平成太平記

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米国から叱られた南(韓国)

2013年12月26日 17時30分35秒 | Weblog

米国から叱られた南

鈴置 高史

日経ビジネス 

北朝鮮が韓国を「四面楚歌」と嘲笑った、ということですが(「北も南も二股外交」参照)。 

鈴置:2013年12月13日の朝鮮中央通信です。同じ日に張成沢の死刑宣告と即時執行が発表されたので、ほとんど注目されませんでしたけれど。 

北の対南宣伝組織である祖国平和統一委員会のスポークスマンが「南が四面楚歌に陥った」ことに関し記者の質問に答える、という形式の記事でした。要旨は以下です。 

先日、南朝鮮を訪問した米副大統領は朴槿恵に会い、対米追従を露骨に強要した。 

・日本は首相まで登場し、傀儡(韓国の政権担当者)どもと一連の懸案で摩擦が起きていることを当てこすって、愚かだの何だのと非難嘲笑、朴槿恵に対しても「悪態をつくおばさん」と手ひどく嘲弄した。 

・傀儡一味は「信頼外交」だの「(米中間での)均衡外交」だのと浮かれていたが、執権1年もたたぬうちに周辺国から冷遇と嘲笑の対象となり、果ては「誰の側に立つのか」と二者択一を強要される境遇に陥った。 

・南朝鮮のメディアは「明成皇后(閔妃)が列強の勢力争いに巻き込まれ、引きずり回された時が再現された」と慨嘆した。 

ぶざまなのは、朴槿恵がこのように侮辱されても米国というご主人様に媚びたことである。事大と屈従がもたらすのは悲惨な終末だけだ。 

南の心情を見透かす北 

激しい言葉が並びますね。 

鈴置:いつもこんなものです。韓国メディアの口調も激しくて、日本の水準からすると掲載できないような表現がありますが、北朝鮮の口汚さはそれ以上です。 

 北朝鮮は韓国メディアもよく研究していて、そこに映し出される南の精神的動揺を見逃しません。

例えば「四面楚歌」という表現は中央日報の「荒波の東アジア――楚の歌が聞こえないのか」(11月29日)からヒントを得たと思われます(「天動説で四面楚歌に陥った韓国」参照)。 

そして、12月6日のバイデン米副大統領の“二者択一発言”で、韓国人が朴槿恵外交に対する懸念を一気に深めたのを見て、朝鮮中央通信にこの記事を載せて揺さぶろうとしたのだと思います。 

バイデン発言は韓国でそんなに反響を呼んだのですか 

米国に賭けてほしい 

鈴置:ええ、反朴槿恵の左派メディアは「米国が韓国の中国傾斜に不信感を募らせた」と政府を追及しました。当然、政府は防戦に追い込まれました。 

まず、バイデン発言のおさらいです。朴槿恵大統領との会談の冒頭、下のように語ったのです(聯合ニュースによる)。 

・オバマ大統領のアジア・太平洋地域への再均衡(Rebalance)政策は決して疑念の余地がないものだ。米国は行動に移せないことは絶対に言わない。もう一度申し上げるが、行動に移せない言葉は、米国は絶対に言わない。 

・今回の訪問を通じ、ずうっと他の国に対しても、米国の反対側に賭けるのならそれはいい賭けではない、と言い続けてきた。米国は今後も韓国に賭けるつもりだ。 

「米国が韓国を見捨てることは絶対にない。だから中国を頼りにしようなどと考えずに、米韓同盟を堅持しよう」とのメッセージです。 

この発言に対し左派系紙は一斉に反応しました。ことにハンギョレは会談直後の同日午後4時36分に、ネット版で以下のように速報しました。 

中国に賭け始めた韓国 

・バイデン発言は「最近、韓国が中国に賭けるようになってきた」ことに対する不満を間接的に表明したと受け止められる。論議を呼ぶだろう。 

・発言のこの部分は(会談の冒頭で)記者たちが見ている前でのものだった。公開を目的とする覚悟を固めての発言だったと考えられる。 

・米国政府は朴槿恵大統領の外交政策に対し、小さくはない不満を持っているとされる。 

・韓―米―日の3角関係強化により中国に対する共同戦線を作ろうと米国はしているのに、韓日関係の悪化でままならないからだ。 

・ワシントンの外交専門家は、韓日関係を改善しようとしない朴槿恵政権の政策は中国を意識したものと疑い、不満を漏らしている。

同じく左派系のキョンヒャン新聞も同日夜、ネット版に「バイデンの『米国の反対側に掛けるな』は韓中密着を警戒か」という記事を載せました。ポイントは以下です。 

朴槿恵の「外交迷走」 

・バイデン副大統領の「米国の反対側に賭けるな」との表現が問題になった。 

・朴槿恵政権が、米国の唯一の競争相手と見られる中国と次第に緊密な関係を持つようになったことに対し、不満を露骨に表現したのではないか、との観測からだ。 

・米国と中国の間でどういう立場をとるのか明確にし、米国の(中国包囲)政策を支持してほしいと強調したと解釈可能だ。 

左派系紙は「米国が韓国に干渉するのはけしからん」と訴える目的で書いたのですか? 

