鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

“箱一般”は存在しない、“個物としての箱”のみが存在する(GLASS8-6 )

2010-01-10 20:47:42 | Weblog
 勝利した白の騎士がかぶとを脱ぐのをアリスが手伝う。かぶとが余りにきつかったためである。アリスがあらためて騎士を観察する。彼はこれまでアリスが見たことがないほど奇妙だった。
 ①騎士は錫の鎧を着ていて、しかも体に全く合っていない。

 PS1:錫のよろいは玩具の錫の兵隊が着るもので現実の騎士は着ない。「鏡の国」は現実でないから錫の鎧を着るかもしれないがアリスには奇妙である。なお錫の兵隊 tin soldier はヴィクトリア朝の男の子には馴染みであった。アンデルセンの作品にこれを取り上げた『しっかり者のスズの兵隊』(1838年刊)がある。

 ②騎士の肩にモミ材でできた箱がくくりつけられ、それは逆さまで蓋が垂れ下がり開いている。とても変だとアリスが箱を見つめる。「私の小箱にお前は感心しているんだな」と騎士は上機嫌。「私の発明である。衣服とサンドイッチを入れる」と彼が説明する。

 PS2:アリスは箱が逆さまで蓋が垂れ下がり開いているため変だと思う。騎士はこの時点では蓋が垂れ下がり開いていることをまだ知らない。だからアリスが見つめるのは感心しているためと思う。これはありうることである。

 PS3:奇妙なのはただの箱を彼が「私の発明」と言ったことである。その理由は何か?
 それは彼が“箱一般”なるものを理解しないからである。彼にとって理解可能なのは“個物としての箱”のみである。彼にとって存在するのは個物のみである。“個物としての箱”は白の騎士が作り存在させることにしたのだから彼の「発明」である。
 彼が“箱一般”を理解するなら、“箱一般”はすでに「発明」され知られている。彼が作った箱はすでに「発明」された“箱一般”に属し、「私の発明」ではない。