北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛産業、我が国防衛力を構成する重要要素の将来展望⑩ 戦時備蓄と国産能力

2012-12-24 23:37:22 | 防衛・安全保障

◆輸入転換の致命的弊害と政策としての輸出

 脅迫されてこその言論、とは尊敬する先輩のお話ですが、尖閣諸島防衛に関する連載で駅のホームでは気を付けるよう、との書き込みを頂きました、しかし、本日も連載記事です。

Dimg_0493 富士学校祭にて人気を博した90式戦車体験乗車、戦車の迫力を体感する瞬間のスナップですが皆様お気づきでしょうか、背景の黒い山を、筒状の容器が文字通り山と積まれていますが、そうです、これは砲弾コンテナです。富士学校は教育訓練へ多数の弾薬を消費する事で知られていますが、遠くから望見できる砲弾コンテナの山、凄い。

Dimg_6051 本連載のコメントでもご指摘を頂きましたが、有事とは文字通り弾薬の消費合戦となり、これは精密誘導火器が普及しているという今日にあっても弾薬消費が平時とはけた違い、それも数桁違い、という状況から抜け出すことはできません、戦車は毎年の射撃競技会や点検射撃等に弾薬を消費しますが、それにしても50発程度、しかし、50発は戦車にとり定数弾薬前後でしなありません。

Dimg_5297 一方、120mm砲弾や105mm砲弾のような戦車砲弾は、NATO規格です。155mm砲弾もNATO規格砲弾が運用を前提としていますし、長距離打撃ロケットのMLRSや広域防空用ペトリオットミサイル、護衛艦のハープーン艦対艦ミサイル、シースパロー艦対空ミサイル、127mm砲弾や76mm砲弾もNATO規格で、これも米軍の秋月や針尾島弾薬庫に数万t単位で備蓄されています。

Dimg_5141 しかし、国産の高性能な地対艦ミサイル、対戦車ミサイルなどは、ヘリコプターに搭載する一部を例外として海外製の、特に米軍が備蓄している誘導弾と共通性はありませんし、発射器は海外製ミサイルの搭載や誘導に対応していません、即ち、事前備蓄を行う義務を怠れば、即座に有事の際に備蓄を使い果たしてしまう、ということ。

Dimg_1779 我が国のミサイルは、国産装備に関して、三菱電機や東芝と川崎重工等が性能面では世界最高水準のものを国産していますが、生産数は、短射程空対空ミサイルや中射程空対空ミサイルで毎年20~30発程度、予算が要求されています。発射機とともに初度調達品にミサイルが含まれているので、年間生産数はもっと多いのだと考えることも出来るのですが、20年程度備蓄しても、×20でも多いといえる数字でしょうか。

Dimg_9360 F-4EJやF-15Jは短射程空対空ミサイル四発と中射程空対空ミサイル四発の計八発を搭載可能で、F-15だけで約200機、教育所要や在場予備機を無視した単純計算なのですが一回の出撃で短射程空対空ミサイル800発、中射程空対空ミサイル800発の計1600発を携行してゆくとなります。F-2支援戦闘機も飛行隊配備数が54機、それぞれASM-2を四発搭載できますので、三回出撃を見込んだ場合で648発必要になる。

Dimg_8882 大きな問題ですが、空対艦ミサイルは別として空対空ミサイルは国産のAAM-3やAAM-4、最新のAAM-5のほか、アメリカ製のAIM-9やAIM-120等の運用を念頭としていますので、国内備蓄が枯渇すれば、安保条約に基づく相互協定に基づき、緊急取得することも出来ます。しかし、前述の通り、国産独自の誘導弾については、この手法は出来ません。

Dimg_8743 国産装備ですが、解決策としては、輸出を戦略的に行う、という方策があります。一部には戦略的とは具体性を欠いた政策の方便としてとらえるむきもあるようですが、本論で述べる戦略的とは、経済効率を無視して、という意味を以て用いています。即ち、経済効率からは、国産である必然性は無いのですけれども、輸出用の在庫というかたちで過剰在庫を意図的に抱え、有事の際には国内用に用いる、ということ。

Img_9725_1 この方式は、イスラエルが用いています。イスラエルは周辺国との関係から即応体制を維持していますが、同時に過去には国際関係の影響から海外武器を取得することが出来なくなった事例があり、その経験上兵器の国産化を進めてきました。このなかで、兵器の輸出を重点的に進め、平時の国産能力を高めると共に有事の備蓄を進めてきました。日本にもこの方式は参考とならないでしょうか。

