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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛産業、我が国防衛力を構成する重要要素の将来展望⑨ 行き過ぎた公正性の弊害

2012-12-04 23:06:55 | 防衛・安全保障

◆防衛省戦闘機偵察装置東芝提訴の背景から
 月曜日に放映された民放の人気政治討論番組透明性と清廉潔白だけを売りに無能な政治家が増えてしまった、とは先日亡くなった政治評論家の話ですが、防衛装備品にも同じことが言えるやもしれません。
Bimg_2350 11月26日、東芝が防衛省により提訴されました。入札に応じた戦闘機用偵察装置について、その完成品の能力が不十分であったことから開発費を返還するよう求めたものです。航空自衛隊の旧式化したRF-4戦術偵察機の後継装備開発ですが、これにより開発は失敗、という事となり、開発費は下手をすれば空費、少なくとも後継装備の導入はかなり遅れることになるという。
Bimg_0630 現在、防衛装備品は調達費用の低減を希求する観点から、あらゆる分野において競争入札が行われています。近年で恐らく例外と言えるのは、韓国貨物船にぶつけられた護衛艦くらま修理の時ではないでしょうか、くらま修理は、建造した三菱重工を除いて成し遂げられる造船所は無いという事で、競争入札という形はとられず、一任されました。
Bimg_9214 さて、今回の戦闘機用偵察装置ですが、これまでは三菱が扱う分野でしたが、競争入札において東芝がより防衛省に有利な条件で応じたため、戦闘饗偵察装置の開発実績はないものの、入札に応札したのだから仕様書が求める能力を十分満たせるだけの装備品を開発できるのだろう、という視点から今回は東芝が担うこととなっています。
Bimg_8463 東芝ですが、日本を代表するミサイルメーカーです。戦闘機用偵察装置の開発実績こそありませんが防衛装備品の開発では、例えば我が国初の国産地対空ミサイルシステムである81式短距離地対空誘導弾を開発したのが東芝で、索敵能力が50km、同時多目標対処能力があり射程は8km乃至15km、91式携帯地対空誘導弾や93式近距離地対空誘導弾も生産しており、決して防衛装備品の経験が無い企業ではありません。
Bimg_5366 東芝の言い分によれば東芝の開発した戦闘機用偵察装置は、仕様書の性能を満たしていた、というものです。これは東芝も主張していることですが、戦闘機に搭載し、水平飛行しつつ航空偵察を行う、防衛省が求めた各種高度での作動に耐えるもので、戦闘機の急激な機動に伴う荷重に対しても破損せず作動を維持できるとのこと。
Img_9589 しかし、高高度から急激に急降下しつつ戦術偵察飛行を行う場合、カメラ部分が、一説によれば急激に曇る為、撮影を継続できないというもの、急激な飛行の場合に撮影能力に限界が生じることがあったというもので、もともと仕様書には戦術偵察の具体的な方策が明示されていなかった、とも言われます。もっとも、この話は違っているのかもしれませんが。
Img_9608 欠陥装備、といわれてしまったものですが、元々経験が無く、東芝には経験がある企業ほど戦闘機の操縦経験があるOBの方がいなかったのかもしれません。天下り、と批判されるものですが東芝軍や三菱軍として独自の装備体系を各企業が持っているわけではなく、どうやって使うかはOBでなければ、得られる知識や情報は限られています。
Bimg_2740 全く違う話ではありますが、経験のない装備の入札に応じた誰でも知っている大企業の方が、そもそもそれはどういうものかのか、応札を前に情報収集を行うべく、取り敢えず書店へ向かった、という話もありまして、それこそ書店で入手できる装備品情報を元に、我が社でも対応できる、として応札したという話も。
Bimg_8330 もちろん、敢えて失敗を想定して応じた企業に開発を任せ、仮に実用性が低い装備であっても少数を訓練用など用途を変えて調達し、経験を積ませる、という手法はあります。例えばアメリカの空軍向け戦闘機を開発するボーイング社の戦闘機部門、F-15を開発したマクダネルダグラス社などは第二次大戦期に習作を行い、その経験を少しづつ蓄積して今日に至っています。ただ、東芝は経験を積むのではなく返金を要求された。
