[TUP-Bulletin] 速報857号 米国のゲーツ国防長官、防衛予算に関して発言(2)

2010-08-01 18:23:53 | アメリカ
 [TUP-Bulletin] 速報857号 米国のゲーツ国防長官、防衛予算に関して発言(1)から

1点目は、戦闘中に多数の兵士を艦船から上陸させるのに、どんな新型装備が必
要かーつまり、遠征戦闘車(次世代水陸両用強襲戦闘車両)が提供できる能力の
ことです。第一次湾岸戦争(1991年)[10]において、海兵隊の小艦隊をク
ウェート市沖で待機させ、そのため、サダムの陸軍がサウジアラビアとの国境を
見張りながらもう一方で沿岸を監視せざるを得なかったのは、疑いもなく、ほん
とうの戦略的強みでした。しかしながら、対艦システムが進歩してますます岸か
ら離れたところに発射地点をおくことができる今日において、大規模な上陸作戦
に再度着手することが必要なのか、あるいは道理にかなっているのか、十分に考
えてみなければなりません。もっと基本に近いところで、この21世紀に現実的
に最もありそうなシナリオに対処するのに、いったいどのような水陸両用性能が
必要なのでしょうか?そしてどれほどの規模で?

2点目は、航空母艦。国防総省の計画では、2040年までに11の空母打撃群
を保有することになっており、すでに予算に計上されています。確かに、世界の
海に我々の軍事力を誇示する必要性が無くなることは決してありません。けれど
も、わが国がすでに他を引き離して圧倒的に優勢であることを考えてみてくださ
い。また、敵が持つ対艦能力が向上していることも考えてみてください。2つ以
上の空母打撃群を保有する国が他に無い状況で、今後30年間に11の空母打撃
群を持つことが、ほんとうに必要でしょうか?今後の計画はすべて、これらの現
実を踏まえてのものでなくてはなりません。

それに関連して、3点目そして最後の課題としてあるのが予算です。私はかつて
、わが国には大きな戦争が起これば軍備を縮小する傾向がある、と警告したこと
がありました。それは今でも懸案のままです。しかしながら、これまでもそうで
したが、防衛予算の長期予想は、国家の戦略的能力もさることながら、国の全体
財政の健全性に本質的に関係します。

その点において、我々はいくつかの厳しい現実を受け止めなければなりません。
米国の納税者と議会は、当然、赤字を心配します。しかるに、納税者が支払った
税金の管理人としての国防総省の仕事には改善されなければならない点が数多く
あります。

さて、問題のその部分は国防総省の手の届かないところにあることは、私を含め
誰でも知っていますし、その状態がもう長く続いています。私が気に入っている
話の一つに、初代アメリカ合衆国陸軍長官であったヘンリー・ノックスの話があ
ります。彼は米国艦隊の創設を任せられました。そして、米国議会から必要な支
援を受けるために、とうとう、6つの州の6箇所の造船所で6種類のフリゲート
艦を建造してしまいました。世の中には決して変わらないことがあるものです。

今期の予算案提出で国防総省は、十分な調査のもと、軍の同意を得て、統合打撃
戦闘機(F35戦闘機)の追加エンジン用の予算を取りやめることとC-17輸送
機の生産中止を求めました。こうして話している間も、エンジン追加とC-17
増産を議会が予算に復活させないように論争が交わされています。納税者が今後
数年にわたって負担することになりかねない何十億ドル(何千億円)もの不必要
な費用です。政治的意図と防衛予算をめぐる論争については、この土曜日、アイ
ゼンハワー図書館でさらに詳しく話したいと思います。[11]

そうだからと言って、国防総省と軍が購入の責任を果たさないでいいというわけ
ではありません。当初の見積もりを大幅に超えて急騰している高額の物品では、
これらの論点は特に深刻になります。現役の潜水艦と揚陸艦は、1980年代の
同種のものと比べ、3倍の価格です。しかもそれは、艦船の建造と改造のための
総予算が以前と比べると20%削減されている現況においてです。ほんの数年前
、議会予算局は海軍の造船計画に対応するには、年間200億ドル(約1兆8千
億円)以上の費用が必要だと見積もりました。それは、近年(10年ほど前)[1
2]の造船予算の2倍であり、30%ほどの財源不足でした。急上昇するこれらの
コストと引き換えに国力が比例して強化されているのだろうかと疑問に思うのは
もっともなことです。

海軍のDDG-1000(ミサイル駆逐艦)のケースがまさにそうです。海軍幹
部がその計画を縮小したときには、艦船1隻の価格は倍以上になっており、購入
予定艦船数は32隻から7隻までに減りました。現在の購入計画数は3隻です。

