学校の放射線許容量はなぜ迷走しているのか /坪井賢一 [ダイヤモンド社取締役]

2011-05-09 16:57:14 | 社会
福島原発震災 チェルノブイリの教訓(6)
学校の放射線許容量はなぜ迷走しているのか /DIAMOND ONLINE

文部科学省は4月19日に、福島県の小中学校や幼稚園などの校庭を利用する際の暫定的な放射線許容量を発表した。この文書の数値的根拠は、原子力安全委員会に助言を求めた原子力災害対策本部が書き、それを文部科学省へ送って同省が公表したものである。つまり政府の意思決定である。

 それによると、屋外活動時間などの前提をいくつか設定した上で、放射線許容量を年間20ミリシーベルトとした。

 この数値をめぐって4月末の1週間で混乱が起きた。一般公衆の被曝限度量は年間1ミリシーベルトだから、一挙に20倍引き上げたことになるからである。

 子どもの許容量を20ミリシーベルトとすることに対して、原子力安全委員会の委員の一人が「子どもは半分の10ミリシーベルトが望ましい」と発言した(後に撤回)。

 また、内閣府参与の専門家が「子どもは1ミリシーベルトのままにしておくべきで、20ミリシーベルトは高すぎて許せない」と記者会見で語り、参与を辞任した。さらに、米国の医師団体が「20ミリシーベルトは高すぎる」として反対の声明を発表している。

「20ミリシーベルトは妥当」「いや、高すぎる」と、政府内部や専門家の間で意見が分かれたことがわかる。市民が混乱するのは当然のことだ。どうして専門家の意見が分かれるのだろうか。

 まず4月19日付の文科省が発表した文書を抜粋しておこう。

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福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方

平成23年4月19日
原子力災害対策本部

 国際放射線防護委員会(ICRP)のPublication109(緊急被ばくの状況における公衆の防護のための助言)によれば、事故継続時等の緊急時の状況における基準である20-100ミリシーベルト/年を適用する地域と、事故収束後の基準である1-20ミリシーベルト/年を適用する地域の並存を認めている。また、ICRPは、2007年勧告を踏まえ、本年3月21日に改めて「今回のような非常事態が収束した後の一般公衆における参考レベルとして、1-20ミリシーベルト/年の範囲で考えることも可能」とする内容の声明を出している。

 このようなことから、児童生徒等が学校等に通える地域においては、非常事態収束後の参考レベルの1-20ミリシーベルト/年を学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な目安とし、今後できる限り、児童生徒等の受ける線量を減らしていくことが適切であると考えられる。

(中略)また、16時間の屋内(木造)、8時間の屋外活動の生活パターンを想定すると、20ミリシーベルト/年に到達する空間線量率は、屋外3.8マイクロシーベルト/時間、屋内木造1.52マイクロシーベルト/時間である。(後略)
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 ICRPの「2007年勧告」を元にして今回の措置を案出したことがわかる。1-20ミリシーベルトの幅が初めて出てきたわけだ。


 放射線被曝による細胞や遺伝子への影響は、第2次大戦後から年々研究が進み、その危険性が科学的に明らかにされてきた歴史がある。

 ICRPの前身は1920年代から活動している科学者の任意団体だが、1950年に現在の名称となり、放射線許容量を発表してきた。各国はICRPの放射線許容量の数値を根拠にして国内法へ適用してきた。

 ICRPの放射線許容量は1950年から何度か改定され、毎回厳しくしてきた。1950年の年間許容量は150ミリシーベルトほどだった。もっとも、放射線技術者や原発作業者用の基準であり、一般公衆の基準ではないが。

 南太平洋などで核実験が頻繁に行われていた時代だ。筆者が小学生のころ(1960年代)、「放射能の雨に注意しましょう」と教室で先生によく言われたものである。フランスだけで南太平洋の核実験は200回くらい行なわれていた。

 ICRPは1960年に一般公衆の許容量を年間5ミリシーベルト程度とした。この基準が長く続いたが、チェルノブイリ原発事故(1986年)を受けて、1988-90年に改定された一般公衆の年間許容量は1ミリシーベルトまで下げている。この基準が現在も続いている。

