蟻取物語

蟻の採集や飼育に関する研究成果を、写真等を活用して公開する。

15 蟻研講演録ナンバー3「ケブカケース内ペアリング」

2006年11月30日 12時27分22秒 | Weblog
採集したケブカクロオオアリの多量の幼虫、蛹を、
ワーカーと共に新品の人工蟻巣に移しました。
人工蟻巣は木材と石膏で作ったもので、巣部は木をくりぬいてあります。
巣内の様子を観察できるよう、両面をガラスで覆ってあります。
サイズは横400㎜、高さ200、奥行き30です。

8月中に、次から次と蛹が羽化していきましたが、
一向に羽蟻が増えません。
よく観察してみると、
羽蟻が羽化すると、体色が白いうちにワーカーが食べてしまうのです。
今までの努力が、水の泡になりかねない。

焦りました。  

食料が不足していると判断し、
ゼリーと虫を、大量に与えました。
これが功を奏したのか、巣内に羽蟻が見られるようになりました。
  参照「羽蟻羽化」             
11月まで、餌をやり続け、
12月にはコロニー全体が越冬に入りました。

ほっと一安心。   

14 蟻研講演録ナンバー2「ケブカケース内ペアリング」

2006年11月29日 13時18分06秒 | Weblog
川沿いのやや高地に、Yさんの小屋があり、
その庭に大欅の倒木が二つ横たわっていました。
欅の倒木には、黒い大きなアリが動きまわっている。
10mmをゆうに超える大型のアリである。
体色は艶のある黒で、光り輝いている。

すごいのは、長い白毛が胸部から腹部の背面にはえており、
それが風に揺れ、陽の光りにキラキラと輝いている光景。
巨大コロニーの重量感が目の前に展開していました。

Yさんは、5月から10月頃まで、この夏の小屋で過ごすという。
河川と山林の管理をしていて、
密漁と山菜取りを監視しているそうです。
夏でも小屋の中では薪ストーブに火が入っています。
このケブカクロオオアリの営巣している欅を、薪にすると言う。
もったいない。
出来たら保存してほしいと頼み込むも、
Yさんには、この巨大コロニーの価値は皆無であろう。

翌日、再び訪れてみると、
Yさんが欅の大木の一部をチェーンソウで切り取ってくれていた。
地面に羽アリの蛹やワーカーの幼虫、蛹が散乱している。
ワーカーが一心不乱に幼虫、蛹を巣に戻そうと動きまわっている。
私も一心不乱にそれらをビニール袋に収容しました。
    参照「福井県美濃又」

これで、蛹を羽化させれば、
ケース内ペアリングが可能になるかも。
心が踊る。

Yさんに感謝、感謝   




13 蟻研講演録 「ケブカクロオオアリ同巣内雌雄のケース内ペアリングについて」ナンバー1

2006年11月27日 16時41分41秒 | Weblog
皆さんの中に、ケブカクロオオアリを見たことのある人はいますか?
ケブカクロオオアリは希少種で、しかもコロニーは山奥に点在しているため、
なかなか、お目にかかることができません。
また、探し出せても、コロニー全体を採集することは至難の業です。
営巣場所は、欅の大木とか枕木とか非常に硬い木ですので、
専門的な工具を使わなければ、解体することは困難です。
そこで、羽蟻かその蛹を採集して、ケース内でペアリングさせることを
計画したわけです。

オオアリ属のペアリングは、ミカドオオアリで成功したことがありますが、
その他の種では、経験したことがありませんでした。
半信半疑、暗中模索のスタートでした。

私は40年近くケブカクロオオアリを探し続けました。
まさに、山師的な行動で探索紀行を繰り返していました。
初めて遭遇したのは、3年前、北海道の丸瀬布昆虫生態館ででした。
学芸員のKさんに営巣場所にも案内してもらいました。
昨年、福井県の東部山地に棲息しているという情報をえて、
7月下旬梅雨明けを待って、現地に向かいました。

大野市からバスで1時間ほど、美濃又の川沿いの山道です。
蟻の種の豊富な所でしたが、1時間ほど登っても、
ケブカクロオオアリを見つけることが出来ないでいました。
道脇で朽木を解体し、エゾクシケアリを採集していると、
車で来た真黒に日焼けした70歳ほどの男の人に声をかけられました。
私が黒い大きなアリを探していると答えると、
自分の小屋の庭にいると言う。
その人がこの山林の所有者のYさんでした。
ラッキーな出会い