鈴置:一連の記事からは、そうしたニュアンスはほとんど感じられません。主な目的は米国から軌道修正を求められるほどに迷走する「朴槿恵外交」批判でしょう。 

一般的に、ハンギョレなど左派系紙は保守系紙に比べ米国には厳しい。しかし、今は反米よりも反保守政権が大事、といった感じです。 

「同盟国である米国の副大統領から二股外交を指摘されてしまった」と批判された朴槿恵政権は相当に焦ったのでしょう。 

韓国外務省は、バイデン発言は「韓国の中国傾斜を批判したものではなく、単に米国の政策への理解を求めたものだった」とか「通訳のミスだった」などと苦しい言い訳に終始しました。 

しかし「賭け」の部分の英語の原文(It's never been a good bet to be bet against America)も公開されましたから、いずれの説明も説得力を持ちませんでした。

従北政権の誕生を恐れる保守 

保守系紙は事実関係と政府の説明を淡々と報じるにとどめ、左派系紙のように「外交迷走」を攻撃する意図はみせませんでした。 

「バイデンは失言王。どこでもやらかすので、特に韓国に対し厳しく要求したわけでもない」という、韓国政府のリークそのままと見られる記事まで載せて“鎮火”に協力した新聞もいくつかありました。 

保守系紙も二股外交の危うさには懸念を表明し始めていました(「天動説で四面楚歌に陥った韓国」参照)。ただ、バイデン発言はメガトン級の衝撃がありました。 

自国の新聞が書くのならまだしも、当事国である米国の、それも副大統領から外交政策の修正を求められたのです。騒ぎが広がれば政権が揺らぎかねません。 

保守系紙としては「迷走外交」の朴槿恵政権も困りもの。でも、北朝鮮の言いなりになる左翼政権が誕生する方がもっと怖い。そこで騒がなかったのだ――と韓国のメディア関係者は言います。

米国からすれば韓国は、対北朝鮮防衛を背負わせておきながら、仮想敵である中国のお先棒を担ぐけしからん国――に映ります。 

もし、バイデン氏が明福論説委員のこの記事を読んだら「逆恨み」されたと思うことでしょう。バイデン副大統領の発言は、趣旨は明快ですが「韓国以外でも言っているのだが」などと、韓国人の神経を逆なでしないよう、相当に気を使っています。 

「分断は米国のせい」 

明福論説委員のように、米国に反感を募らせる人は多いのですか。

鈴置:結構、多いのです。韓国のビジネスマンらに「バイデン発言をどう思うか」と聞いてみました。多くが明福論説委員と同様「北の核を何とかしてから韓国に文句を言うべきだ」と米国への不満や怒りを明かしました。 

 韓国人は米国に安全保障を全面的に頼りながら、というか――それだからこそ、米国に対し強い反発心を持ちます。 

米韓同盟は必要だ――と96%の韓国人が考えている。しかし、東亜日報が2013年10月30日に報じた「韓国人の外交意識調査」によれば「南北分断の責任は米国にある」と考える人が58.1%もいるのです。自国の若者の血を流して韓国を守った米国にとっては極めて不本意な状況でしょう。 

韓国人の米国への感情は愛憎半ばします。韓国の「親米」は、日本のそれとは異なるのです。今までは米国が世界最強国で守っていてくれたから、子分扱いされても我慢して従ってきた。 

しかし、不満が積もりに積もっていますから、米国が頼りにならないと思った瞬間、韓国人は手のひらを返す――すでに返し始めているわけです。 

その時、もし中国が「これからはオレが守ってやる」と確約すれば、韓国は中国に身を寄せる可能性があります。この半島で暴走しそうなのは、北朝鮮だけではないのです。

左派系紙が政権の「離米従中」を批判する一方、保守系紙がそれを批判しないとは、変な構図ですね。 

南を米国から引きはがしたい北 

日本人には奇妙に見えるかもしれませんね。韓国の保守は「反北」ですが、必ずしも「反中」ではないのです。むしろ、北をやっつけるために中国と手を組もう、との発想が根強いのです。 

一方、左派系紙も「北との和解」は訴えますが、米韓同盟に真正面からは異議は唱えない。96%の国民が「韓米同盟が必要だ」と考えているからです(「『異様な反日』を生む『絶望的な恐中』」参照)。 

それに加え、本気で反米をやると米国に見捨てられるとの恐れが増してきたこともあるのでしょう。韓国の反米はかなりの部分が米国に駄々をこねて見せるだけの「甘えた反米」なのです。 

