冷たい風のような火

メモ書きですが、それにしても何で公開の場で書くんでしょうね。

秋の夜長の読書 「真珠湾からバグダッドへ」 ドナルド・ラムズフェルド回顧録

2017-12-04 00:03:08 | 息抜き
既に初冬ですが、この本はどうしてもご紹介したい。今年読んだ本の中では、「ジョージ・ケナン回顧録」と並んで共感し、自信を深めてくれ、自戒を促してくれた本です。


「真珠湾からバグダッドへ」 ドナルド・ラムズフェルド回顧録

子供の方の(2001-08年の)ブッシュ大統領、あるいはブッシュ政権は、あまり好かれていないというのが実態でしょう。2001年9月11日の同時多発テロ後、アフガニスタンとイラクに侵攻。対テロ戦争を始めました。しかし、テロはなくならないし(国家対国家の戦争ではないので、なくならないのはある意味当然)、独仏を中心としてヨーロッパの大国からもその戦争への大義を問われ、それが特に大量破壊兵器が発見できなかったことと収容所でのイラク人捕虜に対する米軍兵士の虐待問題などで炎上し、特にイラクでの占領政策が当初数年うまくいかずに米軍兵士の死傷者数がどんどん増え、予算の問題から民間の軍事サービス会社を使ったことがさらに現地の統制や米国内の利権とからんで批判され、政権内でも穏健派的な立場に見えたコリン・パウエルやコンドリーサ・ライスに比べて常に強硬派だったラムズフェルドは批判の矢面に立ちやすかった。メディアの攻撃も受けやすかった。

しかし、この人の人生は凄いです。シカゴのあまり裕福ではない家庭に生まれながら海軍の予備役訓練課程の制度を利用してでプリンストンで学び、レスリングではオリンピック代表寸前のアスリート。軍の支援を受けて学んだので卒業後は軍に入りますが、パイロットとしても教官としても優秀。そして30代に突入して直ぐにシカゴの選挙区から下院議員(当然共和党)に当選。フォード政権では史上最年少の国防長官。いったん政治を離れてからも大手の企業やベンチャー企業のCEOや取締役としてビジネスでも確固たる実績を残し、ブッシュ政権で史上最年長の国防長官として入閣。以後、他の閣僚は後退していく中で約6年の長きにわたって、史上まれに見る困難な時期の国防長官を勤め上げます。

とにかく芯がぶれない。保守の神髄が分かっている。単に右寄りなのが保守ではない。自由とそれに伴う責任を果たすという厳しい文化を守ることを徹底している。だから厳しい決断をする。だからフェアな議論をする。フェアな議論をふっかければ、それはPolitically Correctな余地がなくなることにつながるので、当然敵を作る。それが政権内や議会や司法や同盟国やメディア相手であっても、絶対にぶれない。

いろんな語録やエピソードをここで紹介してもよいのだけれど、それはこの本の中の文脈で味わって欲しい。もちろん、イラクの占領政策を含め幾つかの点については、既にある程度歴史的に政権側の判断の巧拙について評価が決まっている部分もあり、ラムズフェルドの主張を鵜呑みにできない部分もあります。しかし、芯の部分では共感できる。勉強になるし、勇気づけられるし、自戒させられます。

嫌いな人の回顧録を読むのは、考え方の幅を広げたり視野を広げる上で有効ではないでしょうか。特に、相手はこれほどの人物です。挑戦する価値のある本です。読まない決断をする前に、この質問にどう答えるか自問してみるのもよいでしょう。対テロ戦争をブッシュとラムズフェルドが始めなかったら、世界は今より平和だったのでしょうか。北朝鮮へのオバマ政権の柔和な対応が現状を生んでいることも忘れるべきではないでしょう。


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