あるいは、次期新型弾道ミサイル潜水艦を考えてみてください。国防総省は、1
隻70億ドル(約6千3百億円)の潜水艦を12隻購入する計画のため、今後数
年の研究開発費として60億ドル(約5千4百億円)の支出をまさに今、提案し
ています。潜水艦に対する現在の必要条件は、戦略型原潜の規模と搭載能力を持
ち、攻撃潜水艦のステルス性を備えていることです。今年に入って行われた議会
公聴会で私は、2010年代後半から新型弾道ミサイル潜水艦だけで、海軍の造
船財源の大部分を使い果たしていくことになるだろうと指摘しました。

なるほど、最新の30年造船計画は正しい方向への第一歩です。メイバス海軍長
官とラフヘッド海軍大将は、妥当な予算を作り上げ、作戦への影響を抑えて混乱
を来たすことなく軍を再編成するのにたいへんな努力をしました。同時に、海軍
が革新的なエネルギー安全保障と確固とした主導権を持つことは、環境保護に寄
与するだけでなく、長期的な節約にもつながります。

そうではあっても、戦争が収束するに従い、その過酷な局面で耐えてきた陸軍と
海兵隊を再編成するための財源が必要になるということを忘れてはなりません。
また、兵士とその家族に対して長期にわたって支払い続けなければならない費用
があります。言い換えれば、造船予算は最重要事項とは言え、今想定している額
から著しく増額されることは考えにくいということです。駆逐艦に30億から6
0億ドル(約2千7百億円から5千4百億円)、潜水艦に70億ドル(約6千3
百億円)、空母に110億ドル(約9千9百億円)を必要とする海軍の費用をこ
の国がほんとうにまかなうことができるのか、最後にはそう問わねばなりません


本日、たくさんの点について取り上げましたが、私自身がそれらに対してすべて
回答できるなどとは言いません。ただ、私の言うことを覚えておいてください、
海軍も海兵隊も、発展する技術、新たな脅威、現実的な予算に照らして、今まで
前提としていたことを進んで再検討し疑問を投げかける用意がなくてはならない
ということを。わが国には、減少する一方の装備に高額化する技術がつぎ込まれ
ていく ― 結果、最大財政支出の一部が、浪費に終わってしまうかもしれない
兵器や艦船に費やされてしまいかねないー という現状を継続する余裕など、ほ
んとうにないのです。

最後にひとつ思うところを。わが国が保有する艦船の種類と数、また、我々がど
のようにそれらを使うかは、この200年あまりの間ずっとそうであったように
、常に変化していきます。変わってはいけないこと、不朽であるべきことは、こ
れらの艦船上や陸上で任務につく海軍軍人、海兵隊員の資質です。彼らは、身体
的勇気とともにモラルを備えていなければなりません。誠実さを備えていなけれ
ばなりません。建設的に、大胆に思考しなければなりません。彼らは、世界や技
術は絶えず変化していることを認識し、それゆえ海軍と海兵隊は時代とともに変
わらねばならないことを理解して、将来を見通す洞察力を持っていなければなり
ません。常に柔軟であり、常に適応できることが求められます。彼らの名だたる
先人たちがそうしたように、彼らは上官に対してでも、厭わずにきびしい現実を
話さなければなりません。

激烈な2つの戦争が続く中、私は過去3年半にわたり、艦船上で、イラクとアフ
ガニスタンの戦地で、海軍基地と海兵隊駐屯地で、そして海軍兵学校で、未来の
海軍と海兵隊を見てきました。これらの若者たちは、わが国の海洋戦力の未来は
たいへん明るく、彼らに任せておけばこの国は安全であるという確信を私に与え
てくれています。
ご静聴、ありがとうございました。

原文
2010年7月31日付米国国防総省ウェブサイト
http://www.defense.gov/speeches/speech.aspx?speechid=1460
原題
Navy League Sea-Air-Space Exposition
Remarks as Delivered by Secretary of Defense Robert M. Gates, Gaylord
Convention Center, National Harbor, Maryland, Monday, May 03, 2010

[訳注] 
[1] Alfred Thayer Mahan 「アルフレッド・セイヤー・マハン」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%8F%E3%83%B3
米海軍の理論家・軍人。海軍少将で退役した。

