一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第3回 大いちょう寄席(中編)

2019-10-28 12:34:17 | 落語
羽織姿の仏家シャベルは存在感十分で、本職の噺家に見える。
「最近は足腰も弱くなりまして、難儀しています。まごまごして高座から落ちると、ラクゴシャ! なんて言われたりしてね」
身体の衰えも笑いに変える、この自虐性がいかにも落語っぽい。
マクラは例の白内障の話である。
「どうも目の調子がおかしくなって、まあ片眼が見えなくなったって片眼で見えりゃいいってほっといたんですが、ある日家内と散歩に行ったときのこと、今日は随分霧が深いねえと言ったら、霧なんて出てないわヨと言う。それで知り合いの眼医者へ行ったら、手術の必要があるって言われた。
だけど医者は、血糖値が高くて手術が出来ないって言う。それで近くに午王山がありますわね、そこに3度の食事のあと、家内と30分かけて散歩に行った。これをひと月やりました。90回ですナ。あと3日と1回で100回になる。これから演る噺そのものです。
そしたら血糖値が下がった、それで手術できることになったが、それでも成功は難しいって言う。
このままじゃアンタ、めくらになりますよ。そりゃ困る、何とかしてくれ。じゃあ何とかしましょう、てな具合でね」
この辺りのやりとりが妙に可笑しく、これだけでもう1本の噺ができるほど、上質なマクラだ。
その流れで「心眼」に入る。実に自然である。
シャベルが梅喜になりきり、巧みに噺を進める。これは1月にも聞いているが、ますます洗練された感じだ。あれから稽古を重ね、修正点を改善したのだ。
信心の甲斐あって、梅喜の目が開いた。しかし通りを歩くと、いろいろ障害物がある。
「目が開いているとあぶない」
これはある種の真理であろう。
ちょっと切ない下げが終わり、拍手喝采である。シャベル、心眼を自分のものにしたな、と感じた。
ここで5分間のお仲入りである。もう、私を訪ねる人はいなかった。画家の小川敦子さんや、BGM担当の永田氏を視認しているが、私は挨拶に行かなかった。私はこういうところ、非礼なのである。
再開後、小柊が登場した。ちなみに昨年はこの時間、バトルロイヤル風間氏の「似顔絵ショー」だった。
その小柊が、凄まじい美人なのでビックリした。
プログラムには、「画家、大学講師、高校教師」とある。しかも銀座で毎年、個展を開いているという。三味線は趣味らしいが、大変な才能の持ち主ではないか。
「長唄三味線の奏者をやっている、ヨシズミ小柊と申します」
ちょっと鼻にかかった声が魅力的だ。お顔は鹿野圭生女流二段に似ている。そこに谷口由紀女流二段をまぶした感じで、まさかこの女流棋士2人が、同じ線上にあるとは思わなかった。ああそういえば、2人は同じ系統の顔である。
しかしこんな美人がどういう縁で、この落語会に出演することになったのだろう。
小柊が、オペラ「蝶々夫人」で使われた曲を奏でる。実に美しい歌声だ。
続いて「新土佐節」。長唄の対極にある「端唄」で、江利チエミがよく唄っていたという。
しかし小柊の様子がおかしい。
「アッ、緊張してて、弦の調律を忘れました」
私は三味線がよく分からないが、1曲ごとに調律の必要があるらしい。
「新土佐節は唄の途中に、『そうじゃそうじゃまったくだ~』というところがあります。ここを皆さんでご唱和いただきたいのです」
私はこういうのが苦手である。小柊の唄が始まったが、この歌詞のところに来ると、みなはしっかり発声する。でも私はダンマリである。しかし一度で終わりと思いきや、何度も繰り返される。3度目には私も、つぶやいてしまった。
3曲目は、虫の音をBGMに1曲。そうだ、今の季節は秋なのだ。このところの災害続きで、私はすっかり忘れていた。
4曲目は「うめぼし 水づくし」。水が落ちる様をしっとりと聞かせた。
最終5曲目は「ひあり」(だったと思う)。
「唄の途中で、『えんりゃー、ヨイ』という掛け声があります。これは音域は関係ないので、どなたでも大丈夫です。こちらもご唱和いただけませんか」
もはや完全に小柊ペースである。これも私は、つぶやいた。
大きな拍手で小柊は終了。小柊はとにかく美人で、これほどの美形を拝見するのは、谷口女流二段以来ではなかろうか。
ああそうか、私はこの系統を美人と認識するのだと思った。
小柊さんの再登場を期待します。
トリは木村家べんご志である。小柊の出囃子で登場した。
(つづく)
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