おはようヘミングウェイ

インターネット時代の暗夜行路。一灯の前に道はない。足音の後に道ができる。

経営者カルロス・ゴ―ン 容疑者ゴ―ン・カルロス

2018-11-22 | Weblog

それは夕刻のことだった。終業間近にした知人の社長がスマホを手にして呟いた。「カルロス・ゴ―ンが逮捕されるぞ……」。目の前にいたわたしが応答する。「あの日産の?」。社長がスマホのニュースの一部を読みあげる。「任意同行したみたいだ」。私が呟く。「容疑が固まり次第、逮捕というパターンかな」。テレビも突如飛び込んできたビッグニュースを一斉に流していた。その夜、日産再興の立役者は東京地検によって身柄を拘束された。

バブル経済で高級車がブームになった。トヨタがセルシオなら、日産はシーマで一世を風靡した。バブルが弾け、日産は経営危機に陥り、救いの主を求めた。レバノン人の子としてブラジルで生まれ、フランスでエリート教育を受け、タイヤメーカーのミシュランを経て、ルノーの経営幹部にまで上り詰めたカルロス・ゴ―ンだった。

日本と日本人、日産の系列企業にしがらみがないから、日産再建のための大ナタを存分に振るうことができた。工場を閉鎖し、労働者を大幅に削減した。日本企業の経営者では見られないような劇的な改革だった。過剰な設備投資に伴う債務と、経費の大本となる人件費を削減し、短期間で借入金を減らして黒字決算を成し遂げた。カリスマ経営者カルロス・ゴ―ンの誕生であり、優れた経営手腕の持ち主としてメディアで喧伝された。

日産の業績をV字回復させたカルロス・ゴ―ンの写真が経済誌の特集や単行本の表紙を飾った。回復に至る数期分の決算書がゴ―ン改革を学ぶための事例として書籍で取り上げられ、わたしも目を通したことがある。経費を減らし、借入金を少なくするというのは、経営の鉄則である。どの経営者も頭では分かっているのだが、景気が上向きで業績が良いと、どの企業も人を増やして経費が増え、設備投資や事業展開を広げるために銀行からの借入金が増え続ける。元気な企業に銀行も気前よく融資をしてくれる。景気に波があるように、経営も山あり谷ありが常だ。

業績向上の上り坂を進むと、ピークとなる山頂に至る。実際の山登りもそうだが、頂上にいる時間は案外少ないものだ。今度は下り坂を谷間に向かって滑り落ちていく。過去最高を売り上げた企業が債務超過で翌年倒産というのがざらにあるのだ。経営は山よりは谷の方がはるかに多い。しかも谷間を這いまわる時間の方が長かったりする。中小企業であれ、大企業であれ、どんな企業も上っては下るを繰り返す。V字回復を達成する企業もあれば、破たんに至る企業もある。企業同士が連携や合併を模索するのは谷間から抜け出し、上り坂の先を目指すためである。

1、2年前だったか、日本経済新聞の最終面にある私の履歴書でカルロス・ゴ―ンが登場した。連載に目を通した。立志伝の人であり、努力の人であり、経営者としての才覚がある人物だと改めて知ることとなった。高額報酬で話題をさらったこともあった。挑戦的な風貌と自信に満ちた弁論や受け答え、実績ある経営手腕から、世界の自動車業界を代表する1人でもあった。その名経営者が逮捕され、拘置所にいる間に日産の取締役会で会長職と代表取締役を解任された。

法と正義に背く容疑者として連日メディアに続報が流される。表向きとは別に隠された高額報酬、株価連動によるインセンティブ報酬の未記載、公私混同の数々など、日産を私物化した人物像が増幅されていく。所得隠しに伴う脱税、会社経費の不正支出などによる背任が想起される。日産をはじめ、3者連携の相手であるルノーや三菱自動車の動向、ルノーの大株主であるフランス政府の思惑、立件に向けた東京地検の捜査など、当面メディアを賑わしていく。拘置所にいる容疑者は簡単に白旗を上げる人物には思えない。人生最大の危機的状況にどう対処するのか。これまでの日本滞在で味わったことがない最低の場所で、逆襲のための策を密かに練っているのではないだろうか。

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