Img_7964 もちろん、経済効率は結果的に無視されることになります。メーカーに輸出できるか非常に怪しい装備品を備蓄させる事は出来ませんので、国が一括して取得するか、損失補てんなどを行い企業に損害の及ばない法体制を構築し、取得した装備品を国が主体となって海外への供給を管理する、という方策などが必要となるでしょう。

Dimg_9421 戦時備蓄と国産を考えた場合、以上のような手法が必要となるのですが他方で、誘導弾は国内で生産し供給を受けることが出来る、という基盤に依拠して防衛政策、弾薬備蓄はもちろん、防衛予算での調達体制を構築していますので、これは自動的に輸入に依拠することは出来なくなった、ということにもなります。

Nimg_1403 どういう意味か、それは毎年20発程度の取得で各種ミサイルを備蓄してゆく、という方式を採っているため、例えば海外製装備に転換する場合も、これを一挙に毎年数千発規模に展開させる、という事は出来ないという意味です。ミサイルの調達ですが、空対空ミサイルなどは海外の事例を見れば一括数百発、対戦車ミサイルであれば一度の契約で千発単位、という契約が行われているのは報道される通り。

Mimg_5979 日本とは桁の違う数量調達は、生産期間が限られる可能性があり、輸入は海外に業に多年度継続調達を行わせられない、という問題に依拠していますし、追加調達できない可能性もあり、これが多数調達に反映されるわけです。この方式、大量調達で安く取得できるならば良策にも思える施策ですが、ミサイルには耐用年数があります、過剰備蓄は有事さえ起きなければ、という視点にもつながるでしょう。

Iimg_9050 これは有事への視点が無い、という位置論で切り捨てられるほど、我が国は予算面で有事を想定していなかったことは東日本大震災で証明されているわけで、こうなれば次善の策として国産能力を維持し、年々備蓄数を増勢してゆく、という手段以外にとれることはないでしょう、言い換えれば海外製を取得すれば結局多数を備蓄できず、少数で有事の際に瞬時に備蓄を枯渇させてしまうだけなのですから。

Img_2109 もっとも、海外製装備の中で、全ての装備体系を米軍と合致させるならば、この問題は回避できるわけで、装備体系としては航空自衛隊などがこの方式に近い装備体系と運用概念を持っているようにも見えます。ただ、この手法は米軍の運用体系と、特に陸上自衛隊と海上自衛隊に大きな差異があることから適用には限度があるのですが。

Img_1405 こうしてみてゆきますと、海外製装備を特に誘導弾の面で取得できる土壌が無い、、もちろん、TOWを千発、スパイクMRを二千発、AIM-9を三千発、とか年ごとに取得できる文化が定着したならば話は違ってくるのですけれども。一方で、誘導弾の性能に関しては、誘導方式などが世代的に優れた技術を実用化していますので、性能面では優れている、という事もいえるのですが。

Dimg_8620 国内仕様について、車両では道路法の車幅2.5m規制という逃れられない特殊性があるので、海外製の3m前後の装甲車などは導入できない、という視点を示しました。自衛隊なら巧くやってくれる、というお言葉もいただきましたが質問です、この写真は2.48mの車両同士の通行なのですが、各車が3m幅だったばあい、衝突しないためにはどうすればいいでしょうか。模範解答は運転しないこと、日本で使わないでしょう、だから使えない。

Img_2653 この特殊性ですが、同じく誘導弾では特殊性がある装備体系を構築してきたのですが、運おうでゃ日本の方が先進的だが生産数が多くない、という部分を除き、運用面での制約は大きくありません。結果的に多数を備蓄できない態勢を構築してしまっているのならば、輸出用という構図を加え最低必要定数を大きくし、結果有事に備える方策にもなる、という方法がありえるではないでしょうか。

Dimg_4173 制度論を少し俯瞰すれば革新的転換は簡単ではありません。海外製調達は備蓄の問題から国産品とは根本的に異なる装備数を取得することは難しいのです。無理に政治主導で制度を転換させようとすれば、三年間の民主党政治が多く多用した手法ですので、結果がどうなるか、お分かり頂けるやもしれません、精度は必然性が手構築されたものですから。
Dimg_6524 これまで防衛産業は稼働率等の面から重要性を指摘してきましたが、同時に防衛産業の調達方式が国内の視点から、という認識の下で防衛当局はもちろん、財務当局からも認識され、一つの常態化しています。そうした意味で、国産能力は戦略的に利用されるべきですし、戦時備蓄の観点からも国内防衛産業と国内、つまり日本国家は共存共栄せざるを得ない実情があり、大切にしなければならない、そう考える次第です。

北大路機関:はるな

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コメント (2)
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