[2] アフリカ・パートナーシップ・ステーション 
従来はソマリアのような交通の要衝以外はほとんど関心を持たなかった米国の、
アフリカ戦略の一環として新設された。ポスト冷戦型戦略の一環で「多国間相互
協力拠点」として機能させる目的。この場合のパートナーシップとは、西アフリ
カを中心に米国と軍事協力関係を強化しようとする意味で、このような展開は米
国の西アフリカにおける資源・エネルギー確保や対テロ戦争遂行、あるいは対中
国戦略との指摘もある。

[3] 米中央軍(CENTCOM)
米軍の地域統合軍の一つ。他に太平洋軍、欧州軍などがある。1983年に作ら
れたが、米国の戦略が中東などにあまり関心がなかった時代は活動性は低かった
。湾岸戦争以後に米国による中東地域への軍事行動が増大し、大きな戦力を投じ
られるようになった。司令部はフロリダ州のマクディール空軍基地にある。現在
の司令官マティス海兵隊大将は2010年7月から就任しているが、5年前に「
(タリバンを)殺戮するのは気分が良い」などと発言し批判された。二度にわた
るファッルージャ攻撃の司令官でもあった。

[4] devil docs [デビル・ドクター]
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,438873,00.html
2003年5月30日付け タイム(雑誌)
前方蘇生外科室と呼ばれ、戦場で医療活動を行う医師団のニックネーム

[5] ユリシーズ・グラント
南北戦争時の北軍総司令官で、第18代米国大統領

[6] 2010年4月7日に行われたゲーツ長官の海軍士官学校での演説を指す


[7] 非対称型戦争(戦闘)
双方の戦力や戦闘能力に大きな差があるような場合における戦略、戦術において
、相手とは異なる予測困難な手段をとることにより局面を有利に運ぼうとするこ
とを指す。
必ずしも「正規軍対ゲリラ戦」とは限らない。たとえばイラン対米軍におけるペ
ルシャ湾での作戦行動、またはタリバン対多国籍連合軍(ISAF)など。特に
装備や戦力で大きな差がある場合に優勢な相手に対して弱点や予測不可能な戦術
等により対抗する場合に、このように呼ばれる。戦場での軍事行動に限らず、広
義には社会不安を引き起こすようなテロ攻撃等も含む。

[8] ミサイル発射装置(ミサイル・セル)
垂直ミサイル発射システムに使用される個別のミサイル発射装置を「ミサイル・
セル」という。ミサイルを甲板下に格納し発射する筒を指す。細胞を意味する「
セル」に由来。2発から数発を連続的に撃つことが可能。

[9]エアランド・バトル 空地戦闘
米軍が湾岸戦争で使用した戦術で、空と陸から戦力を投入して相手の最前線から
後方支援部隊や補給基地、司令部までを一気に制圧することを目指す。湾岸戦争
では実際に100時間で主要な戦闘を終わらせている。戦車部隊に対しては、ヘ
リや攻撃機による航空攻撃が有効とされてきたが、夜間や悪天候時には期待でき
ない。しかし地上戦闘部隊では相手の火力を圧倒できないなど双方の短所を補い
合い、戦場を面で制圧するために考案されたが、大規模な戦力を動員する必要が
あるため長い準備期間とコストが掛かる。もともとはイスラエル軍がアラブ連合
軍の優勢な機甲部隊に対抗するために考案し第四次中東戦争で使用した戦術を参
考にしている。

[10]  第一次湾岸戦争(1991年)
1990年8月2日にイラクがクウェートに侵攻した「湾岸危機」に対して国連
安保理が1991年1月15日までに撤退を要求したが従わなかったため、
1月17日から2月27日までの間に行われた米国が主力の多国籍軍による戦
闘を指す。大半は航空攻撃により行われ、地上戦は100時間余で終了した。こ
れに対しての「第二次湾岸戦争」は2003年に始まったイラク・フセイン政権
打倒を目指す米英国軍主導のイラク攻撃を指す。

[11] 「アイゼンハワー図書館でさらに詳しく話したい」
2010年5月8日、連合国の第二次世界大戦勝利の65周年にゲーツ長官がア
イゼンハワー図書館で演説を行った。

[12] 近年(10年ほど前)
(Potential Costs of Navy’s 2006 Shipbuilding Plan)
http://www.cbo.gov/ftpdocs/71xx/doc7105/03-30-Navy_ShipBuilding.pdf
(抜粋)
According to the Navy’s estimates, funding for new construction alone
would average $13.4 billion per year between 2007 and 2011, compared with
an annual average of $10.2 billion between 2000 and 2005.
抜粋の訳:海軍の見積もりによれば、(艦船の)新建造のみに必要な経費の年平
均は、2007年から2011年は134億ドル。それが2000年から200
5年では102億ドルであった。


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配信担当 古藤加奈
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