れていた。そして,力強いエネルギーの爆発のようなものをいつも感じ
た。
⚫️19世紀から資本主義経済の基盤である「製造業(モノづくり)」は日本
の最も得意としてきた領域である。現在、製造業の拠点が他のアジア諸国
へ移動しつつあるものの、日本には,まだまだ「強いモノづくり力」が
残っている。
日本のモノづくり力とは“ヒトづくり力”であり,ヒトの能力と知恵を最
大限に引き出し、企業の要求と社員個人の欲求をうまく融合させる力であ
る。日本の代表的な中小企業の街東京大田区、東大阪市はかって
・人手不足、
・後継者問題、
・技能承継、
・資金繰り、
・再生可能エネルギー変換、
・働き方改革関連法、
・生産性向上,
などの難題に直面し事業の撤退か継続かで混乱を極めた。
多くの企業が倒産や廃業の憂き目にあったが、そのような環境下でも大企
業に寄りかからず(大企業は搾取するが支援は決してしない)業界・異業
種・企業主間の連携の中で難題を克服し事業承継を成し遂げ、産業集積地
域の特質を活かした新しいイノベーションを発信し続けている企業も多く
存在しているのだ。
今も東京大田区や東大阪市では「強いモノづくり力」が、脈々と生き続け
ている。経営者と従業員の不断の努力と自主的な中小企業間の連携(見え
ないネットワーク:モノづくり力の絆)の存在によるところが大きか
ったと思う。
しかし、先行き不透明で予測困難な時代中小企業にとってより厳しい事業
環境が今も続いていることを忘れてはならない。
⚫️そういえば,鋳物の街川口もすっかり変わってしまった。
川口の鋳物業は江戸時代初期に始まり,明治維新以降の国の政策もあり鋳物
業を中心とする産業が発展を遂げた。しかし,オイルショック以降その生産
は低迷期を迎え,東京都に隣接するという地理的条件から人口増加に伴い,
川口は産業都市から住宅都市へと変化した。
しかし, 若い鋳物世代によるモノづくり力が,新技術や新製品の開拓に挑戦
し続け、現在,新たなる鋳物産業発展の歴史が築かれつつあるようだ。
⚫️マレーシアのマハテイール元首相は、日本のモノづくり力を高く評価さ
れており“日本人の勤勉さ(働く姿勢)“と“モノづくり現場”には必ず学び
があると、来日の度に川口の鋳物工場をよく訪問されていた。
●来日し安倍元首相宅に弔問に訪れたマハテイール元首相
■■「継承と創造」
⚫️日本の中小企業の特質と経営者の視点は,「独立自尊」[縦割り思考」で
「自社完結意識」が強く「自分の枠」の中で「個々」にそのパワーをフル
に発揮しようとする傾向が強い。そして日本の中小企業の特質を列挙する
と次ぎのようになる。
(1)単一(純正)意識:企業独自の「純正」化で高品質を極める。
⑵横並び意識:泥臭い擦り合わせの中での参加意識(絆)。
(見えないネットワークの存在)
⑶こだわりの意識:極め、その発展性としての更なる創意工夫。
(「猿真似ではない」日本人の特質)
⑷キャッチアップ思考:革新的風土は育たぬが独自の主体性保持。
⑸提供者の意識:良いものを伝統的に維持継承。老舗、暖簾。
⑹安定的予定調和意識:高度成長以後、内世界で自立化深化。
⑺従来型産業構造立脚:製造業基盤に二次三次産業から進展。
今,企業の経営において企業風土と企業文化という目に見えないもの,即ち、
社員と職場を取り巻く環境や空気のようなものをマネジメントして行くこ
とが大変重要になってきている。企業風土は社員のやる気やエネルギーに
影響を与え、一方、企業文化は経営戦略に直接影響を与える大切なもので
ある。
■■ 「持続的成長を目指して」
⚫️ハーバード・ビジネススクール教授のジエームズ・L・ヘスケットは,
「企業の魅力度・競争力を醸成するものは企業文化である」また、
「優れた企業文化は“文化的に凡庸な”競合他社と比べた場合、企業実績の
差の20~30%を説明し得る。」と述べている。優れた企業文化が利益
をもたらすことは間違い無い事実である。
では、その企業文化は何によって形成されているのか考えてみたい。
企業それぞれで企業文化は独特であり、その企業文化は無数の要素から形
成されていることになるが、例えば、元M16情報将校である著述家ジョン
