北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

尖閣諸島防衛への一視点⑤ 先島諸島への航空部隊配備の現実性

2012-12-05 23:45:48 | 防衛・安全保障

◆那覇基地のF-15戦闘行動半径は大きい

 弾道ミサイル防衛部隊は今日午後石垣島に到着し、京阪神中京地区のミサイル部隊が宮古島と石垣島の警戒に当たります。

Nimg_1958 さて、南西諸島では中国船との海上保安庁の対峙が続き、巡視船不足から退役自衛艦を海上保安庁に移管してはどうか、という護衛艦と巡視船の構造相違を無視し退役艦も殆ど出ない中で少々非現実的な案が出されていますが、今後、先島諸島への戦闘機部隊配備について、議論が再び出てくる可能性があり、本日はこの視点について少し考えてみましょう。まず、この議論は那覇基地から先島諸島の距離が大きく、有事の際に戦闘機の展開が間に合わないのではないか、という視点が背景に出されています。

Nimg_7467 一方で、この問題の難しさは中国の短距離弾道弾射程圏内に先島諸島が入ってしまっていることです。中国は台湾を射程とする短距離弾道弾を600発保有しており、一方で沖縄本島を含む中距離弾道弾の保有数は150発ほどです。米太平洋空軍の分析では15発程度の弾道ミサイル着弾により航空基地機能が一時的に麻痺する、という想定を行っていますので、150発であれば本土からの増援部隊等の拠点対処を行う観点から過飽和攻撃を行う十分な数とは言えませんが、短距離弾道弾の600発という数量であれば過飽和攻撃を可能で、基地機能を維持するには相当数のPAC-3を置かねばなりません。

Nimg_0554 航空基地を建設する場合、例えば飛行隊規模の基地を建設するならば格納庫設備を全て地下に置き、予備滑走路を有する基地施設、冷戦時代の千歳基地のような充実した防空部隊を置けば、ある程度維持できる可能性があるのですが、前線基地への輸送は北海道から陸上輸送を行える千歳基地と異なり、先島諸島は機雷封鎖されたならば海上輸送も難しくなり、輸送機による輸送を行わざるを得なくなります。これは結果的に戦闘機の稼働を維持するための輸送機による消耗戦の展開を意味しますので、相当数の輸送機を配備しなければならなくなるのですが、第二次大戦中にガダルカナルでこれを行い、我が国は消耗戦に敗退しました。

Nimg_0935 しかし、2~3機の戦闘機を掩体に配置する、フォークランド諸島にイギリス空軍が数機程度のタイフーン戦闘機を配備しているような分遣隊方式ならば、不可能ではないと考えます。2~3機であれば強化型掩体に配置し、アラート待機での緊急発進のみ行えばいいからです。基地隊も最小限と出来ますし、警備小隊と携帯SAMを有する防空隊分遣班を配置すれば、この程度ならばそこまで基地機能維持へ輸送の負担はありませんし、訓練などは分遣隊の戦闘機を全国の各飛行隊よりローテーション方式で展開させればよいのですから、負担は最小限となるでしょう。

Nimg_1413 ただ考えておく必要があるのは、これは意味があるのか、という視点を提示してみたいと思います。何故ならばF-15は航続距離と戦闘行動半径が大きく、戦闘行動半径はF-35よりも広大です。増槽を装着しての航続距離は4630km、戦闘行動半径は2000kmに達し、これは北九州の築城基地を拠点として北京を行動半径に含めるほど、もともと北海道防衛に際し千歳基地と三沢基地が機能マヒに陥った場合に松島基地や百里基地を拠点として北海道防空に当たる航空機で、この機体が制空戦闘機と米空軍に呼ばれるのは敵戦闘機の防空圏に乗り込み全ての迎撃機を撃破し制空権を奪取することが目的の設計なのですから、那覇から先島諸島は遠くありません。

Nimg_7277 それならば、小牧基地のKC-767空中給油輸送機を増強して、戦闘機の滞空時間を延ばした方が妥当です。KC-767は一機に増強一個飛行隊分のF-15の燃料を搭載することが出来るほか、本土の基地から那覇基地へ物資輸送を行うことも可能です。前線基地への物資輸送では戦術輸送機を使用しなければ滑走路状況によっては輸送が困難となりますが、那覇基地に弾道ミサイル迎撃部隊を集中し、既に嘉手納基地へは米陸軍がペトリオットを装備する防空砲兵1個大隊を配置していますから、那覇か嘉手納か普天間の基地機能は維持でき、そこから物資を陸送することも可能です。

Img_2013 航空自衛隊がジュギュア攻撃機のような草原の前線飛行場から運用できる軽攻撃機や、海兵隊のハリアー攻撃機のような垂直離着陸が可能な航空機、グリペンのような航続距離は小さくとも道路から短距離離着陸できる機体があれば話は別ですけれども、もともと広大な日本の領空を少数の戦闘機で防空するために自衛隊の戦闘機は航続距離のおきな期待を選定してきました。一方、F-15は航続距離が大きい分、未整備滑走路などから運用する前線戦闘機としての能力はありませんから、那覇の機能維持と空中給油機の支援体制充実が現実的ではないでしょうか。

Nimg_6493 こうしてみますと、先島諸島に航空基地を配置する意味が無いよう見えてくるのですが、分屯基地だれば配置する意義はあると考えます。宮古島でもどこでもいいのですが、先島諸島にUH-60J救難ヘリコプターとU-125捜索救難機を運用する分屯基地を配置する意味はあります。第一に東シナ海海域での航空救難事案に対し時間との闘いである航空救難を迅速に行うことが出来る、第二に航空自衛隊施設があるという事だけで自衛隊が有するポテンシャルを発揮し抑止力に寄与することが出来る、第三に航空機に緊急事態が生じた際の緊急着陸を円滑に行うことが可能で、副次的に急患輸送などの災害派遣に対応することもでき、これら利点は大きい。

Nimg_6689 戦闘機部隊の配備は、戦闘機を敢えて短距離弾道弾の危険地域に送るとともに、航空自衛隊の戦闘機では前進させる必要性が大きくない点を踏まえれば、少々疑問が残ります。特に人口密集地域など航空自衛隊がほかの地域の防空を開けて守る地域ではなく、この地域を防空するには那覇基地の機能を強化する方が遙かに確実であるわけです。しかし、先島諸島は航空救難部隊であれば、滑走路を破壊されてもヘリコプターのみであればある程度運用継続が可能です。

北大路機関:はるな

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コメント (17)
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