業務日誌

許せないヤツがいる 許せないことがある
だから倒れても倒れても立ち上がる立ち上がる
あいつの名はケアマネージャー

自費と慈悲 その2

2006年12月15日 | 業務日誌
さて、クリントンの介護保険を使い、妻ヒラリーへの家事支援を通じて老老介護地獄から夫婦を救おうというこの事例、最強ヘルパーを派遣したにも関わらず意外と滑り出し好調でした。
ヒラリーの希望通り、トシをくった色気のないマリリンさん、よそのお宅やケアマネからは「出しゃばり」「見栄っぱり」「ごうつくばり」とサッパリ不人気ですが、ヒラリーとはうまくいっている様子。
うーん、こういうことがあるからヘルパーって面白いんですよねえ。
気を抜かず、経過を見守りながらも、とにかくこの夫婦にとうとうヘルパーを入れることが出来たのだ、やれやれ、と胸をなでおろしたオリーブと私でした。

しかし、やはり怖れていたことが起きてしまいました。
まあ、起きるべくして起こったと言うべきか..............................。



オリーブの相談というのはこうです。

昨日の朝、いつものように、クリントン家の門をたたいたマリリンさん。
しかし、呼べど叫べど応答がない。
寝たきりのクリントンを置いたまま、ふらっと出かけるようなヒラリーではないため、マリリンさんはヘルステに電話をかけ、利用お休みの連絡が入っていないかをチェック。
でも、そんな連絡は入っていません。
で、ヘルステの目くそがオリーブに連絡しましたが、オリーブもヒラリーの所在はわかりませんでした。
オリーブが緊急時連絡先になっている長男の携帯に電話をかけたそのとき、
「オリーブさん、いたいた、ヒラリー自宅で寝てたわ!」
とマリリンさんから連絡が。
どうもヒラリーは、体調が悪くて奥の部屋で寝ていたらしい。
30分ほど遅れてサービス開始。

すると、ほどなくしてマリリンさんから、またオリーブに電話がかかりました。

「オリーブさん、ヒラリーさんが腰が痛くて動けないと言うの。すごく辛そうよ。病院に連れて行ったほうがいいんじゃないかと思うんだけど」
たったひとりで寝たきりクリントンの介護をしているヒラリーは、よくこうして腰痛のひどいやつになり、まったく動けなくなることがあると私も聞いていました。
うーん、それは困った、とオリーブが思っていると、電話の向こうでマリリンさんが
「なんなら私が病院に付き添ってもいいよ、と今ヒラリーさんに言ったら、『頼むからそうしてくれ』と言われたんだけど」
と、ケアマネに指示を仰ぐまえから利用者の依頼を受けてしまった様子なので、ダメとも言えず困ったオリーブは、長男に連絡してみました。
すると長男からも
「自分は仕事中なので、よければそのヘルパーさんにお願いしたい」
と。
家族もそう言うし、このままほっとけないし.........
そこでマリリンさんは、ヒラリーを連れて最寄の整形まで受診の介助をすることになったのですが..............................

オリーブ、そこでハタと気付く。

そうです。
ヒラリーの家事を支援しているとはいえ、このサービスの対象者はあくまでもクリントンただひとり。
たとえ本人の希望でも、たとえ家族の依頼でも、サービス契約もしていない同居家族へのサービス提供、一体誰に請求するのでしょうか。
…マリリンさんのお給料はどこから出るのでしょうか。