朝鮮中央通信の「韓国の四面楚歌」を揶揄する記事の目的は何だったのでしょうか。 

鈴置:韓国を米国や日本から引きはがすことでした。だからこそ「米国からは指図を受け、日本からも馬鹿にされているぞ」と前半部分で繰り返し「南の悲惨な姿」を強調したのでしょう。 

でも、米国が「韓国に指図する」に至ったのは韓国の二股外交が原因です。「二股」をやめて米国側に戻れば問題は解決する――と韓国人は考えないのでしょうか? そうなったら朝鮮中央通信の記事は逆効果です。 

鈴置:確かに左派系紙は「二股が問題の根にある」と指摘しています。しかし「米国に叱られ、日本ごときからも馬鹿にされる」自分の姿を強調されると、米国や日本に反感を持つ人も出るわけです。 

感情で動く韓国外交 

世論だけではありません。韓国の外交は理屈よりも感情が先に立つことが多いのです。実際、中央日報の外交記者である明福(ペ・ミョンボク)論説委員は12月10日に「ベッティング(賭け)を要求する前に」を書きました。 

韓国政府が言いたくても言えないことを、代わりに書いた感じでもあります。以下が要旨です(注)。 

・バイデン米副大統領の「賭け発言」は韓国外交史の1ページを飾る可能性が大きい。 

・朴槿恵政権は均衡外交に出て、米中の間で危うい綱渡りをしている。米国は米国と日本の側につくことを望んでいる。中国は自分の側に引き寄せようと力を尽くす。 

・しかし、韓国はどちら側にも全部を賭けるわけにはいかない。分けて賭けるしかないのだ。 

・米国は韓国が中国と手を組み日本と対抗していると判断している。韓中の接近をこれ以上、放置すればまずいことになるというのがワシントンの見方だろう。 

・バイデン氏はアジア太平洋での再均衡への強力な意思を明らかにした。それなら静かに行動で見せてくれればよい。 

・日本と力を合わせて筋肉質を誇るような攻勢的な再均衡ではなく、イランやシリアとのように対話と交渉を通じて北朝鮮の核問題の解決に立ち向かう平和的な再均衡だ。 

・すぐにできることをしないで、できない選択を韓国に強要するのは賢明ではない。 

逆恨みする韓国 

 ここまで来ると「売り言葉に買い言葉」です。北朝鮮は、対話を通じてでは核を放棄しないから皆が困っているのです。明福論説委員が言うほどに「すぐにできること」ではありません。 

一方、韓国が均衡外交――米中間での二股をやめることは「できないこと」ではありません。米国は朝鮮戦争で米国人の血を流して韓国を守った実績があるのです。米国を信頼し身を寄せ続ける手もあるのです。 

それに韓国は均衡どころか、すっかり中国の言いなりです。日本との軍事協定や米日韓の3国軍事協力、さらにはミサイル防衛(MD)。中国の顔色を見て米国の要請をすべて断ってしまっています。

米国からすれば韓国は、対北朝鮮防衛を背負わせておきながら、仮想敵である中国のお先棒を担ぐけしからん国――に映ります。 

もし、バイデン氏が明福論説委員のこの記事を読んだら「逆恨み」されたと思うことでしょう。バイデン副大統領の発言は、趣旨は明快ですが「韓国以外でも言っているのだが」などと、韓国人の神経を逆なでしないよう、相当に気を使っています。

「分断は米国のせい」 

明福論説委員のように、米国に反感を募らせる人は多いのですか。 

鈴置:結構、多いのです。韓国のビジネスマンらに「バイデン発言をどう思うか」と聞いてみました。多くが明福論説委員と同様「北の核を何とかしてから韓国に文句を言うべきだ」と米国への不満や怒りを明かしました。 

韓国人は米国に安全保障を全面的に頼りながら、というか――それだからこそ、米国に対し強い反発心を持ちます。 

米韓同盟は必要だ――と96%の韓国人が考えている。しかし、東亜日報が2013年10月30日に報じた「韓国人の外交意識調査」によれば「南北分断の責任は米国にある」と考える人が58.1%もいるのです。自国の若者の血を流して韓国を守った米国にとっては極めて不本意な状況でしょう。 

韓国人の米国への感情は愛憎半ばします。韓国の「親米」は、日本のそれとは異なるのです。今までは米国が世界最強国で守っていてくれたから、子分扱いされても我慢して従ってきた。 

しかし、不満が積もりに積もっていますから、米国が頼りにならないと思った瞬間、韓国人は手のひらを返す――すでに返し始めているわけです。 

その時、もし中国が「これからはオレが守ってやる」と確約すれば、韓国は中国に身を寄せる可能性があります。この半島で暴走しそうなのは、北朝鮮だけではないのです。

 



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