■■■■■■■■■■バナナと帝国主義■■■■■■■■■■
北條俊彦
経営コンサルタント・前 住友電工タイ社長
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🔵永禄12年(1569年)4月8日イエズス会の宣教師ルイス・
フロイスが京での布教を再開し、その20日に織田信長の面前にお
いて日蓮宗の僧侶日乗と宗論を戦わしている。
恐らくその頃に信長は、日本人で初めてバナナを食べたようだ。
永禄12年フロイスが信長にバナナを献上したとの記録が残ると伝
わる。
バナナは夏の季語(三夏5〜7月)で実芭蕉ともいわれ、バナナを
題材にした俳句も結構多い。明治の歌人正岡子規の俳句に、
・初冬の黒き皮剥ぐバナナかな
・相別れてバナナ熟すること三度
がある。
🔵明治35年バナナの御礼として子規が台湾にいる門人渡辺香墨に
贈ったもので、当時,渡辺は台湾総督府の検察官として台湾に駐在し
ており、師の子規へ台湾バナナを贈っている。
当時、台湾は既に日本領であったが日本でバナナを手に入れるには、
外国航路の船員が持込んだ物を日本の果物業者経由で購入するか、
台湾の知人から送ってもらうしかなかった。
子規がバナナを食した翌年の明治36年に, バナナは正式に商業輸入
されるようになる(台湾は日本国内であり正しくは「移入」である)。
その後、台湾バナナは高級果物としての需要が高まり, 台湾青果株式
会社の設立もあり、日本への輸入は拡大して行く。
🔵大正後期には、台湾に近く重要な中継港であった門司港に, 大量
のバナナが荷揚げされているが、輸送中に熟してしまったバナナを
早急に換金するため、露天商達が門司港の桟橋通りに人を集めて売
り捌いた。
これが「バナナのたたき売り」の始まりとされ、以来「バナナ
のたたき売り」はバナナの普及と共に、全国に広がっていく。
熟練の売り手の口上は、一種の大道芸であり、現在,門司港バナナの
たたき売りは、伝統文化として伝承され「関門ノスタルジック海峡」
の構成文化財として日本遺産に認定されているそうだ。
🔵明治期に比べ、大正後期〜昭和初期には庶民の口にも入るように
はなったが、それでもお土産や病気の時にしか食べられない 特別な
果物であった。
先の敗戦を経て、昭和25年にバナナの輸入が正式に再開, 台湾バナ
ナの黄金時代を迎える。しかし経済復興を果たした日本は, 昭和30
年(1955年)GATTに加盟し、それ以降 輸入の自由化を推し進
め、昭和38年(1963年)にバナナの輸入自由化を開始した。
私は昭和31年生まれだが、当時のサラリーマンの平均月収が1万円
弱の時代にバナナ一房(5〜6本/房)250円とかなり高額である。
昭和32年に中内功氏が大阪市旭区千林にダイエー1号店を オープ
ンさせたが, ダイエーでも暫くバナナは高価な商品であったと記憶す
る。
🔵話は少し変わるが, 中内功氏のダイエーそして, 西端行雄氏の ニ
チイ、また月賦百貨店井野屋千林店といい、新しい日本の商業スタ
イルは, 大阪千林から始まったと言っても過言ではない。
子供の頃、私もよく両親に買い物のお供として 千林に連れて行って
もらったのが, 懐かしい思い出である。後年, 西畑春枝先生(ニチイ
創業者西畑行雄氏の妻) に学会関係のご縁でお世話になったが, 真宗
大谷派浄信寺副住職であり, 教育者であった 春枝先生90歳の講演
『我が子なら』は,今も深く心に残る。
また「企業経営において大切なことは, 人としての王道を歩むこと、
情こそが企業を動かすエネルギーの根源である』と教えて頂いた。
(感謝)
🔵話はバナナに戻り,輸入自由化以降、バナナの輸入量も増え価格は
大幅に低下するが, 昭和45年(1970年)にエクアドル産の輸入
量が1位になり,昭和48年(1973年)にはフイリピン産が1位
となる。
以来,フイリピン産が1位を独占しているが、逆に台湾産は次第にそ
の量を減らしていった。
バナナといえば世界で最もポピュラーな果物として,子供からお年寄
りまで長年に亘り人々から愛され続けている。また,バナナは優れた
栄養バランス食品としてビタミンB群(B1、B2、B3、B6)葉酸を多
く含み、不足しがちなビタミンB群を手軽に補ってくれるらしい。
代表的な効能には、
・タンパク質の代謝促進
・神経伝達物質の合成補助
・貧血対策
・造血効果
などがある。また,他に珍しい使われ方としては靴磨きがあるそうだ。
バナナの皮の内側の白い部分で靴を磨き、乾いた布で拭き取るだけ
でピカピカになり、その他革製品にもレザーワックスとして活用で
きるという。一度試してみては如何?