「こういうケースって、どう処理したらいいのでしょうか…」

オリーブからの相談を聞き終えた私は、ただただボーゼン
…どう処理と言われてもあなた、これは介護保険外のサービスでしょう。
だからあれほど、この事例は担当するヘルパーさんの意識と注意が肝心ですよと、混同しないようにきっちり説明しとかなきゃダメですよと言ったのに。
やってしまったことは仕方ないですけど、と前置きしつつ私が
「とにかく、マリリンさんはこの派遣が介護保険外だということを理解していたんでしょうか?」
と聞くと、オリーブは小さな声でわかりません、と。
「じゃオリーブさんは?マリリンさんから『ヒラリーを病院へ』と言われたとき、すぐそのことに気付きましたか?」
と聞くと、オリーブは、話を聞いているうちに気付いたと言うのです。
「だったら、この受診は結果的にはケアマネからのGO指示のもとで行ったことになりますよね?」
と聞くと、オリーブは
「いいえ、私がダメだと言おうにも、もうマリリンさんに連れて行ってもらうことに決まっていたというのが実際のとこに近いんです。…でも、私がやっぱり悪いんですよね、ハリケンさん、どうしたらいいでしょうか。」
マリリンもオリーブも、ヒラリーや長男に、自費サービスの説明はしていない。
というより、ヒラリーも長男もそれがどうして介護保険のソトとかナカとかの話になるのかさえ理解出来ないでしょう。
しかし、夫クリントンのサービスを担当していながら妻ヒラリーへのサービスと混同し、その場で『私がヒラリーを病院へ連れて行きます』と申し出て、ヒラリーをその気にさせてしまったマリリンさんにも問題はあります。
善意の申し出だと思われても仕方ない、自費のことを説明してないんですから。
途中で『これはやっちゃまずいサービスだ』と気付きながらも、既に受診したい気マンマンになっていたヒラリーや、頼みたい気マンマンになっていた長男にその場ですぐ「あ、これってやっぱりダメでした」と言えなかったオリーブもダメだけど、マリリンさんにもそれなりに責任は取ってもらいましょ。
このマリリンは、以前から
「利用者が歩くとき、手を繋いだから身体介護」
「利用者がトイレに入ったとき、心配になってドア外で待っていたから見守り身体」
といいがかりをつけ、少しでも高いお給料をもぎ取ろうとすることで有名なヘルパーです。
いいかげんにこのマリリンにはウンザリしてたので、ここはひとつギャフンと言わしてやらにゃいかんわ。
この機会にきっちりお灸をすえて、2度とこんなことでケアマネを悩ますことがないようにせな。

とにかくこの事例では、介護報酬はビタ一文もらえません。
クリントンのサービスにはなっていないので、クリントンのサービス枠で算定するなんて絶対ダメです。
でも、マリリンは必ず身体介護を請求してくることでしょう。
ケアマネが説明しなかったからとわめいて、自分はお給料をもらう権利があると言い切るに違いないんです。
しかし、そうはハリケン問屋がおろさない。
無知は罪だということを、オリーブ同様マリリンさんにも思い知らしてやる。

「いいですか、オリーブさん、先手必勝ですよ」

マリリンがヘルステに帰ってきたら、
「お疲れ様でした、本当にすみませんでしたねマリリンさん、まったく関係のないヒラリーさんの受診まで、ボランティアでやってもらっちゃって」
と言うこと。
マリリンが逆上したら、
「だってマリリンさん、ヒラリーがひがしヘルステの利用者じゃないってことはマリリンさんだって知ってるじゃないですか。なのにすすんで『私が病院に連れていってあげます』と申し出て下さったのはマリリンさんですもの、当然そのお給料がどこからも出ないことはご存知でしょ?」
と言い切ること。
それでマリリンさんが納得しなければ(納得するはずないけど)そっからあとは目くそと話し合いましょう。

私がオリーブに授けた策は、決してほめられたものではありません。
弱いものいじめ(ひがしのヘルパーが弱いと言えれば、ですけど)に近いモンがあります。
実は私も以前の職場で、夫婦ものの利用者宅にヘルパーとして派遣されたときに、似たような失敗をやらかしたことはあります。
その都度利用者やM主任にすごい迷惑をかけました。
でも、そのときのM主任は決して責任逃れをしませんでした。
常勤・非常勤・登録を問わず、厳しく責任の所在を明らかにして、私たちのかわりに利用者とケアマネと施設長に謝罪して下さり、利用者の限度額を汚すことなく、迷わずヘルパーのとりぶんをカットしました。そうして私たちにヘルパーの職業倫理を学ばせてくれたし、自分も一緒にドロを被ってきてくれたのです。
オリーブも、自分がこのようなことも起こりうることを想定していなかった非を認めて、自分の責任から逃げずに利用者や家族や青田主任に謝り、そうして失敗から学ぶのですから、マリリンさんやひがしヘルステにも同様に反省してもらいたい。
そう思ったのです。



....................鼻くそ不在とはいえ、所詮ひがしヘルステはクソの集まりでした。

ええ、ええ、大騒動になりましたわ。

つづく