
■■■■■■■■■■■釈迦に説法■■■■■■■■■■■
北條俊彦
■■「経営とタイ人」
●経済の本義“經世濟民”とは 「世を治め、民を救う」ことです。
その本義に基づき「自律独立的な個別経済単位としての行為」が
経済学的に意味する経営です。
紀元前8世紀、周の時代の詩の一節に「之を経し 之を営む、庶
民之を治め日ならずして成る」が 経営の語源と言われています。
経とは「繊維の縦糸のことであり 真っ直ぐに筋道を引く行為」
営とは 「建物の周囲を丸い外枠をめぐらす、区画を決める行為」
を意味し、経営とは筋道を引き、枠組みを決めて行う社会的行為
(古代中国では神を祀る)を意味するものでした。
経済の本義に立ち返り 現代の経営目的は「人の徳に重きをおき、
自利より利他、利他よりも公利に尽くし 本業を通じた社会的価
値を創造」してゆくことだと思います。
●1990年代、タイ国は国の総力を挙げ、自動車産業を中心とした
海外からの投資誘致を図り、その具体的な実行段階にありました。
その中心となったのが日系企業です。
当時、私も自動車部品事業でのタイ進出PJの責任者として 会社
設立とその経営を任されたのがタイと私のご縁です。このタイ駐
在が、私の15年に及ぶ海外駐在の中で最も学び多き5年間でした。
齢64「壮にして学べば 則ち老いて衰えず。」の心境です。
●その後タイは、東洋のデトロイトと言われ 飛躍的な発展を 遂
げてきましたが、日本からの駐在員も 第3或いは第4と世代交代
を重ねてきております。 残念なことに最近TwitterなどSNSで 彼
らがタイ人への不満や愚痴をこぼしているのをよく目にします。
例えば「タイ人はダイと返事はいいが仕事をしない」「タイ人は
失敗してもマイペンライと他人事。腹たつ、キレそうだよ!」
これは一言でいうと”駐在員の未熟さと経験不足”そして、コミュ
ニーション不足によるものだと思いますが、最も大きな原因は日
本の教育の在り方ではないかと私は思っています。
「トン・トライロング(タイ国旗)」や「プレーン・チャート・
タイ(タイ国歌)」を目や耳にするたびに感じますが”国を愛す
る心”を日本では正しく教えられていないのではないでしょうか。
是非「礼節と自国への誇りと愛情」を持ってタイの方々と接して
下さい。
●経営においては、従業員との信頼関係構築と人財の育成が最重
要事項です。
日本人経営者は、タイで仕事をさせて頂いていることに先ず感謝、
そしてタイの社会や文化だけでなく、一緒に働くタイ人の気質や
生活習慣を誠実に理解する不断の努力が必要です。その為にも、
冷静、且つ客観的に双方の違いを受け止め、その背景を理解しよ
うとする姿勢が重要なのです。でないと違いにのみ注意が向いて
しまい、相手の一部だけを見てしまう。結果、双方の違いを実際
よりも大きいものと錯覚し、双方に誤解と不信感を招いてしまう
ことになってしまいます。
●仕事のスタイルですが、日本人は個人の職責と結果を重視し、
タイ人は職場における人間関係を重視し、それを守ることを最優
先とします。
タイにも「グレンチャイ(遠慮や気遣い)」という言葉はありま
すが、日本人の遠慮や気遣いとは随分違います。また、怒りや不
満の感情を表すことは稀であり、人に嫌われたくな い(良い人で
ありたい)という欲求が強いようです。
■■「タイ人と共に働く」
私の経験から見たタイ人(以降「彼ら」と表現)の気質について
お話します。
●1)報・連・相」
仕事において、彼らから「報・連・相」はありません。
彼らは、ほうれん草よりもチンゲン菜を好むのです。即ち(沈)
黙して(言)わずに(済)ませるのです。
彼らが「報・連・相」できない理由として、問題の認識力が脆弱
で、想定力が不足、自己保全(問題発覚する迄放置)、責任逃避
等々惨憺たるものですが、それらは大体において、故意や悪意に
よるものではないことだけはお伝えしておきます。
”それを全て許容できたなら御釈迦様でも敵うまい”でしょうが。
ただ、彼らが特殊なのでしょうか?そうでは無いでしょう。
基本的には日本人にも同じところがある筈です。要は、コミュニ
ケーションの取り方に難しさがあるということなのです。
報・連・相は部下から上司ではなく上司から部下にするものと頭
を切り替えて下さい。そして、上司が日頃から丁寧に笑顔でフオ
ローを心がけ、決して怒らない叱らない姿勢で相互の信頼関係を
構築してゆく姿勢と努力が必要です。
●2)責任と権限委譲
これは非常に難しい問題です。
彼らは集団主義的農業社会の価値観を持つており、特徴的なのは
下記の通りです。
①与えられた役割分担の結果責任を個人では取らない。
②結果責任は組織全体で負うものと考えている。
③報告の必要性を感じていない。
④リーダーシップと自発性は非常に希薄である。
