一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

日レスインビテーションカップを見た感想(後編)

2012-09-28 00:18:28 | 女流棋戦
・準決勝第1局 中井広恵女流六段-島井咲緒里女流二段
ここまでくればあと一息。後手島井の四間飛車穴熊に、中井は左美濃に組む。両者の十八番だ。中井は銀冠に組み替え、島井は△9四歩。結果論だが、この手がどうだったか。ほかに有効な手があったと思うのだが。
66手目△1四歩に、▲9五歩が狙いの端攻め。△9四歩を指さなければ、この手はなかった。
中井は歩の手筋で香得を果たし好調。島井はお返しとばかり、銀頭に△5六歩と叩く。しかしこれが敗着。次の▲9四香が痛打だった。
将棋には、「この手が指せれば理想だけど、なかなか実現しない手」というのがある。美濃囲い相手の▲7四桂や、穴熊相手の▲8三桂がそうである。歩の裏側から香を打つ▲9四香も、その類であろう。どうして島井がこの手を許したのか、理解に苦しむ。島井は今期のマイナビ女子オープンや女流王座戦で本戦入りを果たし、女流名人位戦B級リーグにも入った実力者である。しかしこういう注意力散漫な手を見せられると、その信頼も揺らいでしまう。
仕方ない△9三桂跳ねに、▲同香成を島井は見落としていたか。▲同香不成なら△8一玉で、▲5六銀と手が戻ると勝手読みをしていたのかもしれない。
勝手にしてよの△5七歩成に、▲7三角成~▲9六香が詰めろになっては、大勢決した。私ならここで投了する。
以下14手進んで、中井勝ち。順当に決勝に進出した。

・準決勝第2局 船戸陽子女流二段-渡部愛女流3級
渡部の先手で、相居飛車の立ちあがり。しかし12手目の△7二銀に違和感がある。得意の雁木にするなら△6二銀が形だからだ。▲7七銀に△8三銀。この手が早くも敗着となった。ここではまだしも△7四歩と突き、△7三銀~△6四銀の攻勢を目指すべきだった。
船戸は4手後に△2二飛。形の上では陽動振り飛車だが、これは船戸の得意形ではない。相手の意表を衝いても、自分が指し馴れていなければ意味がない。
両者の対戦成績は船戸のほうがよい。本局だって、いつもの船戸の将棋を指せばよかったのだ。そこで手を変えてしまうのが、実戦心理というものか。
話を戻すが、△2二飛は、渡部が引き角から▲2五歩を決めたから、実現したもの。つまり渡部が誘ったともいえ、渡部からすれば、対振り飛車は歓迎だったということになる。
46手目の△6五歩に、堂々と▲同歩が渡部の実力を示した一手。ここで別の手を指すと、△6五に位を張られていけない。
私も植山悦行七段からの指導対局で似たような局面が現われ、私が銀桂交換の駒得をあえて見送り、4五に位を張ったら、バカにうまい展開になり、快勝したことがある。
また本局の18日後に指された王座戦第3局でも似たような形が現われ、羽生善治王位・棋聖が銀桂交換の駒損を甘受し、以下快勝した。
本局も王座戦同様、▲7七同桂と左桂を活用する味がいい。ここで渡部持ちになった。
55手目の▲6五歩も落ち着いた一手。こうしてじっとしているのがいいのである。まるで成田弥穂さんの指し手を見るようではないか。
ここからゴチャゴチャした指し手が続くが、78手目△2五銀はつらい。ここは歩で間に合うところだからだ。船戸には、負けても指せない手を平気で指すところがある。それは、勝てば粘りの手だが、負ければ見苦しい手、ということになる。△2五銀にそこまでの罪はないが、この銀を打つくらいなら、私なら投了していたかもしれない(これは言い過ぎ)。
▲3二飛から▲3一飛成と、角がボロッと取れては勝負あり。以下の指し手は無意味だった。
本局は船戸の作戦ミスに尽きる。船戸は昨年の決勝戦で惜敗し、本棋戦には人一倍闘志を燃やしていたはずだ。それがどうしてこんな指し手になったのか。闘志が空回りしてしまったのだろうか。
対して渡部は、堂々の勝利。中井女流六段との決勝戦では、いい将棋を見せてくれるだろう。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 日レスインビテーションカッ... | トップ | 9月28日のジョナ研(前編)... »

コメントを投稿