日本図書館協会が「はだしのゲン」閲覧制限撤廃を要望。「検閲」と 松江市教委に (全文を追加)

2013-08-23 20:13:49 | 社会
松江市教育委員会が漫画「はだしのゲン」の閲覧制限を市立小中学校に求めた問題で、全国の図書館でつくる日本図書館協会は22日、「自主的な読書活動」を尊重する観点から、閲覧制限の撤廃を求める要望書を松江市教委に送った。

 要望書は、米国の図書館協会が年齢による利用制限を「目立たない形の検閲」としているのを引用し、松江市教委の対応を批判した。

 また「蔵書を読みたい子どもが教師の許可を求めるのは心理的負担が大きく、場合によっては読むことをあきらめる」と指摘。「学校図書館の自由な利用がゆがむことが懸念される」と危機感を示した。

 図書館協会「図書館の自由委員会」の西河内靖泰委員長は「政治的な立場にかかわらず、制限は許されない」と訴えた。(共同)

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漫画「はだしのゲン」の描写が過激だとして、子どもが閲覧する際は教員の許可が必要な「閉架」にするよう松江市教委が全市立小中学校に要請していた問題で、社団法人・日本図書館協会(東京都中央区)は、閉架の再考を求める要望書を市教委に送った。

 送付は22日付。要望書によると、同協会が1979年に出した「図書館の自由に関する宣言」で、「ある種の資料を特別扱いしたり、書架から撤去したりしない」と明記しており、市教委の措置は学校図書館の自由な利用をゆがめる恐れがあるとしている。

 同協会の「図書館の自由委員会」の西河内に靖泰委員長は「市教委が一定の価値判断をして学校に閉架を押しつけることは検閲にあたる」と話している。

(2013年8月23日14時04分 読売新聞)

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図書館の自由に関する宣言

1954  採 択
1979  改 訂

図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする。
1. 日本国憲法は主権が国民に存するとの原理にもとづいており、この国民主権の原理を維持し発展させるためには、国民ひとりひとりが思想・意見を自由に発表し交換すること、すなわち表現の自由の保障が不可欠である
知る自由は、表現の送り手に対して保障されるべき自由と表裏一体をなすものであり、知る自由の保障があってこそ表現の自由は成立する。
知る自由は、また、思想・良心の自由をはじめとして、いっさいの基本的人権と密接にかかわり、それらの保障を実現するための基礎的な要件である。それは、憲法が示すように、国民の不断の努力によって保持されなければならない。
2. すべての国民は、いつでもその必要とする資料を入手し利用する権利を有する。この権利を社会的に保障することは、すなわち知る自由を保障することである。図書館は、まさにこのことに責任を負う機関である。
3. 図書館は、権力の介入または社会的圧力に左右されることなく、自らの責任にもとづき、図書館間の相互協力をふくむ図書館の総力をあげて、収集した資料と整備された施設を国民の利用に供するものである。
4. わが国においては、図書館が国民の知る自由を保障するのではなく、国民に対する「思想善導」の機関として、国民の知る自由を妨げる役割さえ果たした歴史的事実があることを忘れてはならない。図書館は、この反省の上に、国民の知る自由を守り、ひろげていく責任を果たすことが必要である。
5. すべての国民は、図書館利用に公平な権利をもっており、人種、信条、性別、年齢やそのおかれている条件等によっていかなる差別もあってはならない。
外国人も、その権利は保障される。
6. ここに掲げる「図書館の自由」に関する原則は、国民の知る自由を保障するためであって、すべての図書館に基本的に妥当するものである。

