自称文科系の人のための放射能の話/市民社会フォーラムML から

2011-04-07 23:26:59 | 社会
自称文科系の人のための放射能の話
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被曝量を計算してみよう
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自称文科系の人のための放射能の話
自称理科系の人にとっての常識が、自称文科系の人にとってはちんぷんかんぷんである場合があるらしい(逆もまた然り)。

いま(2011年3月)、原発事故関連の情報がいろいろ出てくるけれど、この種の「常識」を持たない人は、こういう情報を活用できないんだ。そうすると、自称理科系の人と自称文科系の人との間に、情報格差が生じる。ここでは、その格差をちょっと縮めるお手伝いを試みるよ。

ベクレル、グレイ、シーベルト
ベクレル
1ベクレル (Bq) は「1秒あたりに1個の原子核が崩壊する(個/秒)」という放射能の量だ。1秒あたりに10個の原子核が崩壊する物質は10ベクレル。放射性物質の原子の数が多ければ多いほど、ベクレルは大きい値になる。放射能の濃さを比べるときは、1キログラムあたりの物質について(ベクレル/kg)とか、1リットルあたりの水について(ベクレル/L)とか、調べる対象の量を決めて比べる。これがニュースで出てくる量だ。
この文の意味が分からない人は、以下の説明を読んでね。

原子核が崩壊するってどういうことかな?
放射性物質の原子核は、崩壊して別の物質の原子核になろうとする性質がある。原子核1個が崩壊するときに、放射線が1回出る。このときに出る放射線の種類は、崩壊の仕方によって違い、崩壊の仕方は、放射性物質の種類によって違う。

たとえば、ヨウ素131は、まず「β-崩壊(べーたまいなすほうかい)」という崩壊の仕方をする。β-崩壊では、電子(でんし)1個と反電子ニュートリノ1個が飛び出す。この飛び出してくる電子はβ線(べーたせん)の一種だ。これが引き続き「γ崩壊(がんまほうかい)」という崩壊の仕方をして、高エネルギーの光子(こうし)1個が飛び出す。この飛び出してくる光子がγ線(がんません)だ。γ線は、目に見える光と同じ光子の流れだけれど、γ線の波長は目に見える光の波長に比べてとても短い。光子の波長が短いということは、エネルギーが高いということだ。ヨウ素131はこの2通りの崩壊を経由して、最終的に、キセノン131という安定した物質に変わる。

また、プルトニウム239は「α崩壊(あるふぁほうかい)」という崩壊の仕方をして、ウラン235(これもまた放射性物質)に変わる。1回のα崩壊で、α粒子(あるふぁりゅうし)1個が飛び出す。この飛び出してくるα粒子がα線(あるふぁせん)だ。α粒子1個というのは、陽子2個と中性子2個のかたまりでできていて、ヘリウム4の原子核と同じだ。だがα線は、それが高速で飛んでいるような放射線だ。また、α崩壊の直後に引き続いてγ崩壊し、光子1個(γ線)が飛び出す。

1個の原子核が崩壊すると、それは別の物質の原子核に変わる。このため、元の原子核の数も元の原子の数も減っていく。だから同一の物体のベクレルの値は、時間の経過とともに減っていく。そもそも、このような崩壊のしやすさは、物質の原子核の種類によって違う。

崩壊のしやすさを比べるためには、「半減期」という時間を使う。今、同じ物質の原子が何個もあるとしよう。放射性物質の原子は、時間の経過とともにそれぞれ崩壊して別の物質の原子に変わるので、やがて元の放射性物質の原子の個数が半分になる時がやってくる。今からその時までの時間が半減期。原子崩壊しやすい物質の半減期は短い。原子崩壊しにくい物質の半減期は長い。主な物質の半減期は『理科年表』という本の「原子、原子核、素粒子」の項目の「おもな放射性核種(放射性同位体)」という表に載っているよ。

半減期の短い物質が集まった物体のベクレルを測ると、初めのうちは高い数値になるけど、原子崩壊してどんどん別の物質に変わってしまうので、時間とともにベクレルの数値が急速に下がっていく。逆に、半減期の長い物質が集まった物体のベクレルの数値は、時間が経過しても目に見えて大きな変化はなく、いつまでも同じくらいの量の放射線を出し続ける。

ウランやプルトニウムのような重い原子に中性子が当たると、α崩壊する代わりに、核分裂して2個以上の別の原子に変わることもある(いま話題のヨウ素131やセシウム137などはこうしてできた)。このとき、中性子が何個か飛び出し、γ線も出る。飛び出してくる中性子は、エネルギーが高いので放射線の一種で、これは中性子線と呼ばれる。この中性子線がほかの核分裂しやすい原子核に当たると、その原子核も核分裂することがある。そうするとそこからまた中性子線が出る。だから、核分裂しやすい性質を持った原子が濃く集まっていると、次々に原子核が分裂して、止まらなくなる。この状態が臨界状態。