⑤プレッシャーに弱い。
大事なのは日本人経営者が彼らの価値観を理解し、意識変革をす
ること。即ち彼らの仕事を把握するのはボスの仕事として、決し
て目を離さないこと。
また、結果責任は権限を与えたボスの選択責任であると達観し、
肩書きをあまり厳格に捉えてはいけない(期待しない)のです。
彼らへの権限委譲は、日本人経営者の仕事の負荷を減らすのでは
なく、逆に増大させてしまうリスクが非常に高いのです。
●3)社会的化粧=不可思議な彼らの微笑み(イム)
タイは微笑みの国とよく言われますが、一説にはその微笑みには
9から13種類の使い方があると言われています。
彼らの微笑みには喜びや親しみ以外に、当惑、恥辱、自責、緊張、
恐れ、怒り、悲しみなどを表現しているものがあり、それらは人
間関係を維持し、社会的調和の中で、ものごとを上手くまとめて
ゆこうとする彼ら独特の行動様式(社会的化粧)だとも言えます。
タイ語でイム(Yim)は微笑みを意味しますが、例えば以下のよ
うな 微笑みがあるのです。
「イム・ターン・ナムター(とっても幸せ)」
「イム・タック・ターイ(あまり知らない人への丁寧な微笑み)」
「イム・チューンチョム (あなたは素晴らしい)」
「イム・ヨー(からかい)」、「イム・サオ(悲しみ)」
「イム・ヘン(ドライな開き直りといった作り笑い)」
「イム・タック・ターン(あなたの意見には賛同できない)」
「イム・スー(勝ち目のない戦いに直面した時の笑い)」
「イム・ミー・レッサナイ(心の中にある悪意を隠す微笑み)」
彼らからのサインを見逃さないためにも、常日頃から笑顔で率直
に彼らと会話を交わす姿勢を維持し、観察眼を磨いて下さい。
カラオケ女性の微笑みだけでは何も学べないということです。
●4)タイは階級社会(縦社会) 彼らの宗教観(小乗仏教)
そして日本人経営者として何よりも肝に命ずべきことは、タイは
階級社会であり、小乗佛教がタイの社会構造に大きな影響を与え
ているということです。 それを表現する2つの重要な言葉があり
ます。
第1は「ブンタム・ガム・テーング」現在の自分の社会的地位は、
前世の業によっており「分」を知り、それに従うという意味です。
第2は「ルーチャク・テイースーング・テイータム」は人の上下
を知るという意味です。 彼らの人生観であり、個人の来世での幸
せを祈る小乗仏教の特徴です。
そのため経営において「ブンクン/恩義」の考えが最も重要です。
誰かが純粋な親切心と誠実さによって 必要とされる助けと恩恵を
他の人に施し、他方、後者が受けた恩恵を忘れずに いつでもそ
の親切心に報いる。「ブンクン」にはそうした恩を与える人と受
ける人との心理的な絆という、第1の側面「メーター・ガルナー
(慈悲と思いやり)」と 、第2の側面 「ガタンユー・ルークン
(感謝と恩義)」があります。
日本人経営者も慈悲と思いやりに努め、この心理的な絆の連鎖が
構築できるよう彼らとの関係を深めてゆくことが求められるので
す。
●5)彼らと共に働くための知恵
①企業内において異なる国と階層の人々が、礼儀正しく友好的な
方法で相互に交流の連鎖を起こせる仕組みや組織を作ること。
②社長は家庭におけるお父さんの役割を果たし子供達(彼ら)に
真を尽くす姿勢を常に示すこと。
③仕事を通じて会社と共に,成長し家族ともども幸せになれると
いうロングライフプランを彼らと一緒に描くこと。
■■「タイとの共存に託す思い」
●これまでのタイの成功は日本企業の投資が多かったことが成功
の主因でしたが、タイの課題は20年前も今もあらゆる階層で人財
が育っていないということです。
日本企業は投資の意思決定をするとヒト・モノ・カネ・技術を徹
底的に投入するし、集中的に日本人を投入して事業を仕上げてき
ました。しかし20年前と変わらぬ課題を前に、そのやり方が本当
に良かったのか日タイ双方で深く考え直す必要があると思います。
既に中進国の罠に陥入り、且つ、少子高齢化が急速に進み、いづ
れ日本と同じく、これまで経験したことのない深刻な問題にタイ
も直面してゆくことになります。
日タイは強い絆で結ばれており、日タイが同床同夢で持続可能な
社会を是非創り上げて頂きたい。そのためにも日タイが連携して
将来を担う優秀な人財の育成を強力に進めてゆくべきだと切望し
ます。
■■「日タイ経済の動向を知るための図説」(参考資料)
■1) 2000年以降の経済危機と景気動向
■2)タイの経済成長率の推移 ●出典・ニッセイ基礎研究所
■3)アジア市場の人口とGDPの一覧図 ●出典・IMF)
■5) 世界主要7ヶ国の戦前以降の経済リスク図説 ●出典Economist
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