いせ九条の会

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安倍首相「日本人は自衛隊が海外で活動することをためらわない」/山崎孝

2007-01-13 | ご投稿
1月13日の朝日新聞記事によりますと、1月12日、ベルギーを訪問中の安倍首相は、NATOの理事会で演説して「憲法の諸原則を順守しつつ、いまや日本人は自衛隊が海外で活動することをためらわない」と述べ、恒久法制定も含め、自衛隊の海外派遣を積極的に進める意向を表明した。そのうえで「わが国はより大きな役割を求める世界の増大する期待に応える用意がある」と強調、平和構築や復興支援活動などでNATOとの連携を強化する方針を示した。

日本の首相のNATO訪問は初めて、憲法上の制約もあり、軍事同盟であるNATOとの交流は避けてきたからだ。今後、NATOとの連携強化が進めば、首相が指示している集団的自衛権行使の具体例の研究範囲が広がる可能性もある。(記事の抜粋以上)

安倍首相は「憲法の諸原則を順守しつつ」という前提を設定した上で「日本人は自衛隊が海外で活動することをためらはない」と述べてはいますが、その憲法の大きな制約の集団的自衛権行使を憲法の解釈を変えようとしていますから、「憲法の諸原則を順守しつつ」は自衛隊の海外活動上の制約にはならない可能性があります。

「わが国はより大きな役割を求める世界の増大する期待に応える用意がある」と述べていますが、日本が国連から求められた活動は軍事的な役割ではなく財政力による平和構築や復興支援活動です。

大島賢三・国連大使は、朝日新聞2006年11月11日付「国際貢献 守りたい日本の外交資産」というタイトルで次のように述べています。

《国際の平和と安全の維持が国連の最も重要な任務であるが、同時に国連加盟国の大半が開発途上国であることから、2001年の米同時多発テロ以降、テロを誘発する貧困や社会的不公正などへの関心がますます高まっている。

その中で日本には、その国力と従来の実績から、開発や人道、復興、平和構築などの分野で大きな貢献とリーダシップが期待されている。これに着実に応えていくことが国際社会で敬意を受け、影響力のある地位を保持する基礎になっていることも疑いをいれない。にもかかわらず、最近、国連の現場にあってわれわれが日々、憂慮を禁じえないのは、このような日本の国際的地位、影響力の源泉となっているわが国の外交資産の需要な一部が失われ始めている。しかも国民が多くの国民の気づかぬ間に事態が静かに着実に進んでいるのではないか、という現実である。》(抜粋以上)

日本の財政的貢献は評価されて、紛争後の復興を支えるために国連が2006年に新設した「平和構築委員会」の常設機関である組織委員会のメンバーに選ばれています。

安倍首相は2006年10月30日、外国のメディアに《「時代にそぐわない条文として典型的なものは憲法9条。日本を守るとの観点、国際貢献を行っていく上でも憲法9条を改正すべき」と強調しています。

安倍首相は、事実に基づかない観念論で、日本の外交を指導しています。

最近の例は、航空自衛隊の米軍支援活動を8月以降も続ける意向を示したことです。政府は昨年12月28日、ブッシュ米大統領は共和党の中間選挙敗北を受け、イラク政策の見直しを進めているが、見直しがあった場合でも、米軍が早期に全面撤収する可能性は低く、来年8月以降も当面、米国を中心とする多国籍軍の支援が必要と判断したことによるものです。米国のイラク新政策に呼応する形となりましたが、ブッシュ大統領のイラク新政策は厳しい批判を受けています。

1月12日の中日新聞ニュース【共和党からも新政策批判 米議会、両長官に集中砲火】

【ワシントン11日共同】ブッシュ米大統領が発表したイラク新政策をめぐり、11日の上下両院の公聴会で、共和、民主両党の議員から新政策への批判が続出、証言したライス国務長官やゲーツ国防長官が集中砲火を浴びた。議会の主導権を握る野党民主党のみならず、身内の共和党からも公然と批判が出たことで、ブッシュ大統領は早くも苦しい立場に追い込まれた。

ゲーツ長官は下院軍事委員会で、2万人超の米軍増派の期間は具体的に決めていないとした上で「18カ月とか2年ではなく、数カ月の問題とみている人が多いと思う」と述べ、1年前後を念頭に置いていることを示唆した。

上院外交委員会ではバイデン委員長(民主)が、米軍増派は戦争を拡大させる「悲劇的な誤りだ」と批判。

共和党からも大物ヘーゲル上院議員らが「ベトナム戦争以来、最も危険な外交的大失態」と明確に反対を表明、ライス長官は防戦に追われた。(以上)

1月13日の朝日新聞「天声人語」は、(前略)▼イラク戦争が泥沼化する中、ブッシュ大統領が、兵の増派を柱とする新戦略を発表した。「過ちのあった点については、私に責任がある」と述べた。しかし、増派は、シーハンさんのような母や父、妻子らを更に増やすことになりはしないか▼大統領の過ちとは、大統領の言う、送り込んだ兵の数ではないはずだ。国際社会の多様な声に耳を貸そうとせず、単独行動主義に傾いて先制攻撃をかけたことが、そもそもの過ちではなかったか▼イラク攻撃をして街や国を壊すことは、軍事の超大国にとって難しくはなかった。一方で、破壊による混沌から秩序を作り出すことはできず、日々おびただしい命が失われ続けている▼壊れた街ならば、つくりなおすのも不可能ではない。しかし、壊された命をつくりなおすことは誰にもできない。民族や国籍を超越した生命体を畏れる姿勢が、この戦争でも問われている。その問いは、戦争を始めた国だけではなく、同盟諸国にも向けられている(以上)

安倍首相は、昨年9月3日、日本政府のイラク政策について、「対イラク武力行使が開始された当時、イラクに大量破壊兵器が存在すると信じるに足る理由があった。武力攻撃を支持したのは正しい決定だったと考えている」と答えました。これも事実に「基づかない観念論」です。国際査察機関は、数ヶ月のうちにイラクの大量破壊兵器の存在の有無は判明すると言明していました。

政府部内はイラク戦争をどう捉えているかを1月13日の朝日新聞は、大統領がイラク政策の失敗を認めたことについて、塩崎官房長官は「これまでのイラクでの活動の軌跡を大統領なりに評価を率直にしたところだろう」。外務省幹部は「大統領はイラク戦争ではなく、戦後政策に過ちがあったことを認めただけだ」と伝えています。

自民党政府はイラク戦争が、国連加盟国の多数の意思に背いて行ったこと、国際法違反の先制攻撃の戦争、最大の理由であった大量破壊兵器の存在がなかったこと、テロ行為と同質の非人道的な無差別攻撃でイラクの市民を5万人以上も死亡させたこと、テロとのたたかいという大義も、アラブ世界を敵にまわしかえって国際テロ組織の活動を勢いづかせたことなど、イラクの平和と民主化とはほどとおい国内の分裂と内戦が生まれていること、中東の情勢を以前より不安定化させたことの認識は皆無です。

このような自民党政府では、再びイラク型の戦争に日本が同調する可能性は大いにあります。

日本の進むべき道は憲法に掲げられた人道主義に基づく「国際紛争を武力で解決しない」政策の道です。「天声人語」に述べられた「民族や国籍を超越した生命体を畏れる姿勢」、人命を一番に尊重した正真正銘の美しい国の姿です。

安倍首相はやたらと日本の軍事力による国際貢献を唱えています。たびたび言いますが、国連平和維持活動の基本は、”紛争地に非暴力の原理を持ち込む”ことなのです。停戦成立後の停戦監視、兵力引き離しを穏当な方法で行うことです。