放射能って何だろう?
日本語で放射能っていうのは、放射線を出す性質のこと。中国語では「能」と言えば「エネルギー」という意味だから、放射線を出す "性質" のことを「放射 "能"」とは言わず、「放射 "性"」と言う(もちろん中国人でも間違った意味で「放射能」という単語を使う人はいるかもしれない)。英語では radioactivity という。ここに、 -ity という「性質を表す語尾」が付いていることから考えても、「放射能」という日本語訳は、あんまり適切な訳ではなかったかもしれないね。「放射線を出す性質」のことを「放射 "能"」と呼ぶのは、日本独特の言い回しだろう。すっかり定着してしまったから、これを使うしかない。だから「放射線を出す性質」(放射能)を持った物質のことを、時には放射能と呼んだり、あるいは放射性物質と呼んだりすることもあるわけだ。

グレイ
放射線は、物質に当たるとその物質の原子を電離(イオン化)させる作用がある。原子を電離させるとき、放射線のエネルギーがその原子に吸収される。このとき、1kgあたりの物質に1ジュールのエネルギーを与える放射線の吸収線量(ジュール/kg)が1グレイ (Gy)。
電離って?
原子はプラスの電荷を持つ原子核と、そのまわりにあるマイナスの電荷を持ついくつかの電子から成っている。その電子を、原子核のそばから引き離す作用が電離作用だ。

α線は電離作用が強い。つまり、α線が物質に当たると、そのエネルギーが吸収されやすい。逆に言えば、物質に当たると自分のエネルギーがすぐに弱くなって止まってしまう。だから、α線は薄い紙でもさえぎることができる。

β線は、α線より電離作用が弱いので、物質に当たってもα線よりは止まりにくい。β線は厚さ1ミリ程度のアルミの板や、厚さ1センチ程度のプラスチックの板などでさえぎることができる。

γ線は、さらに電離作用が弱い。γ線は厚さ数センチの鉛の板などでさえぎることができる。

中性子線は、水素などの軽い原子の原子核にぶつかると、ぶつかられた相手の原子核は走り出して、それが電離作用を発生する。また中性子線は、重い原子の原子核を走らせる作用は弱いけれど、重い原子核に吸収された直後にγ線を出す作用がある。このγ線には電離作用がある。逆に中性子線は、水素などの軽い原子の原子核にぶつかると自分のエネルギーを失いやすいから、水槽などで中性子線をさえぎることができる。

シーベルト
放射線が生物に与える作用の大きさは、放射線の種類によって違う。この違いを加味した放射線の量(ジュール/kg)は等価線量と呼ばれ、シーベルト (Sv) という単位が付く。グレイから等価線量を計算するには、放射線の種類別に重みを決めてグレイの値に掛け、それらの合計を出す。重みの具体的な数値は国際放射線防護委員会 (ICRP) が決めている。例えば、α線なら×20、β線やγ線なら×1(つまりグレイと同じ値)、中性子線ならエネルギーの大きさによって異なり、最大で×20。ニュースで「空間線量率」として出てくる値(シーベルト/時)は、1時間あたりの等価線量だ。
シーベルトという単位が使われる量はもう一つあって、それは実効線量と呼ばれる。癌や遺伝病をもたらすリスクは、生物種によっても、放射線を受ける体の臓器の種類によっても違う。この違いを加味した放射線の量(ジュール/kg)が実効線量だ。実効線量は、人体を×1として、生物種別や臓器別に決められた重みを等価線量に掛けた数値をとる。実効線量については何もニュースが出ていないようだけど、今後、放射性物質の生物濃縮(食物連鎖)や内部被曝が問題になってくれば、必要になる数値かもしれない。
外部被曝の実効線量(シーベルト)は、人体全体については等価線量と同じだ。医療放射線などで特定の組織に被曝する場合は、等価線量に、組織の種類によって違う重みを掛けて得られる数値が実効線量となる。


内部被曝の実効線量(シーベルト)は、食事や呼吸で体に入る放射能の量(ベクレル)から計算できる。まず、物質の中の放射能の濃さ(ベクレル/kg、ベクレル/Lなど)を、その物質の摂取量に掛ければ、摂取した放射能の量(ベクレル)がわかる。この量は「1秒間に何個の放射線を体内から浴びることになるか」を表している。放射性物質の種類がわかれば、その崩壊の種類と半減期を『理科年表』などで調べて、その物質が体内にとどまっている間に受ける放射線の総量が計算できる。放射性物質の化学的状態とその性質がわかれば、その物質が排泄されるのか蓄積されるのかがわかる。


