早い目覚めは月明りのせいだったろうか
枕に乗せた頭を右手に動かして窓から差し入る月の光を見る
網戸を通りレースのカーテンを抜けて木の床を柔らかく照らしている
誘われるように起きて外を見て光の源を空に探す
半月よりちょっと大きいぐらいの輝く月が宙に浮いている
夜明けまでまだまだの未明の世界にあって月は灯火のように見える
月の引力は潮の満ち引きだけではなく 人が織りなす時間と想いを引いては戻していく
さまざまな事があった過去 いろいろな事が起きるであろう未来 2つの時間帯の合間に現れた月の光の道
月明かりの下で散歩をしよう 断固たる意志や練りに練った計画とは無縁の 自然と湧いてきた穏やかな思い
真っ黄色のTシャツ 真っ黒のショートパンツ ダークグリーンのスニーカー ムーンライトマンは玄関を開けて外へ
里山を縫って広がる小道を歩む 月光の下でも森は濃い墨で黒々と塗りつぶされている 墨絵の題は妖怪
そこは魑魅魍魎の住みか 百鬼夜行の立ち寄り処か 石器時代や江戸時代の想いに立ち返る
道筋に沿って街灯がぽつんぽつんと立ち並んでいる
裸電球に丸い笠ははるか昔のこと 今はLED灯で人工光の極致の輝きを放っている
毘沙門天と弘法大師を祀っている毘沙門堂の前まで行く
堂内は蛍光灯で照らし出されている 武者姿の毘沙門天の彩色木像と剃髪した弘法大師の石造りの座像が並んでいる
苗が植えこまれた水田の側の舗装路を歩く 蛙が鳴いている 耳を澄ませ傾聴する
ゲェコゲェコかな グゥワッグゥワッかな どちらにも聞こえる
遠くで犬が時折吠えている ヴワァン ヴワァン 声量から大型の犬だと分かる
月に吠えているのか 月夜を歩く見慣れぬ人間に気づいたか
水田や森の合間に点在する住家は寝静まっている ワールドカップサッカーも終わって夜中にテレビ観戦する人はいない
玄関そばに据えられた飲料水の自動販売機の1カ所に鮮やかな黄緑の光が走る
真一文字に輝いて長さは10㎝ほど 硬貨投入口を表示するための光の線
昼間にはまず気にも留めない緑の光こそ商売と言う名の気遣い
月光に照らされた道と時間を辿る 異界歩むような 夜を題材にした1冊の絵本の中に入り込んだような感覚に浸る
すべては昼間と同じものなのに 月明りはすべてを異なる景色へと変える
人が寝入っているとき 月光は不思議な3次元の世界を音もなく創り出している
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