Bimg_2693 さて、仕様書ですが、全て盛り込めるものではない、仕様書通りに開発するとしても、結果として仕様書以外の部分で重大な要素があり、時として仕様書を満たしているものの実用性が無い装備が開発されてしまうことがあり得るとのことで、材質ひとつ、加工方法ひとつ違っても能力に影響が及ぶ極限状態で使用される防衛装備品です、これまでの装備品のようにまともな装備には経験と蓄積が無ければ、技術力だけで可能というものではありません。
Bimg_3076 逆に、完成した装備品を海外装備品の中から選ぶ、というのであれば、そもそも使えるものの中から使用に合致したものを選ぶ、という事になりますので間違いはありませんが、実用性に合致するものを開発する、という事はそれ以上に難しいものがあるのです。それならば、海外製を導入したほうが無難ではないのか、という視点になるのですが、官制器材や稼働率の問題から、これも最善とは言い切れないのは以前記したとおり。
Aimg_0792 加えて、海外装備品のカタログスペックを精査し、十分実用性に耐える、として導入したものの、我が国の運用基盤には合致しない、という事や、思た程強調された性能を活かすには地形が違うため、費用対効果が高くなかった、と、これは一般論としてではあるのですが、言われる装備もあり、海外装備であれば間違いない、と言い切ることが出来ないことも。
Aimg_2372_1 もっとも、海外装備品の方が、国産装備品の開発を越えて高い能力を有するものがあり、結果として無理に国産装備を開発することなく海外製装備を調達したことが良かった、という装備品もあります。基本的にはこの事例が多いのですが、中には国産装備の方が良い結果につながる、更に吟味すべきであった、というものもある、というわけです。
Bimg_0186 一方、仕様書などで構成性を追求しようとしたのですが、求めていたものと違う結果が、違う企業の落札でしぃうじることもあります。実はこの手の話は色々ありまして、とある装備品の研究を公募するに当たり、本命の企業があり、その企業であれば戦闘車両の開発に経験があるため、研究の結果、自衛隊が求める装備品の開発を行うことが出来るだろう、と競争入札を行ったところ、戦闘車両の開発経験は全くないものの、仕様書通りのものであれば造ることが出来る企業が桁違いに安い応募を行い、落札されました。
Img_481_5 結局研究結果は出されたものの、本命企業ではないので使えないこととなり海外から参考装備を調達することになった、という事もありました。これなど、競争入札を行ったことで税金は空費され、同時に時間も空費された、という事にならないでしょうか、しかし、手続き上はこれが妥当、という事になる。
Bimg_4731 このほか、とある装備品の後継装備を選定する際に、本命の装備がありつつ総合入札方式で安易に安いだけの企業が入ることが出来なくなる仕組みを考え、入札を行ったのですが、確かに求められていた能力を発揮できたものの、それより一歩進んだ用途、その用途とは後継装備により代替される旧式装備なのですが、こちらが対応していた機能を果たすことが出来ず、結果的に安いだけであった、という事も。
Bimg_6965_1 防衛産業とは過去の蓄積により成り立っているのですから、実績のある企業しか、道東のものを作ることはできません、何故ならば顧客である自衛隊の要求を経験として知っているからで、安易に競争入札を多用する、という事は結果的に仕様書通りではあるものの実用性のない装備品が導入されてしまう、という結果にもなるのでして、無理な競争入札を防衛装備品の調達透明化だけを利点として行うことは、結果的に予算を空費させ、実用性が低い装備品が開発されてしまうこともあります。
Bimg_3507 公正性ということであっても、全て透明化と効率化を考えた場合、結果として違うことに繋がることもあり得ます。公正性の飽くなき追求は、正統性を得る上では理想的な文言と言えるのですけれども、行き過ぎということはいかなる分野においても慎重でなければならない、という事、これを常に考えておく必要があるのではないでしょうか。

北大路機関:はるな

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コメント (9)
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