この任務を果たすため、図書館は次のことを確認し実践する。

第1 図書館は資料収集の自由を有する

1. 図書館は、国民の知る自由を保障する機関として、国民のあらゆる資料要求にこたえなければならない。
2. 図書館は、自らの責任において作成した収集方針にもとづき資料の選択および収集を行う。その際、
(1) 多様な、対立する意見のある問題については、それぞれの観点に立つ資料を幅広く収集する。
(2) 著者の思想的、宗教的、党派的立場にとらわれて、その著作を排除することはしない。
(3) 図書館員の個人的な関心や好みによって選択をしない。
(4) 個人・組織・団体からの圧力や干渉によって収集の自由を放棄したり、紛糾をおそれて自己規制したりはしない。
(5) 寄贈資料の受入にあたっても同様である。図書館の収集した資料がどのような思想や主 張をもっていようとも、それを図書館および図書館員が支持することを意味するものではない。

3. 図書館は、成文化された収集方針を公開して、広く社会からの批判と協力を得るようにつとめる。

第2 図書館は資料提供の自由を有する
1. 国民の知る自由を保障するため、すべての図書館資料は、原則として国民の自由な利用に供されるべきである。
図書館は、正当な理由がないかぎり、ある種の資料を特別扱いしたり、資料の内容に手を加えたり、書架から撤去したり、廃棄したりはしない。
提供の自由は、次の場合にかぎって制限されることがある。これらの制限は、極力限定して適用し、時期を経て再検討されるべきものである。
(1) 人権またはプライバシーを侵害するもの
(2) わいせつ出版物であるとの判決が確定したもの
(3) 寄贈または寄託資料のうち、寄贈者または寄託者が公開を否とする非公刊資料

2. 図書館は、将来にわたる利用に備えるため、資料を保存する責任を負う。図書館の保存する資料は、一時的な社会的要請、個人・組織・団体からの圧力や干渉によって廃棄されることはない。
3. 図書館の集会室等は、国民の自主的な学習や創造を援助するために、身近にいつでも利用できる豊富な資料が組織されている場にあるという特徴を持っている。
図書館は、集会室等の施設を、営利を目的とする場合を除いて、個人、団体を問わず公平な利用に供する。
4. 図書館の企画する集会や行事等が、個人・組織・団体からの圧力や干渉によってゆがめられてはならない。

第3 図書館は利用者の秘密を守る
1. 読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない。ただし、憲法第35条にもとづく令状を確認した場合は例外とする。
2. 図書館は、読書記録以外の図書館の利用事実に関しても、利用者のプライバシーを侵さない。
3. 利用者の読書事実、利用事実は、図書館が業務上知り得た秘密であって、図書館活動に従事するすべての人びとは、この秘密を守らなければならない。

第4 図書館はすべての検閲に反対する
1. 検閲は、権力が国民の思想・言論の自由を抑圧する手段として常用してきたものであって、国民の知る自由を基盤とする民主主義とは相容れない。
検閲が、図書館における資料収集を事前に制約し、さらに、収集した資料の書架からの撤去、廃棄に及ぶことは、内外の苦渋にみちた歴史と経験により明らかである。
したがって、図書館はすべての検閲に反対する。
2. 検閲と同様の結果をもたらすものとして、個人・組織・団体からの圧力や干渉がある。図書館は、これらの思想・言論の抑圧に対しても反対する。
3. それらの抑圧は、図書館における自己規制を生みやすい。しかし図書館は、そうした自己規制におちいることなく、国民の知る自由を守る。
図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。
1. 図書館の自由の状況は、一国の民主主義の進展をはかる重要な指標である。図書館の自由が侵されようとするとき、われわれ図書館にかかわるものは、その侵害を排除する行動を起こす。このためには、図書館の民主的な運営と図書館員の連帯の強化を欠かすことができない。
2. 図書館の自由を守る行動は、自由と人権を守る国民のたたかいの一環である。われわれは、図書館の自由を守ることで共通の立場に立つ団体・機関・人びとと提携して、図書館の自由を守りぬく責任をもつ。
3. 図書館の自由に対する国民の支持と協力は、国民が、図書館活動を通じて図書館の自由の尊さを体験している場合にのみ得られる。われわれは、図書館の自由を守る努力を不断に続けるものである。
4. 図書館の自由を守る行動において、これにかかわった図書館員が不利益をうけることがあっては ならない。これを未然に防止し、万一そのような事態が生じた場合にその救済につとめることは、 日本図書館協会の重要な責務である

