三流読書人

毎日の新聞 書物 など主に活字メディアを読んだ感想意見など書いておきたい

ドングリ小屋住人 

秋刀魚の歌 佐藤春夫

2006年09月17日 20時13分16秒 | 文芸
  「秋刀魚の歌」   佐藤春夫

あはれ
秋風よ
情(こころ)あらば
伝へてよ
男ありて
今日の夕餉(ゆうげ)に
ひとりさんまを食(くら)ひて
思ひにふけると。

さんま、さんま、
そが上に青き蜜柑の酸(す)をしたたらせて
さんまを食ふはその男がふる里のならひなり。
そのならひをあやしみなつかしみて女は
いくたびか青き蜜柑をもぎ来て夕げにむかひけむ。

あはれ、人に捨てられんとする人妻と
妻にそむかれたる男と食卓にむかへば、
愛うすき父を持ちし女の児は
小さき箸をあやつりなやみつつ
父ならぬ男にさんまの腸(はら)をくれむと言ふにあらずや。

あはれ
秋風よ
汝(なれ)こそは見つらめ
世のつねならぬ団欒(まどゐ)を。
いかに
秋風よ
いとせめて
証(あかし)せよ かの一ときの団欒(まどゐ)ゆめに非ずと。

あはれ
秋風よ
情(こころ)あらば伝へてよ、
夫を失はざりし妻と
父を失はざりし幼児(をさなご)とに伝へてよ
男ありて
今日の夕げにひとり
さんまを食ひて
涙をながすと。

さんま、さんま、
さんま苦いか 塩つぱいか。
そが上に熱き涙をしたたらせてさんまを食ふは
いづこの里のならひぞや。
あはれ
げに そは問はまほしくをかし。

    ◇      ◇      ◇

秋刀魚のシーズン。新しい見事な秋刀魚が1尾100円。
やはり七輪(かんてき)で焼きたい。
昔ながらの道具がホームセンターなどで何でも売ってます。
七輪に消し炭(あれば)を入れ、焼き肉の時に使った残りのガスボンベをバーナーにつけ、火をおこします。
次は30年ほど前に買ったニクロム線のきれたヘヤードライヤーで風を送ります。
あっという間に強烈におこります。網をよく焼いて、塩をあてた秋刀魚をのせます。強火の遠火です。
ここまで15~20分。
大根おろしに酢、酢は「青きみかんの酢」でもレモンでもスダチでもワインビネガーでもバルサミコでも何でもお好みで。
豊かな気持ちになります。残った火は消し炭に(これが大事)、火消し壺も売ってます。

※ 佐藤春夫(1892年~1964年)新宮市出身 作家



最新の画像もっと見る

コメントを投稿