実はすでにいろんな放射性物質について、こういう計算が済まされている。その計算を元に、ベクレルの値がわかっているときに体全体の実効線量を簡単に計算するための「実効線量換算係数(シーベルト/ベクレル)」がすでに求められている。実効線量換算係数は、放射性物質の種類・放射性物質の化学的形態(化合物かどうか)・摂取する人の年齢・空気と一緒に吸い込むか・食べたり飲んだりするかといった、条件によって違ってくる。条件ごとに分類した実効線量換算係数の表を、国際放射線防護委員会 (ICRP) が公表している。もし摂取したか、摂取する可能性のある放射性物質のベクレルの値が分かったら、説明を読んで、自分や家族の内部被曝量を計算してみてね。

必要な情報は何?
近いか遠いか
原発事故現場に近い人
原発事故現場で働いている人や、原発周辺に住んでいた/いる人たちが緊急に知りたいことは2つある。一つは、今現在受けている放射線が強すぎないかどうか。もう一つは、事故以来受け続けてきた放射線の総量が多すぎないかどうか。今現在受けている放射線の強さは、1時間あたりの等価線量(シーベルト/時)でわかる。事故以来受け続けてきた放射線の総量は、各時間の等価線量(シーベルト/時)を、全部の時間について合計すればわかる。

だけど、事故発生以来、こういう必要な情報がすぐに入手できただろうか?文部科学省が原発から20km以上30km以内の地域の空間線量率を公表し出したのは、事故から4日後の3月15日だった。地元の人たちは、必要なデータを4日間入手できなかったんだ。さらに、現場で働く人がやけどをするほどの被曝をしたとか、自分の被曝を測る機器が足りないとかいうニュースもある。地震と津波は天災だけど、データ不足で受けた被害は人災だ。

原発事故現場から遠い人
原発事故現場から遠いところでは、空間線量率(毎時のシーベルト、Sv/h)の増加は微量だから、直ちに危険があるわけではない。だけど、放射性物質の中には、空気や水の流れに乗って遠くまで移動できるものがある。

前節までの話は、核物理学の分野に関係するけれど、どの種類の放射性物質がどんな化合物になるか、どういう状態で存在するか、何に溶けるかなどの話になると、化学の分野に関係してくる。

さらに、空気や水で運ばれる放射性物質がどのように移動するかを知るのに必要な分野は、気象学だ。ただし、天気予報が外れることもあることから想像がつくと思うけど、空気や水の流れを正確に予測するのは難しい。空気や水の流れの予測には流体力学理論とカオス理論が適用されるんだけど、長期予測の計算はカオス理論に従う。だから最初に入力される値がほんの少し違うだけで、大幅に違う結果(カオス現象)が見られるんだ。

放射性物質の化学的形態によっては、生き物の体に取り込まれることもあるし、その生き物が移動すれば、放射性物質も移動する。さらに食物連鎖で生物濃縮される可能性もある。こういうことを正確に知るためには、生化学や生態学の知識が必要になる。

そして、放射性物質が呼吸や食事を通して人体に入った場合、内部被曝の恐れが出てくる。弱い放射線でも長期間浴び続けると癌や遺伝病をもたらすリスクがあり、この問題について知るには医学の知識が必要になる。しかし、どの程度の放射線でどの程度のリスクがあるかについては、研究者の間でも統一した見解が得られていないようだ。「どんなに微量でも癌や遺伝病をもたらすリスクがある」という考えや、「一定の量を越えなければリスクは無い」という考え、なかには「微量なら体に良い(ホルミシス仮説)」という考えさえあり、どの考えについても決定的に否定したり肯定したりできるような実験的な裏付けは得られていない。

こういった難しさもあるんだけれど、とりあえず必要なデータは、食べ物や水の中の放射能の濃さ(ベクレル/kg)と放射性物質の種類、そして、放射性物質の化学的状態とその性質だ。このデータがあれば、実効線量換算係数を使って、内部被曝の可能性を予測できる。

だけど、今そういうデータが十分に報道されているだろうか?関東の水については、ある程度報道された。でも、それ以外のものについては、とても十分に報道されているようには見えない。データは各地で公開されているのだから、自分で調べられる。例えば科学者が整理している公開データのページでデータをチェックすることができる。公開されたデータが全部報道されるわけじゃない。もちろん、必要なのに公開されていないデータはいろいろあるけれど、すでに公開されているデータくらいは自分でチェックすると良い。せっかく公開されているデータをチェックしない人が多ければ、農産物や水産物の風評被害にもつながるだろう。

自称文科系と自称理科系
以上の知識は、自称理科系の人にとっては常識なんだけど、話の中で触れたように、問題は核物理学の分野だけにとどまらず、化学・気象学・生化学・生態学・医学といった、多くの分野に関係してくる。自称理科系の人だって、自分の専門外のことについては、ここに書いた程度の知識しか無いんだ。自称理科系の人のなかには、自称文科系の人の無知を嗤う人もいるかもしれないけど、それは目くそが鼻くそを嗤うようなものだ。理科か文科かに関わらず、今、御用学者にも無用学者にも騙されずに、理性的に行動するためには、だれかの意見を「信じる」ことではなくて、生データから自分で判断することだ。
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