(1979.5.30 総会決議)

図書館の自由に関する宣言/日本図書館協会

日本図書館協会

平成25(2013)年8月22 日

松江市教育委員会委員長 内藤 富夫 様
松江市教育長 清水 伸夫 様

(社)日本図書館協会 図書館の自由委員会
委員長 西河内 靖泰

中沢啓治著「はだしのゲン」の利用制限について(要望)

 松江市立小中学校52校のうち39校の学校図書館が中沢啓治著「はだしのゲン」の単行書全10巻を所蔵しています。
報道によれば、昨年8月に一市民が市議会に「子どもたちに誤った歴史観を植え付ける」として同書を学校図書館から除去することを求めて陳情し不採択とされたところ、松江市教育委員会は 12月の校長会で、旧日本軍が中国大陸で中国人の首を斬ったり性的暴行を働く「過激な描写」が「子どもの発達上、悪影響を及ぼす」として、学校図書館において児童生徒への提供を制限するよう要請し、現在、全学校図書館が全10巻を書庫に入れ、児童生徒が閲覧するには教員の許可を、校外貸出しには校長の許可を得なければならないとされています。

 貴委員会は「閲覧や貸出しの全面禁止でなければ、(日本図書館協会が表明する)図書館の自由を侵さないと独自に判断」されたと報道されています(「中国新聞」8月19日)。
 しかしながら、日本図書館協会「図書館の自由に関する宣言」(1979年、総会決議)は、図書館は国民の知る自由を保障することを最も基本的な任務とし、図書館利用の公平な権利を年齢等の条件によって差別してはならず、「ある種の資料を特別扱いしたり、書架から撤去したりはしない。」と明記しています。

各国の図書館專門機関による国際図書館連盟は、図書館はすべて利用者に資料と施設の平等なアクセスを保障しなければならず、年齢等の理由による差別があってはならないとしています(IFLA Statement on Libraries and Intellectual Freedom 1999)。
学校図書館の蔵書についての紛争や裁判を数多く経験するアメリカ合衆国の図書館協会は、年齢によって図書館利用を制限することを戒め、貴委員会と同種の提供制限措置を「目立たない形の検閲」であるとしています(Intellectual Freedom Manual 2010)。
 学校図書館において利用が制限されている蔵書を読みたい子どもが、教師さらに校長の許可を求めることの心理的負担は、とても大きいのではないでしょうか。

子どもたちはその本を読むことが教師や校長から良くないことだと思われると受け止めるのではないでしょうか。
そして場合によっては、読むことを諦めるのではないでしょうか。
子どもたちは、学校図書館を、蔵書の内容によっては自由に手に取り、読むことを抑制する場であると受け止めるのではないでしょうか。
学校図書館の自由な利用が歪むことが深く懸念されます。

 「児童の権利に関する条約」(1989年11月20日,国連総会採択.1994年3月29日国会承認)第13条は、子どもは「表現の自由についての権利」と「あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由」を保障されるとしています。
同条第2項は、この保障が除外される場合として「法律によって定められ、かつ次の目的のために必要とされるものに限る」として「(a)他の者の権利又は信用の尊重 (b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」としていますが、本件図書はこの除外要件には該当しないでしょう。

 子どもの読書活動の推進に関する法律(平成13年法律第154号)は、「子どもの読書活動は、子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものであることにかんがみ、すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行うことができるよう、積極的にそのための環境の整備が推進されなければならない。」として、その推進を国や地方公共団体に求めています。

 貴委員会におかれては、いちはやく全小中学校の学校図書館に専任の職員を配置され、子どもたちの読書活動の環境整備に努められています。
 子どもたちの「自主的な読書活動」を尊重する観点から本件措置を再考され、読書活動の環境整備をよりいっそう推進されますよう、お願い申し上げます。



「児童の権利に関する条約」(外務省)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/zenbun.html

子どもの読書活動の推進に関する法律(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/dokusyo/hourei/cont_001/001.htm



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