・コールマンは企業文化形成する要素について「優れた企業文化に共通す
る構成要素として少なくとも
①ビジョン
②価値観
③慣行
④人財
⑤ストーリー
⑥場所
と6つの構成要素が見出される。
そして「これら要素を特定することで、差別化された文化を 長続きさせる
企業組織を築く基礎になる」と述べている。
ジョン・コールマンの企業文化6つの構成要素について以下考えてみたい。
⚫️「優秀な企業文化を構成する6つの要素」
1)[ビジョン](VISION)
優れた文化はビジョン(orミッション)・ステートメントから始まる。
簡潔・明瞭なフレーズ(表現)が企業の価値観を導き、企業に目的を与え
てくれる。この目的こそが、従業員の意思決定を正しい方向に導いてくれ
るのだ。即ち、優れたビジョン・ステートメントが信憑性に富み、明確に
見える形で示されていれば、顧客、サプライヤー、その他の利害関係者を
同じ方向に導いてくれるのだ。ビジョンは文化の基盤をなす重要な要素で
あり、シンプルイズベストである。
2)「価値観](VALUES)
価値観は企業文化の要であり,ビジョンの達成に必要な行動様式や考え方に
ついて一連の指針を示してくれる。これら価値観はクライアントへの誓約、
同僚への接し方、プロヘッショナルな基準の維持に反映され、独創性より
も信憑性が大事である。
例えばスーパーマーケットチエーンのウエグマンズは「思いやり」「敬意」
を価値観として打出し,入社希望者に「愛すべき仕事」を約束しているそう
だ。
3)「慣行」(PRACTICES)
価値観は企業の慣行に反映されていなければ殆ど意味が無い。そして,どん
な価値観であろうが業績評価や昇進の基準にしっかり反映され,日々の業務
原則にしっかり組込まれないといけない。日本の中小企業の慣行で意外と
実施されてないのが“愛のある信賞必罰“である。
4)[人 財 ](PROPERTY)
中核となる価値観を共有できる人財、或いは価値観を尊重する意志と能力
を持つ人財なくして、一枚岩の企業文化を築くことはできない。
能力的に優秀なだけでなく、その企業文化に最も適した人財を採用し,真摯
な「文化の担い手」に育てあげることで組織が既に有する文化を一層強
化することができるのである。 人は自らが好む文化には誠実・実直である
のだ。
[敗者のゲーム」の著者チャールズ・エルスは「世界の最も偉大なプロフエ
ッショナル企業から学ぶ 成功の七つの秘密」の中で“ 最も優れた企業
は、採用において能力が優秀なことだけでなく、特定の企業文化に最も適
した人財を採用することに、並外れた情熱を注いでいる。
これらの企業では採用候補者1人につき8~20人が面接に当たると紹介
している。恐らく日本においてこれ程、人財採用に熱い思いと愛情をもっ
て行動できる企業は皆無であろう。ウイズコロナの時代、企業に関係する
人々の幸せを実現するためには、企業は人本主義経営に徹し事業活動を通
して社会を変えてゆく責務があるのである。
5)[ストーリー](NARRATIVE)
それぞれ組織には独自の歴史やストーリーがある。その歴史を掘り起こし
てストーリーを紡ぎ出す能力こそが文化を形成する核となる。
コカ・コーラは公式のストーリーを持ち過去の伝統を受け継ぐことに莫大
な経営資源を費やしている。伝統は継承されてきた体験的経験則や価値観
の無形の存在として、現在も企業や従業員に対し精神的且つ実利的に機能
しているものである。
6)「場所」(PLACE)
企業活動において、立地選定と環境整備は大変重要であり,場所が文化を形
作るのである。開放的な建築構造は,職場における特定の行動様式(コラボ
レーション)を促進する。
立地、建築構造、美観設計など 場所というものはその職場で働く人の価値
観や行動様式に影響を及ぼすのだ。
米国の映画制作会社ピクサーは、社内に一つの広大で開放的なアトリウムを
作り,人々が予期せぬ相手と終始遭遇し、非公式で偶然の交流が生まれる環境
を設けているのだ。(続く)
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