また,バナナは自然に熟成したものをそのまま頂くのが一番美味しい。
私は(皆さんも?)バナナは片手で持ち、反対側の手で 皮を剥いて
食べるが,故エリザベス女王はナイフとフォークを使って食されたと、
聞いたことがある。
その理由は「食べる姿が猿のように見えないため」だそうだ(笑)。
確かに猿はバナナが大好きなイメージがある。が,実際バナナが自生
する地域以外では野生の猿はバナナを食べないそうだ。
野生の日本猿も同じ。また,アフリカのゴリラは棲息地域にはバナナ
は自生しておらず、そもそも草食であるからして バナナは食べない
そうだ。しかし、人間に最も近い類人猿チンパンジーは食べる。
動物園でも安価で栄養価も高いため、主食となっているが市販のバ
ナナは人間向けに改良されたもので猿が、過食すると糖尿病など健
康を害する。
🔵米国の映画作成会社イルミネーション・エンターテイメントの
『ミニオン』は世界的にも大人気である。その正体は海で誕生した
単細胞の進化系生物でバナナではないそうだが、ミニオン語で「バ
ナナの歌」を歌い、バナナが大好きなところは、やはりミニオンは
バナナの進化系生物とついつい思ってしまうのは私だけか?
🔵バナナの歴史は大変古い。紀元前5千年〜1万年頃に変種(種の
ない)の バナナの苗を栽培化したのが始まりと云われる。 栽培化の
過程で種子のない変異体が選択されたために バナナは自然では繁殖
できなくなっているため、成熟したバナナ株の 地下茎から出る芽を
切り取って移植するのである。
バナナの生産地は熱帯、亜熱帯地域に分布し, バナナベルト地帯と呼
ばれる赤道を挟んだ、南緯30度〜北緯30度の間で栽培される。
原産地は東南アジアで, 現在のバナナはマレー半島原産の「ムサ・ア
クミナータ」とフイリピン原産の「ムサ・バビルシアーナ」が その
ルーツだそうだ。
バナナは後にミヤンマーからインドへ、紀元前 2千年頃には東アフ
リカ、マダガスカルへ。更に下り15世紀には東アフリカから 西ア
フリカに伝播している。
アレクサンダー大王も紀元前4世紀のインド遠征時に 初めてバナナ
を食べたと思われる.『古今東西、英雄は“初モノ”を好む』のである。
コロンブスのアメリカ大陸発見後の16世紀, 西アフリカ・カナリア
諸島のバナナの苗が大西洋を渡り中米ハイチに上陸、キューバ、メ
キシコ、ブラジルなどへ伝播してゆくが、そもそも「バナナ」とい
う名前はポルトガル人によって命名されている。
それは大航海時代 ポルトガル人航海者マゼランが、インドネシアを
航海中のことである。
🔵バナナは当初、プランテーション農場主にとってその労働力であ
る奴隷の栄養を支える理想的な果物であった(栄養価の高い 補助食
として安価で簡易に手に入るため)。
そのため当初は、奴隷の食を支えるモノとして 中南米に移植された
が、明治期の日本と同じく米国内においては希少で 高価なものであ
った。
その後、産業革命により輸送物流技術が向上し,腐りやすかったバナ
ナの輸出が可能となって米国に向け大規模な輸出が始まる。
以後、労働集約的な大規模プランテーションによる大量のバナナが
国際市場を席巻する。
中南米でプランテーション経営をする米国企業のユナイテッド・フ
ルーツ(現チキータ)やスタンダード・フルーツ(現ドール)にと
ってバナナは中南米諸国の輸出経済を支える重要な戦略商品となり、
中南米諸国の経済を完全に支配し、各政権と癒着し 政治にまで介入
している。
また 米国企業に不利益を齎す政権は、米国から傭兵を送り込み、ク
ーデターを起こさせ政権を打倒し傀儡政権を作り上げた。
そして米国企業の利権を守るため米国政府は、続々とCIAや海兵隊を
工作員として送り込む。
「バナナ大虐殺事件」とは, コロンビアで起きた黒いバナナの歴史の
一事例である。米国バナナ企業で働く 労働者がストライキ中に 多数
射殺され、その虐殺の証拠の全てが 企業側によって 隠滅されたので
ある。正に 米国帝国主義の尖兵として 米国企業の犯した悪逆非道な
罪である。
バナナは黒人奴隷と共に, 欧米帝国主義 (植民地政策)による 被支配
者の悲惨な歴史を象徴するものである。
🔵米国人マイナー・キースは1899年にユナイテッド・フルーツ
社(UFCO)を設立し、独裁政権と繋がり中米の土地を安価に取得、
貧しい先住民を低賃金で酷使し、1930年迄にグアテマラ、ホン
ジュラス、コスタリカ、パナマからコロンビアに跨る「バナナ帝国」
を築きあげ「ジャングル・キャピタリズム(弱肉強食の資本主義)」
を謳歌してきた。
その後、パナマ病の拡大や中米各国における 農民を含む労働条件の
改善運動の高まりと、1959年のキューバ革命などで勢力は大きく
衰退し, 後に同業他社に買収されているが、その買収元企業も含め少
数の米国系企業が世界のバナナ市場を引き続き支配しているのだ。
欧州諸国による植民地政策に出遅れた米国は、力によって未だ強かに
植民地支配を続けているのである。
🔵いまだ米国の支配下にある我が国、戦後80年徹底的に洗脳され、
恫喝と暴力に恐れ慄き、抵抗することなく米国に隷属、吉田茂以来
尻尾を振り続ける自民党政権。
その欺瞞に満ちた戦後政治に強い憤りを覚える。『已んぬる哉
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