 ICRPは2007年に大きく改定した。基準を変更したのではなく、原発の重大事故や核攻撃を受けた場合の緊急事態を想定した数値を発表したのである。

 この「ICRP2007年勧告」については、じつは日本の国内法にはまだ適用されていない。2010年1月に文部科学省の放射線審議会基本部会が「ICRP2007年勧告」の「国内制度等への取入れに係る審議状況について」という「中間報告」を出しただけである。

 日本国内で「ICRP2007年勧告」が制度化されていないので、専門家の意見の相違があらわになってしまい、国民が混乱するわけだ。

私たちも「ICRP2007年勧告」をよく知っておく必要がある。邦訳版が出版されており(★注①)、図書館で閲覧が可能だ。「1990年勧告」に比べ、被曝対象者の分類などが詳細を極めていること、事故や核戦争を想定した緊急事態時の対応が記されていることなどから、読解が非常に難しくなっているので、本稿では放射線審議会の中間報告でまとめられている要点を2点だけ紹介しておく(★注②)。

「ICRP2007年勧告」のポイント
◆放射線防護の生物学的側面

・ 確定的影響(有害な組織反応)の誘発――吸収線量が100ミリグレイ(グレイはシーベルトとほぼ同じ)の線領域までは臨床的に意味のある機能障害を示すとは判断されない。

・ 確率的影響の誘発(がんのリスク)――LNT(直線しきい値なし)モデルを維持

 100ミリシーベルト以上の被曝で確定的影響が出るということだ。確定的影響とは、脱毛、白血球の減少、白内障などの明らかな病変である。100ミリシーベルト以下だと特定の機能障害は見られないという。

 一方、放射線が遺伝子を損傷してがんを誘発する確率的影響は、閾値(しきいち)はないとするLNTモデルを想定している(★注③)。つまり、がんが発現するリスクは、放射線被曝のゼロから線量率に比例して直線的に上昇する考え方だ。すなわち、可能な限り被曝を避けるべき、ということである。

◆ 線源関連の線量拘束値と参考レベルの選択に影響を与える因子

・ 1ミリシーベルト以下――計画被ばく状況に適用され、被ばくした個人に直接的な利益はないが、社会にとって利益があるかもしれない状況(計画被ばく状況の公衆被ばく)

・ 1-20ミリシーベルト以下――個人が直接、利益を受ける状況に適用(計画被ばく状況の職業被ばく、異常に高い自然バックグラウンド放射線及び事故後の復旧段階の被ばくを含む)

・ 20-100ミリシーベルト以下――被ばく低減に係る対策が崩壊している状況に適用(緊急事態における被ばく低減のための対策)

「計画被曝」とは、作業者のことである。したがって、この項目を公衆レベルで読むときは、太字にした「事故後の復旧段階」と「緊急事態」だけが適用される。福島県内の学校の許容量20ミリシーベルト/年とは、「ICRP2007年勧告」の「事故後の復旧段階」の上限、「緊急事態」の下限であることがわかる。

 しかし、緊急事態とは、チェルノブイリで1週間から1か月だったはずで、福島のように東電の工程表ベースで3か月から6か月のような長期緊急事態はだれも想定していないだろう。6か月で済むのかどうかさえ、まだわからないのである。

 また、緊急事態の線量限界を引き上げる措置は短期的には正しいが、がん誘発の確率的影響を抑えるためには、可能な限り緊急時対応の期間を短くし、子どもの被曝許容量を1ミリシーベルト以下へ下げることが政府の義務である。

 20ミリシーベルトを復旧段階の上限と考えると、現状のような事態が相当長期化すると思われる。その上限値に園児、児童、生徒を何か月も置いておけない。政府は夏休みに再検討するという。できれば3か月後の6月末には学童疎開まで含めた次の対策を打つ必要があろう。もちろん改善すれば状況は変わるが、現状ではなんとも見通しが立たない。対策だけは考えておいたほうがいい。

 郡山市や福島市が校庭の除染(表土を削りだす)作業を始めたのは正しい判断だと思うが、これは東電と政府がやるべきことではないか。削りだした土の搬出先など、市や県の地理的条件を越えて、東電と政府が探すべきである。

