日米安保改定から半世紀・水島 朝穂/平和憲法のメッセージ=今週の直言

2010-06-24 11:37:25 | 社会
 水曜日(23日)は日米安保条約改定50周年である。50年前のこの日、「新安
保条約」が発効した。鳩山内閣が総辞職しなければ、普天間問題が焦点となったまま、
この日を迎えることになっただろう。2日に鳩山由紀夫首相が辞意を表明し、4日に
菅直人新首相が誕生した。だが、菅内閣の発足は4日後の6月8日になった。新聞各
紙は、在任262日で、細川内閣263日よりも1日短い、「史上5番目」の短命内
閣と報道した。だが、なぜか内閣発足は4日後の8日となった。

その間、鳩山内閣は憲法71条の「職務執行内閣」として存在し、その結果、在任日
数は266日となって、「史上6番目」の内閣になった。細川内閣も羽田内閣も、と
もに多党連立政権で閣僚選びに時間がかかったが、それでも職務執行内閣の期間は3
日だった。天皇の静養日程との関係や、小沢一郎氏との関係などいろいろ言われてい
るが、なぜ発足まで4日もかかったのか。 1日違いで細川内閣より短命になるのを
避けるための、在任期間の辻褄合わせではあるまい。

 先週の16日(水曜日)、第174国会が閉会した。法案の成立率は55.6%で、
42年前の佐藤内閣時の55.8%よりも低い。閣法(内閣提出法案)が成立しない
というのも異常である。大学紛争などで混乱した42年前と異なり、いまは何もない
「平時」である。にもかかわらず、この法案成立率の低さはどうしたことか。メディ
アはその異常さをあまり報道してこなかったが、国会運営がいかにひどいことになっ
ていたかの証左である。

 ところで、いま、公約やマニフェストは破るためにあると言わんばかりに、総選挙
前のマニフェストは換骨奪胎されている。「次の総選挙までは消費税は値上げしない」
と言っていたのに、 参院選挙前の段階で、「10%」という数字まで具体的に挙げ
て消費税値上げが語られはじめた。何でもあり、である。普天間問題やいわゆる「日
米同盟」についても、マニフェストは修正されている。まるで総選挙前のそれが別の
政党のもののように感じられるほどに、その書き換えは劇的である。とりわけ安全保
障問題では、曖昧とはいえ「東アジア共同体」が語られ、「日米同盟」の微妙な相対
化が感じられた鳩山内閣とは異なり、菅内閣と自民党政権との違いはほとんどなくな
った。

菅首相の所信表明演説では、「日米同盟は、日本の防衛のみならず、アジア・太平洋
の安定と繁栄を支える 国際的な共有財産と言えます。今後も同盟関係を着実に深化
させます」と述べられていて、「国際公共財」とまで言い切った防衛大臣政務官の某
と大差はない。

 政権交代からわずか9カ月。腰が座らず迷走したとは言え、理想や理念に思いを寄
せようとした鳩山首相に比べれば、菅首相の「現実主義」はより米国に密着する方向
に舵を切ったと見ていいだろう。

 さて、安保改定50年について、ここで新たに書く時間的余裕はない。そこで、
『世界』(岩波書店)6月号特集「日米安保を根底から考え直す」の巻頭インタビュ
ーを、編集長の許可を得て転載することにしたい。

 この論稿は、『毎日新聞』「論壇をよむ」(中西寛・京大教授)で紹介された
(『毎日新聞』2010年5月27日付)。見出しは「左右の同盟否定論を越え」。
中西氏は「日本人の中には、日米同盟を日本の利益と見なす『政府の論理』と、日本
の従属と見なす『民衆の論理』が分裂して存在している」と見立て、佐伯啓思・京大
教授の『正論』6月号論文と『世界』6月号の拙稿とを、「一見正反対の立場から、
『民衆の論理』による日米同盟批判を展開する」と特徴づけている。

 中西氏はまず、佐伯氏の議論をこう要約する。「日本の伝統的、歴史的価値を尊重
するという『保守』の立場で、徹底した進歩主義、近代主義を標榜するアメリカ的価
値と、日本の伝統的な自然観、歴史観は大きく相違すると説く。日米同盟が日本の安
全に役立っているのは確かだが、アメリカ的価値が無批判に受容されている現状は問
題であり、いつか日本の価値に基づいた自主憲法を制定し、アメリカ的価値に反対せ
ねばならないとする」と。

他方、拙稿については、「護憲論の立場から日米同盟の異常さを主張する。これまで
の日本政府は対等の主権国家としてなすべき交渉をせず、アメリカの意向を過剰に忖
度し、また迎合して不平等な同盟関係を続けてきた。憲法がかろうじて歯止めとなっ
てきたが、今回の普天間問題は日米同盟を当然視して停止していた日本人の思考を揺
さぶる効果をもった。これを機に日米同盟を解消する方向に向かい、敵をもたない地
域的安全保障体制の構築に向かうべきだ、と主張する」とまとめる。

 そして中西氏は2つの議論をこう総括する。「両者の主張は改憲と護憲や日本への
脅威の存在に対する認識を除けば、かなり似通っている。しかし自主憲法を制定しな
いのも、アメリカの意向を『忖度』する政府を半世紀以上選び続けてきたのも日本人
であり、今の日米同盟のあり方は日本人の主体的な選択の結果ではないだろうか。問
題は、国家安全保障の問題を政府の仕事と見なし傍観者的態度をとり、基地や思いや
り費用の負担といった問題には敏感に反応する日本人のありようではないだろうか。
この点を改め、日本人自身が日米同盟のメリットとデメリットを直視することはでき
ないか」と。

「左右の同盟否定論を越え」という見出しは、毎日の論壇担当記者か整理デスクのも
のだろう。中西氏は、「日本人」という言葉を多用しながら、現在の「日米同盟」は
その「主体的な選択の結果」であるという。だが、50年前、安保条約は衆議院で強
行採決され、多数の「密約」によって国民の目から覆い隠され、嘘で塗り固められて
維持されてきたのであって、どこに「主体的」な選択があっただろうか。沖縄は言う
までもなく、横田や厚木など、米軍基地のある自治体で騒音訴訟が起こされたように、
住民は静かに夜を過ごす権利を侵され続けてきた。「日本人」という抽象的な言葉を
使って、安全保障の基本問題を議論するのはいかがなものだろうか。メリットとデメ
リットという二分法ではなく、安保条約のもつ構造的な問題性を、より実態に即して
検証することが求められているのである。

 なお、拙稿は、研究室での1時間ほどのインタビューを、編集部がまとめたもので
ある。インタビューは4月21日であり、鳩山内閣の辺野古決定の2週間前であるこ
とも申し添えておきたい。


        <迎合、忖度、思考停止の「同盟」>

        続きを下記URLにてお読みください
        「平和憲法のメッセージ=今週の直言」



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