「テロ対策」の現実/古屋哲 RINK(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク)

2005-09-09 00:14:31 | 社会
以下のような文章を書きました。「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」の機関誌「Mネット」に掲載される予定です(ただし、字数超過なので、四分の一ほど削られそう)。公表するのは、ルール違反ですが、まあ、ゆるしてもらえるでしょう。なるべく多くの皆さんに、参考にしてほしいな、という筆者のエゴです。できれば、「Mネット」を購入、ないし講読してください。申込先はfmwj@jca.apc.org
http://www.jca.apc.org/migrant-net/

人種的プロファイリング、別件逮捕、誤認逮捕~「テロ対策」の現実

古屋哲 RINK(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク)

 「テロ対策」でいう「テロリスト」や「テロ容疑者」とは、テロ事件の犯人ではな
く、「テロ事件を起こすかもしれない者」である。「テロ対策」の本質は予防である
が、これはすなわち、こうした「おそれのある者」を特定し、拘束し、排除すること
である。
 では、「おそれのある者」を間違いなく特定できるのか。あらゆる立場のすべての
専門家は、ノーというだろう。それでも「テロ対策」を推進する人びとは、おこるか
もしれない事件による犠牲(計測不可能だが、大きいことだけは確かな)と、間違い
のためにおこる犠牲(ほとんどの場合、間違いかどうかさえ検証できないが、いずれ
にせよ当人にとっては確実に破滅的な)とを天秤にかけて、後者はとるに足りないこ
とであって、市民はこれを受容すべきだ、というのだろう(でなければ、後者は例外
的な過ちだったとして、今後の努力を誓う)。
 「テロ対策」の避けられない側面である人種的プロファイリングと、その結果であ
る別件逮捕や誤認逮捕の事例を、試みにいくつか挙げておく。それが深刻な人権侵害
であるからだけでなく、その報道や調査をつうじて、現実の「テロ対策」のすがたが
明らかになるからでもある。本格的な検討が望まれる。

1. 警察庁「テロ対策推進要綱」と別件逮捕

 2004年8月19日に警察庁が発表した「テロ対策推進要綱」は、「在日イスラムコミュ
ニティ」をハイリスク集団として名指しし、かれらに対する「不審動向に関する情報
収集、……伏在するテロ関連事案等の剔抉検挙を推進する」としている(剔抉(てっ
けつ)とは、えぐりだし、明るみに出すこと)。これは、イスラム教徒や「イスラム
諸国出身者」に対する差別的なプロファイリングであり、とくに「剔抉検挙」は情報
収集目的の別件逮捕を示唆していると疑われる。これに先立つ2003年9月にも、佐藤
警察庁長官が全国警備部長会議で、テロ関連の「剔抉検挙」を指示していた。
 2004年5月と6月、「アルカイダのメンバー」とされたアルジェリア系フランス人
(前年末にドイツで逮捕)の日本滞在時に接触したとして、バングラデシュ人など8
人が逮捕された。直接の容疑は入管法違反や会社登記の不実記載だった。しかし、7
月に検察が、容疑者とアルカイダとの関連は見いだされなかった、と異例の会見を行っ
た(2004年8月27日付『東京新聞』)。
 テロ対策関連の別件逮捕事例としては、他に、「9.11」の直後、10月に首都圏で難
民申請者をふくむアフガニスタン人とパキスタン人、ウズベキスタン人など30人近く
が警察あるいは入管に逮捕、収容された事件がある。表向きの容疑は入管法違反だっ
た。

2. 「不法滞在者」と別件逮捕

 以上の事件から分かるように?入管法違反(不法滞在)は、別件逮捕におあつらえ
むきの容疑として利用されている。そうした別件逮捕が大規模に行われた例として、
米国司法省検察庁が2002年に行った「逃亡者拘束計画」がある。これは、「アルカイ
ダの関係国」出身者で国外退去命令を受けたまま在米している「逃亡者」から、およ
そ6千人を抽出し、これを逮捕すると同時に、拘束中にテロ関連の尋問を行う計画で
あった。「計画実施要項」や関連計画である「対面調査プロジェクト」の監査文書が
インターネットから入手できる[*]。
http://news.findlaw.com/hdocs/docs/doj/abscndr012502mem.pdf
http://www.gao.gov/new.items/d03459.pdf

3. 「9.11」後の大量拘束

 「9.11」後のFBIが指揮した捜査(コードネーム「PENTTBOM」)により、一年間
に在米パキスタン人など1200人(司法省発表)が拘束された。人権侵害の批判が高まっ
たため、司法省監察局が調査を行い、報告書を発表している[*]。

http://www.usdoj.gov/oig/special/0306/full.pdf

4. NoFlyケース(ハヤット・ケース)

 今年5月、米国向け航空機に搭乗していたパキスタン系米人ハミド・ハヤット氏の
氏名が、(おそらく事前旅客情報システム APISによって)米国のブラックリスト
「NoFly」にヒットしたため、成田空港に強制着陸させられ、FBI担当官などの調
べを受けた。別人と判明した後、米国に帰国したが、6月に入ってカリフォルニアの
自宅で逮捕された。容疑は虚偽供述で、パキスタンで受けた武装訓練を隠したためと
される(各紙)。ブラックリストとの一致は誤認、後の逮捕は別件逮捕である。

5. 誤認逮捕(米国、メイフィールド・ケース)

 2004年3月のマドリッド連続列車爆破テロの犯人遺留品から指紋が検出され、この
指紋が米国FBIの統合指紋自動識別システム(IAFIS)と鑑識官の鑑定によって、
米国人ブランドン・メイフィールド氏の指紋と一致した。FBIは5月に同氏を逮捕
したが、14日後に誤認であったとして釈放した。同氏は弁護士で、改宗ムスリムであ
り、アルカイダ関係事件容疑者の弁護を担当したことがある。これらが鑑識官の判断
に影響したと疑われている。FBIは、事実関係と簡単な謝罪をふくむ報道発表を行っ
た[*]。

http://www.fbi.gov/pressrel/pressrel04/mayfield052404.htm

6. 誤認射殺(英国、シャルレス・デメネゼス・ケース)

 今年7月21日のロンドン同時多発テロの翌日に、ロンドン警視庁がブラジル人青年
を誤認し、射殺した事件。独立調査委員会が調査中(各紙)。

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satoru F.
satfry@m8.dion.ne.jp
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