 チェルノブイリ原発事故の際、ソ連政府の対応は遅れに遅れ、牧草から牛乳にヨウ素131が混入して子どもの被害者を増やしたが、軍による学校の除染作業は早い段階から行われていた。

 なぜならば、事故の1986年、一般公衆の放射線許容量はICRP1960年基準の5ミリシーベルト/年だったからである。5ミリシーベルトを超えれば除染し、あるいは移住させていた。

「ICRP2007年勧告」で緊急事態の許容量のバンド(幅)が設定されたため、専門家によってバンドのどこを取るかで意見が割れることになったのである。現在の政府の対策は、安全側ではなく、リスクの大きいポジションを取っているように思える。

<注①~③>

★ 注①『国際放射線防護委員会の2007年勧告』(日本アイソトープ協会訳刊、2009)
★ 注② 放射線審議会の中間報告
★ 注③ LNTモデル(しきい値なし)についても、これを認めないアンチICRPの専門家がいて、市民の理解が混乱する要因となっている。つまり、低線量ならばたいしたことはないとする専門家と、低線量でもガン誘発のリスクはあるとする専門家の対立である。

http://diamond.jp/articles/-/12159


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> 原発廃止について
> -------------------
>  従来の推進はすでに困難。原発以後は明確な方針のもとにプラン化して縮小
> 廃止していく必要がある。
>
> 政策の転換
> ----------
> 谷垣氏「原発推進は困難」 党方針転換も
> http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201103170163.html
>
> 原発政策の転換検討/枝野氏が谷垣発言に同調
> http://www.shikoku-np.co.jp/national/main/article.aspx?id=20110318000268
> ドイツ
> http://ioj-japan.sakura.ne.jp/xoops/download/germany.pdf
>
> 現在の状況
> -------------
> エネルギー白書2010
> http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2010energyhtml/index.html

