シャーロック・ホームズのパスティーシュをすべて読んでいるわけではないが、
これは原作を補完しているうえに、小説自体とてもおもしろかった。
時期は、ホームズがモリアーティ教授とともにライヘンバッハの滝に落ちたとされて、
姿を消していたあいだのこと。彼は日本へやってきていたという設定だ。
解決するのは、歴史上の大事件〝大津事件〟だ。
タイトルが『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』となってるため、
まるでふたりが対決するかのような印象を持ってしまうが、
実際は『対』ではなくて、ふたりが協力して事件解決に
というか、それ以上のこと、ロシアとの戦争回避に奔走する。
これを読むまで、わたしは大津事件についてあまりくわしく知らなかったので、
読み終わったあと、ほんとうの歴史を調べてみたところ、史実からじつにうまく
虚構を作りあげていることがわかった。しかも、裏にとんでもない巨大な陰謀を、
加えてロシア皇太子兄弟の入れ替わりまで付け足して、ホームズでなければ
とうてい解決できないような込み入った事件に仕立てあげてしまった。
伊藤博文の人となりや家庭のようすも描かれ、女好きな伊藤のせいで
妾の子も同居してぎすぎすしていた伊藤家を、やっかいになっているホームズが
うまく取り持ってまとめるほのぼのエピソードがいい。
ホームズの滞在中は女遊びを控えるという伊藤に対して、
ホームズはコカインを使わないと約束したり。
さいごは一家全員に別れを惜しまれて日本を旅立つホームズ。
その後、ダライ・ラマに謁見できたのも、オスマン帝国のカリフに面会できたのも、
伊藤博文の力添えということになっている。
そして、ホームズがロンドンに戻って最初の事件、『空き家の冒険』へと
うまくつないでいく。
余談だが、わたしの好きなジェフリー・ディーヴァーもホームズの短編を書いている。
こちらは、最後になってようやくホームズものとわかるのだが、
ひねりを効かせた短編が得意なディーヴァーらしく、ホームズが
まんまと悪人にしてやられる話だ。
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