福島原発事故 東電賠償、国指針守らず 制限区域から転居、即打ち切り エネ庁は容認

2014-02-23 10:53:05 | 社会
東日本大震災:福島第1原発事故 東電賠償、国指針守らず 制限区域から転居、即打ち切り エネ庁は容認
毎日新聞 2014年02月23日 東京朝刊
http://mainichi.jp/shimen/news/20140223ddm001040191000c.html

福島第1原発事故の被災者に対し、東京電力が立ち入り制限区域から転居した時点で賠償を打ち切る独自の基準を作成していることが、毎日新聞が入手した内部文書で分かった。国の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が定めた指針では、転居後も賠償を継続し「立ち入り制限の解除から約1年後」まで支払うとしており、基準はこれに反する。東電は一般には公表していないこの基準を経済産業省資源エネルギー庁に提出。エネ庁は内容を容認しており、不当な賠償額の減額に「お墨付き」を与えている実態が明らかになった。

 指針に反する基準の作成が発覚したのは初めて。毎日新聞の報道で、東電は少なくとも15人の社員に対し支払った賠償金を返還請求している実態が明らかになっているが、この基準を適用したためとみられる。

 内部文書は2012年12月作成の「本賠償の終期の考え方」。A4判3枚で、事故前の居住形態を(1)持ち家(2)借家(3)実家に同居--で3分類し、それぞれの精神的損害に対する賠償(1人当たり月10万円)の終了時期を示している。(1)の場合は国の指針通りだが、(2)と(3)は、転居した時点ですぐに賠償を打ち切る独自の基準になっている。

 エネ庁原子力損害対応室によると、東電は13年1月、この文書を同室に持参し内容を説明した。同室は毎日新聞の取材に「(基準は)避難生活を余儀なくされた期間の考え方を整理したもので、内容に納得している」と話す。一方、原賠審の委員の一人は「文書の存在は知らないし、東電から説明も受けていない。賠償を避難指示の解除前に打ち切ることや、居住形態で被災者を区別することは指針に反する」と批判した。

 東電はこれまで一般の被災者に関しては、社員に対するような賠償金の返還請求はしていない。しかし関係者によると、東電はエネ庁に対し「基準は社員だけを対象にしたものではない」と説明しているという。

 原賠審を所管する文部科学省原子力損害賠償対策室は「一般の被災者も(社員同様)後になってから返還を求められると、大変な騒ぎになる」と懸念を示した。

 東電広報部は基準について「公正かつ適切」と主張。そのうえで、「社員か否かで賠償の考え方を変えていない。事故前の居住実態や事故後の居住状況などを確認し、適切に対応している。(一般の被災者でも)事実関係に誤りがあれば精算(返還)をお願いする」と回答した。【高島博之、神足俊輔】

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 ■ことば

 ◇原発事故の賠償と指針

 専門家ら10人以内で構成される原子力損害賠償紛争審査会が、賠償範囲を定めた指針を策定する。福島第1原発事故では、7回にわたり指針が改定され、指針は避難に伴う損害を、精神的損害▽一時立ち入り費用▽避難費用▽営業損害--など8項目に分類し「合理的かつ相当な」金額を支払うなどと定める。東京電力の清水正孝社長(当時)は2011年5月、国会の参考人質疑で「指針に基づいて公正・迅速に対処する」と述べている。

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東日本大震災:福島第1原発事故 賠償打ち切り、東電独自基準 一般被災者「次は我々か」 二重生活の男性、懸念

東京電力が国の指針に反し早期に賠償を打ち切る独自の基準を作成していた問題。東電社員はこの基準を根拠に賠償を受けられず、返還請求も受けている。「次は我々の番か」。一般の被災者は不安を隠さない。一方、賠償問題を所管する文部科学省は問題視はするものの「文科省には電気事業者を指導する権限はない」と及び腰。直接の監督官庁である経済産業省資源エネルギー庁は基準を容認し、異常な状態が続いている。【高島博之、神足俊輔】

 2011年5月、福島県富岡町の帰還困難区域(年間積算放射線量50ミリシーベルト超)に指定された借家から、いわき市の借家に避難した自営業の男性(39)は、事故後に生まれた2歳の長女と一緒に暮らしたことがない。妊娠中だった妻(36)を埼玉県内の借家に移し、男性は仕事を続けるためにとどまったからだ。週末ごとに車で家族の元に通う二重生活で、2年前に購入した乗用車の走行距離は6万キロを超えた。「これを避難と言わないで、何だというのか」。男性は怒りを隠さない。家族3人で約2000万円を受け取った。しかし、東電の基準によれば、いわき市に転居した時点で避難終了とみなされ、ほぼ全額を返還請求される可能性がある。

 東電に原子力損害賠償支援機構を通じ国から既に貸し付けられたり、今後融資されたりする賠償資金は総額約4兆7888億円。男性は「東電は賠償総額を減らすため、様子を見ながら、我々のような一般の被災者にも基準を適用するのではないか」と危惧した。

 ◇不当減額、国は放置

 賠償金を不当に減額する東電の基準を、国は放置している。

 「居住形態で区別する発想は国の指針にはない。東電は指針を拡大解釈し過ぎている気がする」。文科省原子力損害賠償対策室の藤吉尚之次長は先月21日、記者の入手した内部文書を見ると、問題視する姿勢は示した。

 そこで記者が「省としてどう対応するのか」と尋ねると「東電の言い分を聞いておらず『けしからん』とか『だめだ』とか言いにくい」。取材から1カ月過ぎても、同室は調査に乗り出さない。

 一方、エネ庁の原子力損害対応室は昨年1月に東電から文書の提出を受け、説明も受けた。

 森本英雄室長は取材に対し「(個人的には)国の指針を逸脱しているとまでは思わない」と容認する姿勢を見せつつ、「是非は行政庁が判断すべき内容ではなく、最終的には裁判所が判断する」と述べ、エネ庁の指導すべき事柄ではないとの見解を示した。

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 ■解説

 ◇被災者支援置き去り

 東京電力が社員に賠償金返還請求を行う根拠が、内部で作成した非公表の基準にあったことが判明した。東電自らが一般被災者に適用する可能性を認めており、国はただちに東電の姿勢を改めさせるべきだ。

 問題の背景には、原発を国策として推進しながら、賠償責任は民間に負わせる「国策民営」の原子力政策がある。東電は民間企業であり、できるだけ賠償額を絞り込もうとするのはある意味当然だ。それを監視すべき国が、不適切な基準を容認すれば、最も大切にされるべき被災者救済が置き去りになってしまう。

 東電に賠償資金を「援助」するため、2011年に施行された原子力損害賠償支援機構法の付則では、賠償に関する国の責任を明確にするため「原子力損害賠償法の改正など必要な措置を講じる」とした。さらに、国会の付帯決議(11年8月2日)で、原賠法改正を1年後をめどに行うとしたが、「約束」を果たそうという動きはまったくない。

 政府は今夏にも原発再稼働を目指す。しかし、原発事故で安全神話が崩壊し、無事故を前提にした制度設計は許されない。

 原発を動かすなら、国が最終的な賠償責任を負うのか。議論抜きで前のめりになることは許されない。【高島博之】

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