> 第1部 第2章 第4節 再生可能エネルギーの導入拡大に向けた新たな政策展開
> 再生可能エネルギーの導入はいきなり原子力を代替するものではなく、蓄電技
> 術やスマートグリッドとセットでピーク電力からという点が図入りでわかりや
> すく説明されている。
>
> 第2部 第2章 第3節 二次エネルギーの動向 ヨーロッパ内で電力を融通しあっ
> ていることなど。例えば、原子力大国のフランスは、原子力発電をあまり行っ
> ていない国へ電力を輸出している。時差によりピーク電力が分散される効果も
> あります。
>
> 電力系統利用に関する技術資料
> http://www.escj.or.jp/news/2006/061020_gijyutsu.pdf
>
> 具体的プラン
> ----------------
> 飯田哲也 環境エネルギー政策研究所所長
> http://www.youtube.com/watch?v=e8Oefssx0_4
>
> 3.11 後のエネルギー戦略ペーパー環境エネルギー政策研究所(ISEP)
> No.1 Ver.1 2011 年4 月4 日(Ver.0 3 月23 日)
> http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201104130114.html
> 「無計画停電」から「戦略的エネルギーシフト」へ
>
> 2011 年3 月11 日に発生した東北関東大地震とそれに続く巨大津波によって東
> 日本は深刻な需給ギャップが生まれたため、「計画停電」が始まったが、十分
> に計画されず、混乱を極めている。そこで、環境エネルギー政策研究所(ISEP)
> では、関東圏の供給力や過去の需要量を含めた検証を行い、公共政策として行
> うべき、短期・中長期的な施策をここに提言する。
>
> 【要旨】
> 【短期的な電力需給】
> 今春から夏の需要ピーク時(1 日最大電力予想=発電端で5,755 万kW)にか
> けて、とくに需要側への適切な措置ー特に大口需要家との需給調整契約の戦
> 略的活用ーを行えば、短期的にも無計画な「計画停電」を実施しなくても、
> 十分に対応可能であることが明らかになった。
>
> 具体的には、福島第一原発と第二原発はもとより、柏崎刈羽原発を全機停止し
> たとしても、最大で270 万kW の供給不足に対して、以下の措置により1100 万
> kW 以上の需要引下げ効果が期待できるものと考える。
>
> 家庭ー50kW 未満は、一律、契約電力(アンペア数)を2割引き下げて250 万k
> W の引き下げ効果
>
> 50kWー500kW は、ピーク料金を設けることで200 万kW 程度の引き下げ効果
>
> 500kWー2000kW は、ピーク料金から開始し、順次、需給調整契約に移行して15
> 0 万kW 程度
>
> 2000kW 超は、原則として政府あっせんによる需給調整契約によって500 万kW
> 程度
>
> 【中長期的なエネルギーシフト】
> -------------------------------
> 地域分散型の自然エネルギーを中心とするエネルギー政策に転換すれば、短期
> 的には震災復興経済の柱となるだけでなく、中長期的には自然エネルギーを20
> 20 年に電力の20%増の30%、2050 年には100%を目指し、電力安定供給・エネル
> ギー自給・温暖化対策の柱とする大胆かつ戦略的なエネルギーシフトを目指す
> ことを提言する。
> 具体的には、2020 年を目途に、自然エネルギー30%を目指す。
> 現状の「我慢の節電」から「利便性を損なわない節電」を2020 年までに20%
> 自然エネルギー電力を現状の約10%から30%に拡大
> 原子力は自然減と震災損傷を考慮して約10%もしくは2020 年までに全廃
> 石油・石炭は優先して削減することで約10ー15%、天然ガスは変動吸収の主役
> として約25ー30%
> さらに2050 年を目途に、自然エネルギー100%(現状比で節電50%、自然エネル
> ギー50%)を目指す
>
> 2.3 供給分析のまとめ表2.6 に今回の分析の結果をまとめる。
> 同表に示した火力回復の3シナリオの最低と見込んだ、福島・茨城の火力発電
> 所全停止で横須賀火力の復帰も間に合わないケースでも、4-6 月の最大需要(こ
> の4 年間では最大値である2010 年6 月実績)を賄えるまでに回復する。
>
> 7ー9 月のピークへの対応は需要側とりわけ大口需要への省エネ対応を行わな
> ければならない。他社受電の一部と鹿島火力と横須賀火力の一部が回復するケー
> ス2、残りの横須賀火力も回復するケース3 では揚水発電も含めれば需給ギャ
> ップはほぼ解消する。また、仮に揚水を見込まなくても次に示すように夏の業
> 務電力を中心とする省エネとピークカットにより削減する展望がある。
>
> 河野太郎×飯田哲也トークライブ
> http://ameblo.jp/energyshift/entry-10866257648.html
>
> 緊急会議 飯田哲也×小林武史 (1) 「エネルギーの世代交代」
> http://www.eco-reso.jp/feature/love_checkenergy/20110407_5007.php
> 2011年4月5日
> 環境エネルギー政策研究所所長 飯田哲也  10階ホール
> http://www.jnpc.or.jp/activities/news/report/2011/04/r00022449/
> 3.11後の原子力・エネルギー政策の方向性
> 飯田哲也・環境エネルギー政策研究所所長
> http://smc-japan.org/?p=1657
>
> 環境エネルギー政策研究所所長
> 「原子力からシフトを」 自然エネルギー、50年までに100%に
> http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201104130114.html
>
> 京都大学原子炉実験所 小出裕章氏に聞く
> http://www.ustream.tv/recorded/13897618
>
> 原発は、本当に全廃できるのか。それはいつか。
> http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20110420/267619/
>
> 新エネルギー発電方法まとめ原発の代替は可能
> http://matome.naver.jp/odai/2130182158168007801
>
> 東京電力の計画停電を考える
> http://ameblo.jp/kazue-fujiwara/entry-10835236187.html
> 揚水式発電所の役割について易しく説明されています。
>
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> ドイツの原発全廃政策と温暖化ガス削減は両立するか2001年6月19日
> http://wiredvision.jp/archives/200106/2001061904.html
>
> 欧州の現状
> http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/2009-029/jbic_RRJ_2009029.pdf
>
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> 本田忠
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